変身8
エイトことサクラはフェオドラを眺めていた。
強い光を放つ美しい炎。
彼はこの世界で綺麗になった。
彼に殺されたいとサクラは思った。
本来亡者には個はない。
全ての意識が魂の奥でつながりヘルの管理下にある。
意識が溶けた魂の海。
苦しみだけは強烈に共有され鋭敏により強くより残酷に魂を抉る。
いつしか死を願う思いだけが頭を占める。
それがヘルの管理する地獄。
そこから真や私たちの関係者だけがロキの奴隷として助け出された。
ある程度の個を持ちながらも意識事態は共有された存在として。
サクラは共有された意識の管理人であった。
なぜかロキに気に入られていたのだ。
偽者のロキ。ロキという役柄に適応できなかった哀れな男。
緑そのものになろうとして失敗した愚かな男。
その最後が迫っていた。
それは同時に自分の死を意味していた。
所詮はかりそめの生。
ここで終わらすべきなのだろう。
全ての感情を飲み込み剣を抜く。
ああ、今日はなんていい日なのだろう。
友人たちの晴れ姿を見れるのだから。
「……!」
どこからか声がした。
「ママ!」
ああ。一番会いたくなかった声だ。
サクラは恐怖すら感じた。
「……ニケ」
「ママ!」
なるべく平静に。
そう、なるべく平静にしなければならない。
いつものあのフレーズだ。
そうサクラは自分に言い聞かせた。
「ママって言うな。サクラと呼べといつも言ってるだろ」
そこまでは言えた。
そしてサクラの息が詰まった。
自分の意思とは関係なく嗚咽が漏れる。
「ママ!私知ってるの!
全部知ってるの!私もジークフリードのノードの一つなの!
ママが何を考えてるか……あの人は救えない!
ロキは救えないの!」
物語はロキに移る。
◇
ロキことXXX(なぜか名前を思い出せない)のグリーンである緑真は異世界に辿り着いた。
一緒にいるのはレッド、ブルー、ピンク、イエロー。
仲間全員がいた。
彼らはテンプレ通りに王女が襲われているところを偶然助け、レッドは貴族になった。
そしてレッドはハーレムを築き戦場で手柄を上げ、王女と結婚し王に即位する。
しかし、真とイエローは途中でドロップアウト。
とある村で農民として生きていくことを選んだ。
二人は寡黙な夫と気立てのいい妻として村に受け入れられた。
それなりに幸せな生活。
それはある日破壊される。
空から現れた巨大な黒い立方体。
オタであるオージンの真ならツッコミを入れただろう。
スタートレックか!と。
辺りを無差別に焼き尽くす宇宙船。
真が10年かけて築いた牧場は村とともに一瞬で消滅した。
そしてロキは目撃した。
宇宙船から降下する機械の兵士たち。
全員が緑真と同じ顔。
侵略者は緑だったのだ。
ロキとイエロー夫婦はレッドの元に馳せ参じた。
この頃には異世界に愛着が沸いていたからだ。
それが巨人である緑との最終戦争の始まりだった。
だがレッドは知らなかった。
テロリストに洗脳された少年兵の末路を。
常識を一切学ぶ機会のなかった人間の姿を。
ロキは一見すると華々しい武功を挙げた。
だがその手段は常人であれば嫌悪感を禁じえないものであった。
そして緑式の卑劣な作戦は次第に兵や武将の心を離れさせていった。
ある日、事件は起こる。
ロキは卑劣極まる手段で和平推進派を抹殺。
それを皮切りに謀略の限りを尽くすロキ。
ロキを恐れたレッドはロキを幽閉。
それを救出したのは巨人である緑。
結局、ロキは神話通りにオージンを裏切ることになった。
和平推進派というバルドルが死にヘイルダムが角笛を鳴らす。
それがラグナロクの始まり。
ロキの妻、ラウフェイであるイエローを救出するために緑を率いて出陣するロキ。
そしてそんな彼はヘイルダムと相打ちになる。
血まみれになったヘイルダム。
ロキも深い傷を負い死を待つ身になった。
ロキは己の手を眺める。
返り血で真っ赤に染まった手。
殺人で手が震えるのは初めてであった。
横たわるヘイルダム。
それは妻サクラだった。
サクラはロキである自分より赤口の側で戦うことを選んだのだ。
そう理解したときロキの人格は完全に崩壊した。
ロキは世界を呪う言葉を吐く。
生まれて初めてできた大切な存在。
それを自らの手で殺してしまった。
ロキは後悔の言葉を吐きながら獣のような叫び声をあげた。
殺したい。
アース神族を皆殺しにしたい。
この世の全てに復讐をしたい。
それだけを願いながらロキはこの世を去った。
神話通り世界は崩壊。
神々は死に世界は緑に都合のいいように再生された。
だがそれはロキには関係の無いことだった。
そして現在。
ロキは蘇った。
自分とは違い幸せそうな自分や赤口にただ力を譲り渡すために。
それは許せなかった。
それだけは邪魔したかった。
だから緑のように振る舞った。
そんなロキにも誤算があった。
この世界のサクラはすでに死亡していたのだ。
ロキは考えた。
これはサクラを手に入れるチャンスではないかと。
死者の国を管理する前の周のヘルに掛け合い、サクラの魂を手に入れる。
それだけではなく人質として死者の軍団を譲り受けた。
ロキは前の周のオージンの企みをぶち壊すことで復讐を企んだ。




