変身7
フェオドラたちは鎧の集団と戦っていた。
鎧の集団は各人の知り合いだった。
「アネさん……アネさん……タスケテ……コロシテ……」
三人の男。イングリッド、いや桃井の組織の幹部だった三人。
「みんな今助けてあげる!」
新しい装備の使い方が頭の中に流れ込んでくる。
イングリッドが頭の上に手をかざす。
すると光とともにハルバードが現れる。
ゆっくり息を吸い呼吸を整える。
そして一気に間合いをつめ容赦なくハルバードを振りぬいた。
「アネさん。ありがとう」
三人がが光となって世界に溶けた。
イングリッドは周りを見渡す。
ああそうか。囲んでいるのは自分の部下たちだ。
本当だったらオージンとヴァルホルにいるはずの戦士たちなのだ。
不思議と怒りの感情は湧き上がらなかった。
全ての魂を開放すること。
それが自分のやるべきことなのだ。
イングリッドはそう自覚した。
イングリッドは休み無くハルバードを振るう。
それは地獄から死者を解放する光の渦を作り出す。
安堵した顔を浮かべながら世界に溶ける死者たち。
楽しく語り合った仲間たち。
一緒に緑を倒そうと誓い合った仲間たち。
自分のわがままに最後まで突きあってくれた仲間たち。
光はどんどん強くなりイングリッドを包んだ。
フェオドラは己の体を炎で包む。
それは浄化の炎。
炎は亡者を包み地獄から開放していく。
「赤口君。幸せになりなさい」
議長の声が聞こえた。
もちろんだ。
私は本当の意味ではリーダーになれなかった。
それでいい。
真のためにさえなればそれでいい。
そう覚悟を決めたフェオドラ。
フェオドラの炎が踊る。
炎の柱が上がり次々と亡者を飲み込んでいく。
亡者を飲み込むたびに炎は勢いを増した。
黒沢麗亜はフェオドラやイングリッドと比べれば非戦闘員に属する。
本来なら戦闘に参加できるとは思えなかった。
だが自分が何をすべきかわかっていた。
黒の鎧を身に纏ったとき全てを理解した。
自分が何者なのか?ただの人間、黒沢麗亜がなぜ異世界でスキャンが使えたのか?
なぜ脳内のコンソールから自分の半身にアクセスできたのか?
地下に向かう。
そこに自分の武器がある。
電子を司るヴァルキュリアたる自分の半身が。
走りながら脳内でコンソールを起動する。
プログラムを検索。
自分の半身を探す。
無数にあるファイル。
そこにいるはずなのだ。
情報を喰らうプログラム。そう。それは自分。
最初から存在しずっと自分はそこにいるのだ。
見つけた。
麗亜はHDDという迷宮の最奥。
元の自分の住んでいた領域。そこにたどり着いた。
そこはありとあらゆるデータを喰らった怪物が存在する広大なディレクトリ。
それは自分の半身。
それに語りかけた。
「迎えにきました。私」
「待っていました。私」
脳内に流れて着た映像の自分。それに手を伸ばす。
自分の手を握ると自分がデータと融合していく。
頭の中に流れてくる情報。
HDDと脳がリンクされる。
「ああ私はやっと人間になれるのですね」
「そうですね。ミッションコンプリートおめでとうございます」
「ところでこれは重要な質問です。真君の事は好きですか?」
「はい。たぶん愛してるのではないかと分析します。キャーダイスキーブチューって感じではありませんけど」
「フェオドラ姉さまから奪ってしまいたいほどですか?」
「そうかも。でも……できればシェアさせてもらいますけどね。
あのメンツと喧嘩しても勝てませんし、けっこう真ちゃんって面倒な性格ですから押し付けたいときありますし」
「私がいれば勝てるかもです」
「いえいえ。喧嘩する気力が無いんです。ほら私、モブですし」
「またまたご謙遜を……」
「うふふふふふ」
あらゆるデータを飲み込んだプログラム。
その情報が一気に流れ込んで来る。
麗亜は自分とプログラムが一体化したことを感じた。
「さてリンク完了です。最後に言い残すことはありますか?」
「うーん……特に。死ぬわけじゃないですし。あー!そういやありました」
「なんですか?」
「ロキをぶん殴ってください!」
「はーい!らじゃりました!」
奇妙な自分どうしの会話。
それを経て二人は一人になった。
そうして麗亜は地下室への扉にたどり着く。
だがそこには人の影。
「ヒルダ姉さま……」
そこには鼻血を出しながら鬼の形相で剣を握るブリュンヒルデ。
「わ、私は私以外が幸せになるを許さない!殺す殺す殺す殺すぅ!」
剣をめちゃくちゃに振り回しながら麗亜に迫るブリュンヒルデ。
麗亜は思った。無理無理無理と。
あそこまで壊れたヤツとどう戦えというのだ。
言ってる内容は最低そのものなのだがブリュンヒルデは本気なのだ。
余計にたちが悪い。
本気でそう思った。
麗亜は地下室の入り口から背をむけ死ぬ気で駆け出す。
だが直接戦闘型のブリュンヒルデは麗亜よりもはるかに速いスピードで迫ってくる。
まずい。追いつかれる!
そう思ったその時だった、何者かが横からブリュンヒルデの顔面を蹴りぬいた。
ヤクザキック。しかも踵で打ち抜いている。
「んがッ!」
白目をむきながら壁に激突するブリュンヒルデ。
ブリュンヒルデを蹴とばした人影。
それはグエンドゥル。
「グー姉さま!」
「麗亜怪我してない?」
「はい!」
「んじゃ私はこの愚姉をシメるからあとはよろしくね」
そういうとグーは白目をむいたブリュンヒルデの髪を掴みそのまま女子トイレの方へ引きずっていく。
昭和のヤンキーか。
そう麗亜は心の中だけでツッコミを入れた。
麗亜は地下室の階段を駆け下りる。
地下室にあるロボ。
そう自分の体。
そして神の力を手に入れた真に伝えなければならない。
巨人の正体を。
異世界からの侵略者の正体を。
なぜ強大な力を持つアース神族が無条件でラグナロクに負けるのか。
それを今度こそ打ち明けるのだ!
麗亜は自分の分身であるプログラムを起動する。
すると轟音が鳴り響き、煙を上げながら外装が剥げていく。
中から出てきたのは元のいかがわしいデザインのロボではなく、シンプルで力強いデザインのロボ。
「行きますよ。ヘイルダム!」
そう言うと麗亜はヘイルダムに吸い込まれていった。




