学園の戦い5 戦闘 後編
黒く光る水玉模様が見える。
酸欠を起こし始めたのだ。
真は決断を求められていた。
――最初からこれ狙ってたのかよ!仕方ない!もう一つの魔法を使う!
真は相手に悟られないようにごく小さい魔法陣を描く。
そして掌で締め付けられている足の腿の部分を軽く叩く。
その瞬間、イングリッドの足に電流が走ったかもような痛みが走る。
「なッ何?!」
痛みを感じた瞬間、ももの筋肉が痙攣を起こし自己の意思とは無関係に収縮する。
力は一切入らず、だが全力で痙攣しながら筋肉がおかしな方向に縮んで行くのが感じられた。
驚くイングリッドの隙を突いて真は無理やり手と頭を引き抜き間合いを取る。
「な、何をしたの?」
「点穴……って言ったら信じる?」
点穴。
ツボをつき体内の気を乱して動けなくする技。
中国人のドリームテクニック。
もちろん大嘘だった。
実際は鎧越しに筋肉に電気を流したのだ。
要するに筋肉を狙ったスタンガンである。
よろよろと起き上がる鎧。
――アレ喰らって起き上がれるのかよ!
足の筋肉はまだ痙攣しているはずだ。
それでも起き上がることができるのだ。
「点穴ねえ……リンちゃん……嘘つきなんだねぇッッッ!」
真は鎧の目が光ったかのように感じた。
背中に冷たいものが走る。
「ごめんね……足痛いし全力で行くね」
ヤバイたぶん死ぬ。いや確実に死ぬ。
そう真は確信した。
鎧から込み上げる異様な圧力。
それは押しつぶされるようなほどの殺気。
真は殺気を一身に浴びる。
真は目を見開き魔法陣を描いた。
――ガウスキャノン改ッッッ!!!
いくつかの小さな金属の杭を空中に放り投げる。
同時に瞬時に魔法陣を描く。
雷を呼び、それによる磁力のレールを敷く。
レールに沿って杭を猛烈な勢いで回転させながら射出する。
放たれたのは小さな金属製の杭。それらが音速で目標に突き進む。
それは鎧の後ろにいた怪物の眉間と喉を正確に射抜いた。
◇
殺気を浴びたその瞬間だった。
真は圧倒的な殺気の中に別のものが混じっていることに気がついた。
その気配に気がついた真は鎧以外を観察した。
すると鎧の後方、大きな蛮刀を振りかざす怪物の姿が見えたのだ。
――ジェニファーに気を取られすぎてた!
真は焦った。
目の前の化け物のような戦闘力の存在に集中しすぎて全く気がつかなかったのだ。
この夜の真は少しおかしかった。
救助に走り、敵対行動をするものに手加減をした。
だから次の行動も論理的ではなかった。
鎧を助けることを優先したのだ。
たとえ助けた相手に殺されたとしても。
◇
怪物を殺した瞬間。
鎧が滑らかな歩法で一瞬で間合いをつめてくるのが見えた。
圧倒的な殺気を纏いながら。
手を開き、そのまま指をそろえて突き出してくる。抜き手である。
そのまま、滑らかに駆け出した足を地に落とす。
音はしない。だが、ズウウウゥゥゥゥンッッッ!という振動が真にまで伝わる。
見事な震脚であった。
抜き手は真を捉えてなかった。
鎧はガウスキャノンを放った真の横を通り抜け、真の後方にいた怪物を抜き手で串刺し……いや完全に破壊していた。
串刺しにされた怪物には大砲で打ち抜いたかのような大穴が開き、不幸な怪物の上半身はその反動で千切れて飛んでいた。
それほどまでの威力の一撃であった。音速を超えていたのかもしれない。
後からキイイイィィィンッという高い音がしていた。
その瞬間、お互いの脳裏には同じ考えが浮かんでいた。
『『やはり手加減されていた!!!』』
あの正確無比な銃創!やはり、リンちゃんだったか!
本当に魔法使いだった!銃を魔法で再現するなんて!しかも同時に何発も打てるのか!
音がしなかった。火薬を使わないからサイレンサーもいらないんだ!
あの精度なら板金の隙間を狙って打ち込まれる!
しかも近接格闘用の魔法まで持っているし格闘術も使いこなす!
リンちゃんが本気だったら一方的に攻撃されて死んでいたな……
本当にあのおっぱいお化けフェオドラの隠し玉なのか!!!
マジか!あの威力!怪物の上半身が吹っ飛んだぞ!素手で対物ライフルクラスの威力かよ!
しかもあの音。あの質量で技術と筋肉だけで音の壁を越えたのか!
アレ喰らったら確実に死んでた。いや近くで繰り出されるだけで吹き飛ばされていた!
完全に技のスケールで負けた!
何者なんだ!
『『本気で戦ったら死んでいた!』』
両者ともに同じ感想だった。
イングリッドは相手が自分を傷つけないように戦っていたことを理解した。
ふと、手が濡れているのに気がついた。汗だ。
異世界に来てからこんなにも手に汗握ったのは初めてだった。
イングリッドはこの汗を汚いとは思えなかった。
充足感とともに起こる相手への畏敬。
イングリッドはリン(正体:真)に友情を感じていた。
真は背中が汗でびっしょりぬれていた。
冷や汗だ。
それほどまでに驚いたのだ。
地球では薬で恐怖を緩和させていた。
異世界ではまだ死ぬような目にあっていなかった。
それが初めて死を感じるほどの相手に遭遇した。
そう真は恐怖を感じていたのだ。
真が驚いていると鎧から声がした。
「リンちゃん……」
「ひゃいッ!!!」
真の声が裏返った。
「ごめんッ!敵じゃなかった!」
「ハ、ハイ。ソウデスネ。……じゃなくて!ごめんボクこそ足に魔法かけちゃって……」
「大丈夫だよ。私、体丈夫だから」
そう言いながらジャンプしてみせる。
イモータル過ぎる……マジ不死身だ。そう真は思った。
ヘルメットを外して顔を出すジェニファーことイングリッド。
「んじゃ、学園へ行こうか!」
イングリッドは妙に元気な声になっていた。
それを見て真はガクブルしながら案内するのであった。
イングリッドは今度こそ確信していた。
彼女は敵ではないと。
助けた相手に攻撃されることを覚悟してまで自分を助けたのだから。
彼女はいいやつだ!
――真ちゃん!異世界で本気で(物理的に)ケンカできる友達見つけたよ!
まだ二人はお互いの正体を知らない。
主人公より主人公らしいヒロイン。それがイングリッドです。




