幸せな男 1
「諸君!!! ようやく我々はエロ・ゲの入り口に到着した! これからプロジェクトを開始する!」
講堂で演説するのは緑真。
「ジーク真!ジーク真!ジーク真!ジーク真!ジーク真!ジーク真!ジーク真!ジーク真!」
熱狂する生徒たち。
それを見てどん引きするディーノ。
「さすがに若いな……俺も高校生の頃こうだったのか……」
そう呟く、すっかり年を取ったディーノに真は囁きかける。
「年下のお姉ちゃん……」
その言葉を聞いた瞬間だった。
ディーノの中で今まで忘れていた情動が蘇った。
熱いパトスが漲り、それが重度の糖尿病で朝昼晩の一日三回インシュリン注射薬を必要とする体に活力を与えた。
あの友人に囲まれ、始めて暴力以外で尊敬された青春の思い出。
それが力を呼び起こしディーノの体にほとばしった。
「やるぞ……」
「やっとやる気になったか。先輩」
「ああ、エロゲの開発によって性欲という名の情熱を持て余した生徒たちを短期間でIT土方に育成する……乗ってやる! 乗ってやるとも! 人類統一連合の全ての力と人材を使え!」
手を取る二人の手に麗亜が上から手を合わせる。
ここに科学と魔法が出会い時代の変革が始まったのである。
そう三人だったのだ。
それに違和感を感じた
「ところで青山さんは?」
「ああ、いるよ。会ってくか?」
そのとき真の表情が少しだけ曇ったのをディーノは見逃さなかった。
美少女顔の真の顔が異常なほど色っぽかったからである。
「真ちゃん。青山さんに何があったんだ?」
「うんまあちょっとね……見ればわかるよ。それに隣だしね」
ディーノは真に連れられ、隣の部屋に向かった。
そこには「研究室 青山」と書いてあった。
「青山さん。真です。失礼しますね」
真がノックをしてから引き戸を開けズカズカと乗り込んでいく。
室内は薄暗い。
「おお、真か。どうした?」
精彩を欠いたしわがれた声。
これがあの青山の声なのか?
「うん。ディーノ先輩が来たんだ」
「ああ、わかった。ミサ頼む」
きい。きい。きい。
軋んだ音がした。
車輪がついた椅子が暗闇の中に見えた。
それは車椅子だった。
「久しぶりだな。出川さん……」
車椅子に乗った男が懐かしそうにそう言った。
「あ、青山さん……あんた……」
「ああこれか。大丈夫だ。死ぬような病気じゃない」
笑顔を浮かべる男。
極限まで鍛えられた肉体はもうそこにはなかった。
骨が見えるほどに痩せ細った身体。
身長も低く見える。
いや実際に縮んだのかも知れない。
こけた頬。
まるで往生を待つ老人のような姿。
最も弱い生き物がそこにはいた。
だがその眼光だけは異常なほど鋭い。
ディーノにはこれがあの青山と同一人物だとはどうしても思えなかった。




