黄生3
青山が会見を終えたすぐ後。
黄生桜のいる拘置所。
黄生は臨時ニュースとして青山達の会見が放送されていることを知らずにいた。
裁判の結果が出ていない未決収容者の房にはテレビは存在しない。
新聞も自分の記事に関しては、看守がチェックし、該当記事は切抜きされ、見ることができないようになっている。
ラジオが流れることもあるが、ニュースになると止められる。
ゆえに情報を得る機会がなかったのだ。
黄生がいるのは雑居房。
同じ雑居房に生活する同居人は4人。
鉄格子に金網が張られた部屋。
通常、拘置所は暴力沙汰はあるものの命の安全は保障されている。
……はずだった。
それは食事の時だった。
麦飯。現在はご飯用の雑穀の方が単価が高いのだが、無理やり入れて焚いたご飯。
不味くもないが美味しくもない。
おかずは食中毒を防止するためだろうかよく火が通っている。
黄生には街の食堂ほどではないが美味しいと感じられた。
無言で食べる。別に楽しくはない。
ご飯を食べていると、ふいにガチャッ!っという音がした。
黄生は音がした方を見た。
同じ房の女性が倒れていた。
倒れた後、白目を剥きながら痙攣する。
「きゃあああああああああッ!」
悲鳴が上がる。
わざとらしいほど早く看守が駆けつける。
「医者だ!お前、医者を呼べ!」
看守が叫ぶ。
ジリリリリリリリリリリリリリッ!
非常ベルが鳴り響く。
泡を吹いて痙攣しながらのた打ち回る収監者。
体が弓なりになりながら言葉にならない声をあげていた。
そして突然、体が不自然に盛り上がった。
服ははち切れ、身体には獣のような毛が生える。
顔が膨らみ、大きくなった口に牙が生える。
それは化け物だった。
化け物は大きくなった口を開き咆哮する。
「開けて!あけてぇ!」
黄生が叫ぶ。
だが、そこは狭い雑居房。
あっという間に化け物に捕まれて組み伏せられる。
「助けて!助けて!助けて!」
必死に叫ぶ。
他の雑居房の収監者は黄生を助けようともせず、鉄格子から叫んでいる。
怪物が大きく手を振りかぶり黄生に落とした。
ゴリッという音が身体の中からして一瞬で意識を失った。
最後の最後まで、傍観者としても核心へは遠く。
なぜ、自分が殺されなければならなかったのかもわからずに黄生の短い人生は幕を下ろした。




