幸せな男 2
青山が望んだ能力。
それは戦闘系のものではなかった。
青山は真と同じく全知を望んだ。
青山は理解していた。
自分が戦いたいのは真。
だが、倒さなければならないのは緑なのだということに。
そして自分が理論を残したことによって他の世界に迷惑をかけるだろう。
その予想はオージンに会った事によって確信へと変わった。
青山は決断した。
真との決着をあきらめることを。
倒したい相手ではなく、倒さなければならない相手を選んだのだ。
その手段として選んだのが全知である。
全知は強力な能力だった。
魔法や腕力という限定された能力ではなく、青山の知性を持ってすれば真理の全てにアクセスできるのである。
その代わりに青山は代償を払わなければならなかった。
配役のオージンの席はすでに埋まっていたからだ。
知性を選んだことによって、本来与えられる能力を放棄に加えてパラーメータの調整をしなければならなくなったのである。
青山は自ら望んで肉体的な能力の全てを犠牲にした。
ロキ戦の後から、限界まで鍛えられた体は徐々に力を失って行った。
恐らく、ロキ戦まで本来の強さを維持できたのは、前の周のオージンが何かをしてくれたのだろう。
それでも青山は満足だった。
あれから真とは何度も手合わせをした。
何度も勝利したし、何度も敗北した。
その後、足が満足に動かなくなり杖が必要になった頃。
全治の能力を使い、わずか一年で国を立て直したのを確認して、ニキータたちに国を託した。
建国の英雄である魔王の名はソビエトに永遠に語り継がれることになった。
国を後にした青山は研究員として学園に研究員として就職。
同時期に研究者兼大学生になった真を指導教員として虐める毎日を送っていた。
車椅子が必要になった頃、正式に美咲と結婚。
その後は小康状態が続いている。
それは美咲の献身的な介護が少なからず影響していた。
美咲がサポート役についたのもオージンのサービスなのだろう。
青山は知っていた。
集団を相手にするときの最強とは個人の強さではない。
集団を勝利に導く能力なのだ。
集団の歯車になり、誰がどう貢献するのかという視点。
だが青山はリーダーになろうとしてはいなかった。
リーダーの席はとうに埋まっている。
あれは真の席だ。
青山がしなければならないのは参謀役だ。
必要なのは圧倒的知性。
肉体的強さなど必要ないのだ。
「いいのかの?」
オージンは青山の意思を再度確認した。
だが青山は躊躇などしなかった。
美咲の前で再度同じ意思を発した。
思えば、そのときに美咲は青山に惚れたのかもしれない。
戦力を犠牲にしてに知性を得た、異世界で最も脆弱だが最も強い男。
それが今の青山である。
「出川さん。俺は自分の全てを犠牲にしてこの世の全てを得た。失ったのは元手。得たのは天文学的な利益。経営者としてみたらいい買い物だろ?!」
何も言えない。
企業の論理を人間に適用するほどディーノは非常な人間ではなかった。
それも友人に言えるはずがない。
「相変わらず甘いヤツだな。出川さんは……でも、あんたのことは嫌いじゃない」
誉め言葉なのだろう。
青山は少し照れたように笑った。
「頼む。真に力を貸してやってくれ。アイツはまだ子供だ……大人の助けがいる。あいつの周りには子供と子供のような大人しかいないんだ」
「青山さんも含めて」
「ああ……俺も大人にはなりきれなかった……」
「俺もだよ。50にもなるとわかるんだ。人間は一生完全な大人になんかなれないって……人格の完成なんてホントはないんだよ」
「そうか……」
ディーノは初めて青山という男の事がわかったような気がした。
これが青山の本来の姿なのだろう。
何かのために自分を差し出すことができる優しい男。
青山は本当は冷たい人間なんかじゃなかった。
完璧な男でもなかった。
バトルジャンキーでもなかった。
孤独をずっと悩んでいた、ただの青年だったのだ。
「だけどな……ダチを助けるのが不良ってもんだろ?」
ディーノが手を差し出した。
それを青山はそっと握る。
「出川さんがいてくれてよかった。……でも不良と書いてワルと読むのは古すぎて恥ずかしい……」
「オレは好きだけどなー。そういうノリ」
美咲が初めて口を開いた。
ディーノは彼女の事を緑の一族の出身だと聞いていた。
だが、思い込んでいた姿とは違った。
ディーノには彼女は優しい女性に見えた。
「ああ、ミサ。そうだな。それがいいんだな」
「お前と同じで?」
「そうだ。俺と同じでだ」
幸せそうに笑う二人。
それを見てディーノの胸に暖かいものが流れた。




