第10話 魔女、弟子を増やす?
カロムが失恋に絶望している横で、メディナを弟子にするしないの押し問答がまだ続いていた。
「だーかーらー!弟子は取らないって言ってるだろ!」
「では助手などはどうでしょうか!?」
「ミュクスとカロムがいるから尚更必要ないね!」
「私って助手だったのか、知らなかった……」
ミュクスがボソリと呟く。アレサは余計なことを喋るな、と言わんばかりにミュクスを睨みつける。
「で、でもお師匠様、こんなに頼んでるんだし少しくらい考えても……。ほら、部屋だって空いてますし?」
「あんたは黙ってて!あたしは自分の力でアレサ様の弟子になるんだから!!」
「ええ……?味方してんのに……?」
良かれと思って口を挟んだカロムだったが、どうやら完全に逆効果だったらしい。メディナの剣幕に、カロムは戸惑いと呆れが混じった表情をする。その横ではジュリアが、申し訳なさそうな顔で立っていた。
「メディナは昔からお前さんに憧れてんだ。なんとか頼まれてはくれないかい?」
孫可愛さからか、タイナが口を挟む。メディナは期待を込めた眼差しでアレサを見つめた。
「って言われてもねぇ……」
アレサは眉間にシワを寄せながら腕を組んだ。
「お前さんが弟子を取りたがらないのは知ってる。だからタダでとは言わないさ。
メディナを弟子にしてくれたら、今後の買い物に色を付けてさせてもらおうじゃないか」
「タイナ……そこまでするかい?」
「可愛い孫が喜ぶなら、何だってやるさ。それにひいき目無しに見てもこの子は優秀だよ」
「そんなもんなのかねぇ……?でもねぇ……」
タイナにここまでお願いされても、アレサは即決せず悩んでいる。
「アレサ様、この条件でも即決していただけないのですか?」
「アレサ、すまないけどそのカロムって子は、正直お前さんがそこまで気にかけてやるほどの感じには見えないよ?」
メディナとタイナがアレサに詰め寄る。すると、ミュクスがいそいそとメディナに近寄る。
「カロムはさ、弟子っていうよりは研究対象なんだよ」
「研究対象?」
ミュクスからの言葉が予想外だったのだろう。孫娘と祖母の二人から、同時に同じ言葉が発せられた。
「カロムには呪いがあって、私が触っている時だけ魔法が使えるんだ」
「呪いだって……?その子、そんな若さで一体何をやらかしたんだい?」
タイナが驚きを隠せない様子で口を開く。どうやらカロムの身体のことは、ルーンから伝えられていないようだ。
「やらかしたのはこいつじゃなくて、直系の先祖。しかも失われた古代魔法の術式に近い。それに、その呪いとミュクスが、どう関係してるのかも分からないときたもんだ」
「さすがのお前さんでも、お手上げってわけかい……」
「ああ、だから知りたいんだよ」
アレサはそう言った瞬間、いつになく真剣な眼差しをカロムに向ける。視線を感じ、怒られるのを警戒したカロムは、グッと腰を引いて身構えた。
「まあそう考えたら、私のことも作られた時からずっと研究対象だよな。ね、アレサ?」
「アンタは本当によく分からないからね……」
ミュクスの軽い態度に呆れながら、アレサが言う。
「ホントに、お前さんはどんだけやらかしたら気が済むんだかね。召喚じゃなくて生物を作り出しちまったんだから。世間にバレたら大ごとだ」
「だからアンタやルーンくらいにか話してないだろ」
「普段から町へ遣いをさせといて何を言ってんだか。
まあいいさ。でもこれで納得がいったね」
タイナが大きなため息をつきながら言う。祖母の態度に、メディナが不安そうな表情を浮かべる。
「メディナ、悪いけど諦めるんだね」
「おばあちゃん!?」
「お前さんも聞いただろ、このお方が側に置いているのは研究対象だ。
それこそ死んでも生きているとか、そういうワケが分からない状況にならない限り、弟子入りなんて無理だよ」
「そ、んな……!今まで頑張ってきたのに……!」
メディナがワッと両手で顔を覆う。するとアレサがメディナに歩み寄る。
「メディナ、魔力の感じを見ると確かに優秀みたいだね。だったら、アタシみたいなヤツじゃなくて、もっとふさわしい所に弟子入りするんだね」
そして、慰めになっているのかどうかも分からない言葉をメディナにかけた。
「まあアレサは教えるのぶっちゃけ下手くそだから、逆に教わらないほうがいいかもよ。ねえ、カロム?」
「えっ!?いや、まあ……はい」
「ミュクス余計なことは言わんでいい!!カロムも同意してんじゃないよ!!」
そう言って順番に頭を強めに小突いた。
「……アレサ様」
メディナは顔を覆っていた手をゆっくりと下ろす。明らかに様子が変わったので、アレサ達はつい身構える。
「アレサ様のお気持ちは、分かりました。それなら――」
そう言ってゆっくり顔を上げる。顔はまだ悲しげだが、キュッと引き結んだ唇には、決意がみなぎっているように見える。
「あたしだって、あの二人みたいになります!!絶対に負けないんだから!!」
メディナはアレサ達を押しのけて、そのまま勢いよく店を飛び出していった。
「やれやれ騒々しいね」
「……あの子、ほったらかして大丈夫なのかい?」
呆れた様子でため息を付くタイナの横で、アレサが遠慮がちに尋ねる。
「はい、お姉ちゃんのことなので落ち着いたら戻ってくると思いますよ」
ジュリアが川のせせらぎのように、実に穏やかにそう言った。タイナやジュリアの反応から察するに、似たようなことはこれまでも何度かあったのだろう。
「でもアレサ、よかったじゃん。一応ファンがいてさ」
「一応ってなんだい、含みのある言い方するんじゃないよ!」
「あはは……。あの、お師匠様、そろそろ戻りませんか?」
カロムが遠慮がちに口を開く。
「そうだね。タイナ、邪魔したね」
「全くその通りだね、お陰でコイツを渡しそびれるところだったよ」
そう言ってタイナは、カウンターの下から厚手の布で包まれた荷物を取り出した。
「おや、やっと手に入ったんだね?」
「ああ、ちょうどルーンのやつに伝言を頼もうかと思ってたところだったから、手間が省けたよ」
そう言ってタイナはアレサに荷物を渡す。アレサの顔には、何やら企みを思いついた時のような笑みが浮かんでいた。
ミュクスとカロムは顔を見合わせたが、どうやら説明してくれる気はないらしい。
「アレサ、何だそれ?」
「ふふふ……。さあお前達!とっとと帰って準備するよ!」
そう言ってアレサはさっさと店を出ると、ソファを呼び出してあっという間に空へ昇っていった。
「ああ!お師匠様!?」
「全くもー、何なんだよ……」
残されたカロムとミュクスも慌てて店を飛び出そうとしたが、不意にタイナに呼び止められた。
「坊や、ウチのメディナがすまなかったね」
「いえ、そんな……!びっくりしたけど、僕は大丈夫です」
「そう言ってもらえると救われる。あの子やジュリアは、あたしのせいで同年代の子との関わりがほとんど無いんだ。
アレサに協力してるのを後悔はしていないが、申し訳なくってね」
「おばあちゃん……」
「だからね、図々しい頼みだが、よかったら二人と仲良くしてやっておくれ」
「……はい!もちろんです!」
カロムが元気よく答える。タイナとジュリアの表情が、緊張がとけたようにほころんだ。
「カロムくん、ありがとう。また遊びに来てね」
そう言ってジュリアは目を細めた。
そうして、アレサ達は屋敷に戻ってきた。
カロムがふとアレサを見ると、帰ってきて早々に何やらゴソゴソと持ち物の確認をしている。
「お師匠様、そういえば準備って何の準備ですか?まさか……」
「城の襲撃だよ」
「ああ……やっぱり……」
カロムがあからさまに嫌そうな顔で言う。
「でもアレサ、次はどうやって入るんだ?手配書の絵があんな絵とはいえさ、特徴はバレてんだし」
「そんなん決まってるだろ、『正面から堂々と』だよ!」
「はあ?」
アレサの言葉を聞いた瞬間、カロムとミュクスから間抜けな声が漏れた。




