Episode 10 : 戦艦ジークフリート
【ジークフリート】
悪竜ファフニールを打ち取ったとされる神話の英雄。
ファフニールを倒した際に魔力のこもった血を浴び不死身となった。
その身はいかなる武器も受け付けない強靭なものだったとされる。
惑星ベイズの宇宙港で見た銀色に輝く船。
全長300mほどの見たこともない駆逐艦。
最初、それがミッシェルの船だと思っていた。
確かにそれは半分正解だったが、半分不正解だった。
今のっているこの駆逐艦――レマラ級駆逐艦は自己転移可能艦であり、あくまでこれから向かう場所への連絡艇に過ぎない。
『“ジャンプ”します。衝撃に備えてください』
上部のスピーカーからこの艦の艦長の注意が聞こる。
ジャンプ――自己転移艦に限らずワープを使うときに使われる言葉だ。
超長距離間を飛ぶこの移動方法は安全が確立されていて失敗することは無いとされている。
それでもワープするときに少なからずの衝撃が船体を襲う為、立っていると転んで怪我する可能性があるのだ。
その為ワープ時には注意を促すことが義務になっている。
席についている安全ベルトを締めた次の瞬間、軽い衝撃が全身を包み込んだ。
窓に映る淡い青い光、ワープゲートなどを通る際に発せられる光だ。
数秒間光り続けた後淡い光が消えた。
窓の方に顔を向ける。
窓から見える星空から既にローン公国の宙域でないことが直ぐにわかった。
「そろそろ<ジークフリート>が此処からでも見えるぞクレア」
<ジークフリート>、今から俺達が向かう場所だ。
隣に座っていたミッシェルが俺の肩を軽く突き教えてくれた。
「もう見えているのか?」
窓の外には別段変わったところがない唯の星空しか見えない。
「いや、見えている。もう少し近づけ分かるはずだ」
俺は目を凝らした。
やはり別段変わったところは無い。
しいて言うなら緑色に光る星が見えるようになってきただけだ。
「いや、やっぱり星しか見えないぞ?」
俺が舷窓に顔を張り付けて探しているのを見て、ミッシェルが俺に手を貸してくれた。
「緑色の星が見えるか?」
緑色に光る星は確かに見える。
ただ他に何個も見えるからどれがそうなのかはよく解らない。
今度は緑色の星たちだけを目を凝らして眺める。
すると一つだけおかしな光り方をしている星を見つけた。
いや、正確には星ではない。
それこそが<ジークフリート>だったのだ。
「見えたか?」
「ああ、でも小さくないか?」
「まだ少し遠いからな」
その言葉に俺は少しあと、納得することになった。
接近するにつれ横長の船体が見えてきた。
そしてそれが<ジークフリート>の左舷の形であることがだんだんとわかってくる。
さらに近づくにつれ、俺は<ジークフリート>の巨大さに唾を飲み込まずにはいられなかった。
「なあ、全長は一体いくつなんだ?」
巨大すぎる船体に釘付けになった俺はミッシェルに尋ねる。
「16000mだ」
その言葉を聞いた俺は、目を見開いて固まった。
16000m――全長16キロ。
あり得ない。
そんな船は今まで見たこともない。
俺が見た一番でかい艦船は今目の前にある艦船の半分以下にも満たない大きさだった。
旧時代的な戦艦のフォルムを持ったそれは色は深緑で、若干後方中央部には艦橋がそびえ立っている。
そして側面にはいくつもの黄色く光る光点が見え、それが舷窓だという事がすぐさま分かった。
旧時代の戦艦で言う甲板に当たる部分には巨大な砲塔が全部で5門見える。
そして艦の中央側面にも同種の砲塔がこちらから1門見えた。
更に俺達の乗る艦が<ジークフリート>に近づいてくにつれ、既に艦の全体像を把握することが難しくなっていた。
圧倒的だった。
幾らなんでも巨大すぎる。
「でかすぎる……」
「私の艦を気に入ってくれたかな?」
「こんなものいつ造った?」
「第3次海峡戦争の後、私が【コマンダーズ】を設立する少し前からだ。だからまだ少し未完成の部分もある」
「こんなにもでかいもの作ってるなんて聞いたこともない」
「もちろん何処にも知らせてなどいない。私が秘密裏に作っているからな」
「こんなにでかい物を見つからずに造るなんてできるのか?」
「ああできる」
おかしい。
こんな巨体なら、近くを通った艦船が積まれたレーダーで見逃すはずがない。
「どうやって」
「此処に来る方法。と言えば理由が分かるか?」
ここに来る方法――
「自己転移艦を使ったことに意味が?」
「ああ、ある。この周辺にはワープゲートが存在していない」
ワープゲートが存在しない。
じゃあどうやって建設を……
「私の艦隊はすべて自己転移艦だ。もちろん<ジークフリート>も例外ではない」
「なっ――」
ばかなっ。
自己転移艦は連邦に数隻しかないはずだろう。
なぜここに集中しているんだ。
「私は秘密裏にこの艦隊をつくりあげてきた。もちろんそれはウィーズボストで酒におぼれる毎日を送っている政治家どもは知らん」
秘密にし続けているってことか。
でもそれじゃあばれたときどうなるんだ?
「ばれたら、ただじゃ済まないだろう」
「問題はない。その時は公表してやればいい」
「そんなことしたら……」
「ふっ、問題はないさ。奴らには『国防戦力増強の為に造らせた』とでも言わせてやればいいさ」
「それで納得するのか?」
「もちろん根回しは必要だが、別にそれを君が知ったところで意味はないだろう」
ミッシェルが何を考えているかは分からなかった。
だがしかし、辺境の一士官がここまでのし上がってきたのにはそれなりの理由があるという事だけは理解できた。
そしていつの間にか、目の前はすでに全面深緑に覆われていた。
<ジークフリート>の外殻だ。
ここまで来ると小さな砲座も見える。
驚きなのは小さい砲座ですら、今のっている駆逐艦が丸々入りそうな大きさだ。
ここまで来ると駆逐艦の速度は減速して<ジークフリート>の外壁にさらに接近している。
「何処に接続するんだ?」
「接続?いや、この艦は<ジークフリート>に格納されている艦だが」
「格納って」
「入れるためのドッグがあるんだよ」
300m級の駆逐艦を格納することが可能な艦船――
ぞっとしないな。
『第24番ドッグに侵入します』
艦長の声とともに舷窓から眩い光が溢れ出してきた。
窓には宇宙港の縮小版の様なドッグが見える。
「クレア、出るぞ」
ミッシェルが俺の肩をたたいた。
窓の外をもう少し眺めていたかったが、俺は荷物をまとめ席を立ち、出口へと向かった。
× × ×
ボーディング・ブリッジを通り抜けると、そこは広い受付エリアだった。
其処には2人の連邦軍の制服に身を包んだ人物が楽しそうに話をしている姿があった。
「お疲れ様でした議長閣下」
そのうちの連邦軍大佐の制服に身を包んだ男がそう言い近づいてきた。
「ああ、問題はない。良い腕だったぞ艦長」
なるほど彼があの駆逐艦の艦長だったのか。
「それとあなたもお疲れ様でした。楽しんでいただけましたか?」
大佐は俺の方にも振り向き尋ねた。
俺は「とてもいい船旅だった」と答える。
「そうですか、それはよかったです。では失礼します」
大佐は俺達に海軍式の敬礼をすると受付エリアの奥の方へと消えていった。
そんな彼の姿を見送りつつ俺は周辺を見渡していた。
今まで乗った船と一番違う印象は、ここが船の中にはとてもじゃないが思えないという事だ。
エンジンは外から見たとき動いていた。
しかし中ではエンジンの振動一つなく音がない。
ドッグがあるという事もあり、まだ起動エレベーターの中なんじゃないかと思うほどであった。
「船の中だとは思わんだろう?」
「はい」
「だろうこの第24番ドックは、レマラ級駆逐艦を格納するために広く作ってある。そしてこれと同様のドッグがあと2か所、800m級までの艦を一隻だけ格納できる、第56番ドッグがある」
「そんなにも」
驚きだ、この艦艇は同時に4隻もの艦船を格納できてしまうらしい。
「それだけで驚くことはない、この艦の最大の特徴はそこじゃないんだよ」
「それはどういう事だ?」
これ以上の驚きなどどこにあるんだ。
俺は若干疑いの視線をミッシェルに送る。
するとミッシェルがそんな俺を見て鼻で笑い、話を続けた。
「この艦はな、戦艦でありながら連邦のどんな空母よりも艦載機を積んでいる」
「艦載機を、か?」
「ああ、9万機だ」
「きゅ、9万機⁈ 」
その数に俺は絶句する。
9万機、明らかに戦艦の乗せる数じゃない。
一般的な連邦の使う空母に搭載されている数は3万機である。
その約3倍もの数が搭載されている何て、やはり正気の沙汰じゃない。
「そんなにも載せて何をするつもりなんだ?」
「国防力の増強だよ」
「―――それでも一隻に入れる数じゃ」
「無駄話はここまでだクレア。お前には個々の生活に適応してもらわなければいけない付いてこい。」
ミッシェルはそう言い放つと、足を奥へと延びる通路へと運んでいく。
一体、彼は何をしようというのだろうか……
ミッシェルに連れてこられたのは、真っ白で広い空間だった。
「ここは?」
「仮想訓練空間だ」
仮想訓練空間――バーチャルリアリティスペース。
直径500mにも及ぶ半円状の空間で、内部は余りの白さに形が把握できなかった。
そのせいか入った瞬間、バランスを崩しそうになりミッシェルに助けてもらった。
「さて、今から戦闘訓練をして貰い、お前の現在の戦闘能力を評価する。その後にお前の体力状況などのモニターを行う。」
「つまりここでの結果で俺の扱いが変わるってわけか?」
「いや、対して変える気はない」
「そうか。じゃあ、単順に状況を把握するためだけか」
「ああ、そうだ。君は此処に残れ、私は別室でモニターさせてもらう」
「わかった」
ミッシェルは俺から手を離し、軽く手を振りながら入口の方へと消えていった。
そして入口が閉まると白い空間は、どこまでも果てしなく続く空間に見えた。
『では、クレア・ハーミット。あなたの能力テストを行います』
頭に着けた小型リンクから聞こえる合成音声が俺にテストの実施を告げた。
ご一読ありがとうございました。




