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学園の戦い3

「大丈夫か?起きろ」


イングリッドは自分が揺さぶられているのに気がついた。

誰だろう?まだ眠いのに……

そうイングリッドは思った。

その瞬間、大事なことを思い出した。


……そうだ。襲撃を受けたんだ!


ガバッっと飛び起き辺りを見回す。

目の前には女の子。しかも、かなりカワイイ。ただし、学ランを着ている。


「あ、あなたは何者ですか?!」


「うん。フェオドラのとこの下っ端」


あれ?女の子?と真は違和感を感じた。

全身を覆うごつい鎧を着て動ける女って……と密かに思ったが心の中だけで留めた。

よく見るとピンクの鎧の胴体部分にはかわいい犬の絵が描いてある。

それは具体的には何のキャラクターかはわからないが、そのデザインは元の世界で小学生の女の子が携帯ゲーム機に貼り付けているシールを連想させた。


――うさんくせーッ!


真はまたしても心の中でツッコミを入れた。

しかし、同時に真の脳裏をよぎったものがあった。

それはレトロゲームを愛する友人の姿だった。

その友人とは鎧の中身である桃井。

秋葉原でプレミア価格で売り出されていたメ○ドライブを万券を数枚使い購入。

それをまた万券数枚を使いメガ○D、メガア○プタなどの周辺機器をつなぎまくり極限まで拡張したセ○タワーにし、そこにべたべたと小学生の女の子が好きそうなかわいいシールを貼り付けた物体X。

それにまたプレミア価格で売り出されていたクソゲー四天王のうちのソー○オブソダンと惑星ウッ○ストックを光の入らない部屋で毛布を被りながら無表情レイプ目で黙々とプレイする。そんな廃人仕様の桃井。

オンライン配信?実機でやるのがいいのです!桃井はそう言い切っていた。

真はなぜかそんな光景を思い出し、鼻の奥にツンとした感触がしたような気がし、目が少しだけ潤んだ。

そんな真を見て鎧は首をかしげながら、聞いてきた。


「んー? フェオドラ女伯爵? ああ、あの魔法ヤクザ!」


イングリッドはわざとフェオドラの直接の関係者でないように装った。

目の前の女の子(正体は真)が信用できなかったのだ。

同時に注意深く観察する。


「たぶん間違ってない」


にこりと笑う小柄な女の子。

東洋系、その中でも懐かしいモンゴロイド、それも大和系の顔立ち。

髪型は黒髪で癖のないストレートヘアをショートにしている。

天然二重でまつげが長いパッチリとした目。

ローティーンの少女なのだろうか?

ノンメイク。リップすらしていない。

赤ちゃんのような肌。

それらが合わさって透明感のあるさわやかな印象の美少女を作り出している。


――なにこの圧倒的な性能。


イングリッドは少しだけイラッとした。

さらに観察を続ける。

なぜか学ラン。

細いウエストのせいか、サイズの大きいがばがばのズボンに見える。

それは工事作業員のズボンようにも思えた。

昭和という時代の不良のスタイルであるボンタンというヤツなのだろうか?

上も詰め襟の上着のボタンを全てはずして、その中に黒いTシャツを着ている。

Tシャツの柄は洋楽のロックバンド。

真が好きだった何十年も前のヘヴィメタルだかパンクバンドだかのものに似ている。

全体的にスレンダー体形。胸はない。残念チッパイ。


――うん。仲間だ。


相手にわからないように拳を握りガッツポーズ。

この短いやり取りでイングリッドが確認したことは以下である。


・敵ではない …… 気絶してる間にどうとでもできた。

・相手の所属 …… 敵であってもどうとでもできる相手に嘘をつく理由はない。

・自分を知らない …… プロパガンダで使われまくってるため、国の内外に肖像画で顔とピンクの鎧は知れ渡っている。知らないフリ、気づかないフリをするほうが逆に不自然だ。

・転生者である(かもしれない) ことと国籍 …… マフィアではなくヤクザで細かいニュアンスが通じている。(この世界ではマフィアという言葉はそれなりに使われてるが、ヤクザは使われていない)転生者だ。しかも学ランを着ている。恐らく日本人と思われる。……真ちゃんの学ランはぁはぁ。「何だよ…お前が、俺誘ってきたくせに……」「いやあああん真ちゃん(うれしそう)」(以下エロ妄想につき省略☆ミ)


「げへへへへへッ!」


「ん?何?」


「な、なんでもないよ! あ、私ジェニファー(今考えた。出展:前世の英語の教科書)。あなたは?」


「おれ、いや僕はリン(今考えた。出展:不明。中国系の苗字のつもり)」


――僕っ娘!キタアアアアアアアアアアァーッ!


イングリッドは心の中で吼えた。それは歓喜の咆哮であった。

『俺』と言おうとして慌てて直した『僕』。

女の子が無理にキャラを作って言う『僕』ではない。

普段から言い慣れている天然ものの『僕』。

確かに『俺』がメインかもしれない。

だが天然モノなのだ。

その希少性は計り知れない。

イングリッドは心の中だけでガッツポーズをした。


このときイングリッドは大きな間違いをしていた。

目の前の人物は僕っ娘ではない。

そもそも女の子ではない。

というか緑真その人なのである。

その間違いに気づかないまま、さらにイングリッドは観察を続けた。

かすかに血のにおいがする。

よく考えたら、ここは戦場だからあたり前だ。

腰に挿しているのは剣。

王国の剣とは鞘の形状が違う……蛮刀?いやマシェットだ。

ナイフと同じようにミリタリー系のマニアの好物。

フェオドラが言うところでは男の子のファンタジーアイテムと言ったところだ。

年齢と体形から見て軍人ということはないだろう……ということはフィリピンかインドネシアあたりの武術の使い手なのだろうか?

しかもマシェットを習うとするとプンチャックなどの伝統系というよりはモダン・カリ・シラットだ。

だが、フィリピンの武術であるカリやインドネシアの武術であるシラットは日本で習得するのは非常に難しい。

教えているところが少ないし、マニアックすぎて子供の習い事には向いていないのだ。

本国でも道場がそれほど多くない武術……アメリカには道場がたくさんあるらしいけど……アメリカ人か?

いや、日本語がうますぎる。それはなさそうだ。

ということはたまたま手に入れた護身用だと仮定したほうがいいだろう。

とりあえずイングリッドは目の前の女の子の扱う武器に関してはそこまでで保留することにした。

次にイングリッドは腕に注目した。

腕には銀色の時計。男性用だ。腕と時計のベルトとの間に不自然に隙間がある。

腕の太さに合っていないのだ。

ベルトの長さを調節していないのだろうか?あるいは他人のもの。

おじさんがつけている様な飾り気のない針のあるアナログタイプのカレンダー機能つき腕時計。

時計をファッションではなく計測器として考えている理系タイプなのかもしれない。

時計の種類は電波時計?普通の?

いや違う、秒針の動きがカチカチと妙に細かく動いている。

ゼンマイ式の機械時計だ!

子供だから高いものではないだろう。

万はしないものであるはずだ。

ということは日本メーカーの海外輸出製品か上海製の時計か?

デザインは古い。だが、フレームは酸化していない。物理的に古いものではないだろう。

文字盤がある表をスケルトンにして歯車を見せるタイプではない。

たぶん腕側が透明で歯車がそこから見えるタイプだ。

あくまで文字盤の見易さを最優先している。

どこまでも無骨なデザイン。日本メーカーの製品だ。

そんな腕時計をしている人物……少なくとも時計を計測器ではなく小物として身につけるタイプの人間だ。

ファッションといっていいかもしれない。

しかも人に見せるためのものではない。

自己満足。または変わったものが好きなタイプの人間だ。

そこから考えられるのは頑固。精神的にはタフ。

自分の殻にこもる極端に内向的な人物、もしくは、わかる人にしかわからないものを身につけて密かに人をからかうのが好きなトリックスタータイプ。

恐らく懐古主義者。古いものの収集癖があるかもしれない。

そう言えば真はいつも機械式の腕時計をしていたな……なんで機械式なの?って聞いたら見えないところがカッコイイだろって……

突然、真のことを思い出したせいか、結論を出さずにイングリッドは次に靴を見る。

安物のスニーカー。サイズはかなり小さい。

女の子が履くのはどうかと思えるデザインだが、見た目がローティーンなので特に珍しいことではない。

……いや違う。スニーカーなのに側面に運動時に折れた形跡がない。

見た目よりも硬い材質。安全靴だ。そういえば真が履いていた……


ふいにイングリッドは自己の脳内の目の前の女の子の事ではない所の部分から、ずっと悩んでいた問題が解決されたことを感じた。

ああ、そうか。

もう顔は思い出せないけど、真の事は忘れていないんだ。

真は個性のない機械なんかじゃなかった。当たり前だ。

雑音のような尖った音楽が好きで、機械が好きで、古いものが好きで、安い安全靴を履いていて……エッチだけど今思えば若いのにセクハラにならないくらいに枯れていて……そして真剣に桃井の話を聞いてくれた。

ああそうだ。

一緒に写った写真を見ても顔を認識できなくても……

記憶では顔だけにもやがかかっていても。

大好きだったはずの顔が思い出せなくても良かったんだ。

靴を凝視したまま固まるイングリッド。

そんなイングリッド見て真は声を掛ける。


「どうしたのジェニファー?具合悪いの?」


声を掛けられて意識が現実に戻ってくる。


「ううん。リンちゃんなんでもないの。リンちゃんが友達に似てたから……」


「その人は」


「うん。今は遠くにいてそろそろ帰って来るはずなんだ……」


「そうなんだ。じゃあ、その人に会うためにここはひとまず逃げようか?学園まで送るよ」


「ありがとう……」


「ところでさ……」


「何?」


「その鎧……暑くない?」


「ん?」


ヘルメットすら脱いでなかったことにイングリッドは今更気がついた。


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