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90話 初級メイド

客先の年末の挨拶で間違えて「本年も宜しくお願いします」とか言っちゃいました。本年、もうすぐ終わります。仕事は溜まってますが正月気分で行きたいと思います。

「サツキさん、ついにメイドさんになったんですね!!」


 そんなわけあるか。


「とても似合ってます」


 そんなわけあるか。


「やっぱり美人さんは何を着ても素敵ですね」


 ……それほどでも、あるかな///


 人を進化したみたいに(たた)えるコデマリ君がこそばゆい。

 或いは、

 こねて延ばすタイプ、いや誉めて伸ばすタイプなのかもしれない。


「あ、あの、アレをお願いしても、いいでしょうか? 定番のあれを」

「おう、いいぜ」

「それじゃあ一度失礼して――。」


 コデマリ君が部屋から退室する。


 ……。

 ……。


 そういや。

 鍵、最初から掛かってなかったな。


(ガチャ)

「た、ただいま、帰りました」


 帰って来ちゃったよ。


「おかえりなさいませ、お嬢様。絹ごしになさいます? それとも木綿になさいます?」

「僕なにされちゃうの!?」

「いかん新婚さんごっこが混じったか」

「サツキさんの中の新婚さん、どうなってるんですか!? お豆腐作る人ですか!?」

「作ってもらおうかなと……。」

「仕事から帰ってさっそうと大豆をペーストにする旦那さんとか怖いですよ!?」


 そうか。意識の壁、高いか。


「メイドさんなら、こう、何か無いんですか? メイドスキル?」

「メイド好き過ぎる?」

「……ニュアンスが微妙に」

「おいしくなーれ、おいしくなーれ」

「あ、そのフレーズは聞いたことがあります!!」

「ねれば、ねるほど」

「一気に遠ざかりましたね」

「地方貴族と付き合いは長いが、顧みればメイドと縁が無かった」

「そういう問題かな……?」


 唯一接点のあるメイドが、元パーティのリーダーだもんな。


「やはり提案すべきか――執事長、メイドとして研修を要請する」


 振り向くと、老紳士もワイルドニキも居なかった。


 ……。

 ……。


 おいおい、どの下りから居なかったんだよ? 俺のボケ、放ったらかしかよ?




「一緒に囚われた教会が居ると聞いたけど?」

「お姉さんが僕の代わりに聖女を名乗ってくれたんです。早く助けに行かないと、あの不気味な人に何をされるか……。」

「不気味な人? 流れからしてオダマキの監査官辺りが出てきたと思ったが」


 コデマリくんが、嫌悪するように青ざめた。

 愛らしくても彼とて冒険者だ。魔物の討伐や対戦もあった筈だ。


「多分、その人だと」

「君を後顧に震えさせるか」

「何か僕らと違うものを見た気分だから……不安には感じます。」

「古い伝承や御伽噺に挙げられる異世界転生モノで聞く『悪魔(デーモン)が有力者に化けている』という定番かな」

「それは悪魔に失礼かも……。」


 そこまで言うか。

 事前に調べた監査官の人物像とかけ離れていたので、つい。


「すまんのう」

「いえ、僕の方こそ不気味な人に失礼な言動と反省します。でもあの癇癪は意馬心猿(いばしんえん)を形にしたような。とても不快でした」


 ほんと、そこまで言うか。


 オダマキの官僚が他国勢力ラァビシュの侵食を受けたと、オオグルマでマンリョウさんの調査報告にあったけど。

 監査官がそれだってのなら事前情報との食い違いも分かる。

 やっぱ入れ替わってるんだ。


 ラァビシュ……奴らの正体は分からない。

 所謂一つの国家を形成すると推量されたがその実、文化も技術も恐ろしく後進であった。各国の冒険者や商工業系ギルドが開拓するまで、文明の振興(しんこう)を確認できなかったのだ。

 歴史が無い。

 交易の価値が無い。

 致命的だろ。

 その後、文化レベルを引き上げるべく列強各国が国家間の支援を名目に技術供与を行ったが、車輪や歯車の概念も理解できず、最後は他国の技師が常駐し製品を供給する羽目になった。

 それはいい。地場に生産性が見いだせないのは問題だが、労働力が先方に依存する分には、一応の技術提携の体は保てよう。

 ここで各国首脳陣の度肝を抜く事態が発生した。

 技術支援の設備や人材に対し、ラァビシュ現地民による略奪ならびに占拠が横行したのだ。

 彼らは、支援で作られた施設を占有し、これらを自分らが考案発展した先端技術であると発信した。

 これが酷い。

 世界各国は我々の文明の恩恵で発展を遂げたのだと、生産物、製品といったプロダクトの専有権を主張し世界を困惑させた。

 この事は多くの教訓を産む横で、さらに編集され世界中で『技術供与したら資産を奪われ追放されました~今更戻って来いと言われてももう遅い、どうぞそちらはご勝手に~』系な大衆向け娯楽小説の大頭ともなった。

 つまり、アザレア王国を始めとする交流各国は見放したのだ。


「彼女に限って万が一も無いとは思うが、連中、アザレアの教義に難癖を付けてたな」

「サツキさん、心当たりが?」


 どっちだ?

 ああ、後者か。


「多少の情報はね――移動しよう。君を連れ去ったお姉さんの場所は分かるかね?」


 話題を変える。

 ああいう手合いは気にするだけ無駄だ。出会ったらその場で始末するに限る。


「この階下です。別の部屋に移されてなきゃいいけど」


 そういう事か。

 凄いなコデマリくん。カーテンをロープ状に結んでたの、逃走の為じゃなく彼女を救出する為だったんだ。


「外からじゃ目立つな」

「足手纏いになるなら、はっきりと言ってください」

「廊下から行こう。兵士に見つかっても、君と二人なら上手くかわせる筈だ」

「サツキさん……はい!! 僕、頑張ります!! 僕にできる事なら何でも言ってよ!!」


 その一言が聞きたかった。




「裾は一気に上げるな!!」

「ひぃ……。」

「こう、体のラインを強調する様に、こう!!」


 早速、廊下で兵士と出くわした。

 善良なオダマキの兵士だ。戦う訳にもいくまい。


「「「ヒュー、ヒュー!! このお姉さんスゲーぜ!!」」」


 ……果たして、俺の脚にかぶりついて見るのは善良なのだろうか?


「この野郎、俺ばっか見てんじゃねー!! こっちの子だって可憐だろ!? な? こう、ぐっと庇護欲を掻き立てられるだろ!?」

「ひぃぃぃ!? サツキさん!! ダメだよ、そんな僕のスカートを!!」


「「「おぉぉっ!!」」」


「えぇい、何でもすると言ったのは戯言(たわごと)か!!」

「むしろ今のサツキさんが戯言(たわごと)だよ!?」

「もっと自分に自信を持てよ!!」

「だから引っ張らないでよ!!」

「こういうのがいいってヤツも居るんだよ!!」


 兵士たちを見る。数人、そっぽを向きやがった。

 日和見やがるか!!


「こぬぉ!! もっとサービスしやがれ!! そんなんだからこの期に及んでまだノリの悪い奴がちらほら居る!!」

「さっきと言ってることが違ってるよ!?」

「そういう奴らはどうしたらいい!!」


「「「コロセー!!」」」


「どうしたらいい!!」


「「「コロセー!!」」」


「どうしt」

「うっさいわね!! 何馬鹿やってんのよ!!」


 腕を振り上げる俺の後頭部に、サザンカの飛び蹴りが炸裂した。

 彼女にしては珍しい、サテン地の司祭服だ。長い帽子にはこれも派手な宝石と花をあしらっている。


「あんたが騒ぐからおちおち寝てもいられないわよ!!」


 両手を荒縄で縛られて呑気なもんだ。

 この子はきっとドSとは相性が悪いんだろうな。


 ……。

 ……。


「何よ?」

「いや、珍しく正装だなって」


 肉感的なシルエトは神聖なものと程遠い。

 だっぽりした衣装なのに、何故かコイツが着ると胸周りと腰回りが強調される。

 何でそのデザインでぴっちり張り付いてんだよ?


 ……。

 ……。


 ああ、筋肉か。

 仙姿玉質(せんしぎょくしつ)でありながら、その内には人知を超えたパワーを秘めている。


「派遣隊を指揮するのに格好がつかないの。権威でも借りるならこんな道化にだってなるわ」

「ふぅん」


 それでいて両手を縛られてるんだ。俺以外の男には扇情的と写っただろう。


「お姉さん!! 無事でよかった!!」


 俺とコデマリくん以外には扇情的と写っただろう。


「はいはい。貴女も何もされてないわね?」

「あの後、すぐにサツキさん会えたから」

「重畳ね」


 珍しく穏やかな声だ。元はと言えば、君らが襲撃して攫ったんだよ?


「ほらっ」


 唖然とする俺たちをよそに、出てきた扉へ向かう。

 ほらと言われてもな。


「そこで騒がれても迷惑でしょ。それと貴方達?」


 兵士たちがざわつく。遅れて、鋭い視線に射抜かれたと気づいた。


「人が寝てる時に騒いじゃ、めっ、よ?」


 その「め」は、きっと滅殺の「め」なのだろう。




「って、メイド!? どういう事よ!?」


 お前がどういう事だよ。何で今頃気づくんだよ?

 部屋に入って開口一番に素っ頓狂な声を上げた。

 そもそも、さっきの飛び蹴り。俺じゃなきゃ脳挫傷ものだよ?


 部屋の壁には、サザンカの礼装と思しき厚手のローブが掛けてあった。上部にアームが入っており、肩幅を広く見せるデザインだ。

 どうりで目のやり場に困る訳だ。

 権威とか言っておいて、暑くて脱いだな。


「カサブランカであんな別れ方しちゃったのずっと気にしてたのに、あーあ、そうですか。悠々自適にメイド生活ですか。バッカっみたい!!」


 それだとグリーンガーデンの半分は馬鹿みたいだぞ?


「ちょっと、そこに居て。定番のやつやってよ」

「え? いいけど」


 手を縛る荒縄を引きちぎり、スタスタと部屋を出て行った。

 どいつもこいつも自由だな。


(ガチャ)

「ただいま帰ったわ」

「お帰りなさいませお嬢様。杵になさいます? それとも臼になさいます?」

「何を()かせようっていうのよ!?」

「一生君の搗いた餅が食べたかった……。」

「じゃあ杵だけ渡しなさいよ!! 臼持たせてどうしようってのよ!!」

「いかん新婚さんゴッコが混じったか」

「新婚さん!? 即ち初夜!? 杵と臼……そういう意味だったのね!!」

「勝手に隠語にしないでよ?」


 しかし臼を持つって、新感覚な言葉だな。


「二人とも、余裕あるなぁ……。」


 コデマリくん、変な感心してないで。


「なんだか腑に落ちないわね」

「それはつまり、やり直しを要求すると言いたいのかね?」

「いいわ、もう一度やるわね」


 スタスタと部屋を出て行った。


(ガチャ)

「ただいま帰ったわ」

「お帰りなさいませお嬢様。お席にご案内いたします――カレー(お飲み物)は食後でよろしいでしょうか?」

「よろしく無いわよ?」


 めっちゃ眉根を寄せてメンチを切られた。

 やっぱ可愛いな。


「もっとこう、あるじゃない?」

「どれだよ?」

「お食事にするか、お風呂にするか、それとも――。」

お飲み物(カレー)になさいます?」

「ドリンクから離れなさい」

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