65話 俺たちの戦いは
ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。
今回は小説では無く、旧大型掲示板のVIPに見受けられたSSスレッドの様式でお送りします。
マンリョウさんと歩んだ山水は、鮮やかで、まさに花紅柳緑の絶景だった。
だが、色彩を堪能しつつ馬車を進める頃。俺の知らない所でそれぞれの歯車が、俺を巻き込もうと回り出していた。
もう巻き込まれ過ぎてギヤーて言っちゃうくらいだよほんと。
「これほどの山紫水明の中で鴛鴦の契りを結べたら、とてもロマンチックだと憧れるわ」
次第に重くなっていくんだけど、ほんと大丈夫かこの人?
「わたしね、夢だったの。こんな風に、愛する旦那様と可愛い子供たちで世界中を巡るのが。トレーダー冥利ね」
えぇと、旦那さん? 俺か。子供たち? ああ、灰色オオカミか。
……。
……。
重いよ!! すっごく重いよ!!
『おかしなモノによく好かれるな。見込んだだけのことはあるぞ』
ヘッドセット越しに、おかしいヤツ筆頭が何か言っていた。
◆
「長らくお待たせいたしましたが、先発が出ました。いよいよ外堀に一手掛けるに至りまして。えぇえぇ、ベリー卿には大変気をもませてしまいまして」
「今や当主は感心をお示しにならん。だったら俺も勝手に動けるってものだが。クレマチスは引き続き事態の対応にあたりな」
「それはまぁ、懇意にして頂けるということでしたら」
「連中の資金繰り、ジキタリスだったか。一都市の経済封鎖程度でオダマキの暗部が釣られるか。領軍はそれを見計らってになる」
「効果的なタイミングはお任せしますが、いやぁ暗部だなんてそれこそ大したもんじゃありませんよ。あんなの小物も小物。権謀術数を巡らせていい気になってるようですが、おっと失礼。ですけどね、私らからしたら思慮が浅いし底も浅い」
「ラァビシュは感情に弱い生き物というのは、商工会議所の見立てだったな」
「慙恚に伴う癇癪持ちは理知的にモノを運べないって訳です。それほど深くは御座いませんでしょう?」
「そんな浅はかな者にいいようにされては、オダマキも何れ長くは無いか。王命ともなれば無下にできないってところだ。父上め。いいように使ってくれる」
「御友人を傷つけた罰とお聞きしましたが。おっと私としたことが、つい」
「ジキタリスにカンフル剤を打ったと言っていたな? 外部の冒険者か」
「えぇえぇ。これが何とも婀娜っぽい弁天さんでして。いえ、そんな顔をなさらずに。素性も確かな冒険者でして。えぇ、別嬪さんですよ? 男性にしておくには惜しいくらい」
「実際のところ討てるのか? 名士だって私兵くらい持つだろう?」
「曲がりなりにもSSランクでいらっしゃいます。美人のSSランク。ええ、世界広しといえど、そんな男性はそうそういらっしゃらない」
「ふん、あの馬鹿。一度死んだだけでは懲りなかったか――領軍の展開、想定より早まるぞ。クレマチスもそのつもりでいろ」
「へい、ワイルド様におかれましては、お含み頂き誠に――。」
◆
「聖女様!! 外で探りを入れてるヤツが居たので軽く刈ってきたぜ!!」
「ボク、男の子なのに……。」
「大丈夫だ!! サツキの姉さ、兄さんだってそんな感じだぞ!!」
「シチダンカさんは一度、そのサツキさんってかたに謝った方がいいよ?」
「それも間もなく叶うだろう!! 今日もこんなに生贄が!! 大量!!」
「ひぃぃっ!? み、見せなくていいから!! 首、見せなくていいから!!」
「ふひゃひゃひゃひゃ!! 間もなくでさぁ!! 間もなく、サツキの姉さ、兄さんが復活し世界を平定へと導くのであろう?」
「うん。絶対復活させちゃダメな人だよね、その人」
◆
「どうして貴女が先にサツキさんに会ってるのよ!!」
「予想外。シラネもびっくり。でも、いい感じにコミュニケーション取れてた。彼の目にはきっといい女に写ったはず」
「いえ、それは無いから安心だけれど」
「アカっち、シラネに辛辣?」
「アカっち言わないでよ」
「その流れでいくと、オアイのことはアオっちと呼ぶがいい。ふふふふ」
「シラネのことはシラっち。ふふふふ」
「貴女達……何かもう、それでいい気がしてきたわ。って、違う。話が違う。次はアタシのはずよね? サツキさんと一緒に冒険に出るの」
「すみませんシアちゃん。それは私の責任でもあると思うの。何故か流れで宿屋のウエイトレスと一緒にクエストを受注してしまって」
「どんな流れでそうなるのよ!?」
「そのウエイトレスの子が、馬車の馬にダンジョンのフロアボスで、ほらシアちゃんのカニを閉じ込めてた所あったじゃない? そこからエボニーミノタウルスを連れ出して周章狼狽して、つい流れを止める隙が無かったの」
「何なのそのウエイトレス!?」
「常識が追い付けないような子で。彼女の手に掛かれば、誰もが冷静さを欠くわ」
「常識捻じ曲げ過ぎでしょ!? え? 何? サツキさん今、そんな得体の知れないものと旅に出てるの?」
「(あれ? でもマリーさんはシアちゃんの事、知ってるような素振りだったけど?)」
「それより、父が行方不明。アオイの赴任地と方角が被ったのは分かったけど、父、こっちにも来てない?」
「来てない。シラネも後を追ったけど、上手く撒かれた気がする」
「娘との家族会議を撒くとは思えないわね。いつもの気まぐれかしら? クロはどう?」
「カサブランカで二日ほど待ちましたが、連絡すらありませんでした。どうしましょう。シアちゃんの言うようにいつもの気まぐれでしたらいいのですが、最悪――次にお会いした時、私たちに妹か弟が居るかもしれません」
「ひぃぃ!? さ、探すわよ!! 母さまたちに捕捉される前に、父さまを拿捕するわよ!!」
「落ち着いて!! シアちゃん落ち着いて下さい!! どうしても落ち着かないっていうなら、おっぱい揉みますよ!?」
「それはシラネと」
「アオイへの」
「「挑戦と見た!!」」
「ひぃぃ!? だからどうしてアタシに来るのよっ!?」
◆
「『君の花笑みには随分と救われた。可愛いマリー、大好きだよ』って、うひゃーっ!!」
「マリーさん、そのようにゴロゴロ転げ回ると危ないですよ? 頭とか」
「すさまじくイケボだったなー!! サツキ、色っぽかったなー!!」
「ふひ。み、みゃ、脈があるとか、ば、爆発しろリア充め……!!」
「でもマリーはもう死んでるけどなー!!」
「そうですねぇ!! 私、脈無いですもんねぇ!!」
「ねー!!」
「ねぇ!!」
「……どうしてかしら? マイヒレンが二人に増えた気分だわ」
「あ、あれだけ、されて、ま、ま、まだ帰りたくないと申すか」
「ですからシンニョウレン様、黄泉がえりは禁忌なんですよ? ていうか、これ、どの面下げて戻れるかって話しですよ、もう!! サツキさんったら!!」
「あははー!! マリーは可愛いなー!!」
「それは確かに、本人が見てないと油断してあれだけ甘々な事をされては、ばつも悪いでしょうけど」
「ふひ。お、おち、おち、おちつけ、うろたえるな」
「えぇ、貴女が落ち着いてちょうだい」
「マ、マリーが、完全死なら、復活なんて薦めない……ゾ」
「え? 私、死んじゃったんですよね?」
「保留。ふひ」
「……えぇっ!? じゃ、じゃあなんですか? お前には死すら生温いってアレですか!?」
「どれよ!? ……あ、こほん、マリーさんの肉体は不安定なれど半分だけ死に至った程度で済んでるんです」
「致命傷受けた後、サツキ頑張ったもんなー!!」
「傷口の回復とマイヒレンが差し上げたストレージによる保管機能が上手く適合したわけね。所謂、仮死状態ってところ。熊に例えれば冬眠かしら」
「でもサツキは埋葬する気満々だけどなー!!」
「ふひ。だから、リ、リミットあり、の、危うい状態」
「え? じゃあ、じゃあ!! 私、またサツキさんと冒険ができるんですね? またお見合いしてサツキさんと一緒の家に住んで、えぇと、それから、それから……。」
「その事なのですが、マリーさん。少々酷な事を言わなくてはなりません。心して聞いて下さい」
「う、うん」
「マリーさん、貴女は――。」
◆
「覚悟……しちゃったのね……。」
「そりゃあね。アイツともあんな別れ方しちゃったし、どのみち協会本部の意向には逆らえないわ」
「逆らった人なら……知っている……だったら、サザちゃんだって」
「あたしだって知ってるから。だからこそ、貴女達まで巻き込めないって、省察だってするわよ」
「……叛意の兆しと……受け取られなければイケる。なら……サツキくんには」
「あーもう、そうね。最悪な別れ方しておいて疑惧もなにも無いわね。彼との締括も考えるわ。だからクランも、本気で事に及びなさい」
「私は……。」
「でなきゃ、あたしだってやりきれないわよ。だからね、クラン。次こそは必ず」
「……分かった。うん……わかったわ、サザンカ。サツキとの関係、ちゃんと清算するから。だからサザンカも諦めては駄目よ?」
「え? あ、うん。……もっとも、その頃にはあたしは綺麗な体じゃいられないんだろうけどさ」
「貴女の憤りは正しいわ。割り切れないって分かるから、サザンカのことは私が守るの」
「ねぇ、どうして子供の頃の喋りになってるの?」
「……ぬかったわ」
「いや普通に喋れるわよね? 前もサツキの事、普通に呼んでたし」
「……サツキくん……こういうの好みかな、て」
「うわぁ……。」
「それよりサザちゃん……やっぱり拉致はよくない……。」
「教会の方針はくそったれだけど、あたしもね、興味あるのよ。エクストラヒールの使い手だなんて」
「……サツキくん……次はどんなパンツがいいかな」
「あ、うん、あんたはもう興味ないのね、うん……。」
◆
吹越に見る花びらの様に散り散りになった歯車は、胡乱でありながら、各々の役目を果たすべく舞い始めた。
向かうは森林都市で。
果たしてこの追放された者の寂寥を埋めてくれるのか。
その頃比。誰にも分からなかったが、長い旅の予感はした。
そして――。
「わたし達の旅はこれからよ!!」
「うるさい黙れ」
お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。
次回からジキタリス編になります。
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