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63話 魅了

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。


前話の甘い感じが台無しです。

男二人が密室でただ酒を飲んでるだけの話ですご注意を。

「あれはもう落ちない落ちるでは無いな。そう言うものだと理解するしかあるまい」

「? ああ、顔に出てましたね。今以(いまもっ)て未熟だ」


 ロッジへ戻った彼女の事では無い。

 要は腑に落ち(・・)ないのだ。何だって急なんだよ。


「無駄に事物の本質的でもない性質を語り合うより、まずは――。」


 いや偶有性とか知らんわ。

 っと、彼のストレージから一升瓶が頭を出した。


「喉を潤すのが先決であるな」


 テーブルに二つ、黄緑色の透明なお猪口が置かれた。光を透かした瞬間の色合いよ。ガラスとは思えぬ精錬な透かしよ。浸す液体に口も付けづ、波が描く光り細工に見惚れていた。


「お気に召したか。ツガルガラスという。ウメ姉ぇの所の職人技だ。一組みペアでやっても良いが、中身を味わってからにし給え。うちの米をよくもここまで仕上げてくれる」


 目の前で、男のものとは思えない色っぽい唇にツガルガラスを傾ける。

 彼に続き、ぐいっっと煽った。

 瞬間、芳醇な香りがふわっと体を満たす。よもや、これ程とは。


「何であったかな、確か……磨く、と言ったか」

「磨く……。」

「こちらも気に入ったか。おっとこれはやれんぞ? そうだなうちの娘達に一夜を捧げるのなら、交換条件として悪くはないが。ん? 如何する?」


 ん? じゃねーよ。おかしいだろ。


「お嬢さんらをお売りになるのか」

「昨夜のオレの言葉を忘れたか?」

「お嬢さんらに俺を売るのか」

「娘のおねだりに弱いのは男親の(さが)だ。四、五年も経てば君も理解するだろう」


 おいこら、生々しいな。

 あぁ、しかしこれは美味しい。ニホン酒ってやつだ。じっくり舌の上で味わいたい。


「昨夜といえば、特に夢見が酷かった」


 唐突に切り替えてきたな。


「例の三女神、でしょうか? 相当無茶をするご様子ですが」

「一人増えていた」

「それは……まぁ、ご愁傷様です」

「小娘の奴だった」


 ……。

 ……。


 マリーめ。何やってんだよ。


「なぁに、転生の女神が加護を授けるというに、娘め。生き返る宛てがないから誰かにくれてやれと断っていた。ミニスカセーラーでオレに跨りながら」

「すんません、うちのパーティメンバーが、ほんとすんません――って、本当にマリーなのですか!?」


 ミニスカセーラーは聞いたことが無いが、あの子は死んでまで凍結警告を受けさせる気か?


「魂だけで顔はぼやけていたが、キクさんの所の末子だった」

「彼女の出自、お分かりになるのですね」

「……むしろ知らない事が不可解だが。いや、呪詛を鑑みれば言っても詮ない事か」


 見合い相手って情報しか無い……。

 素性の分からん奴とお見合いなど何処にでもある話だけど、死ぬまで素性が分からないままってのも珍しいな。

 しかし、そうか。

 シンニョウレンの所に居るのか。

 そうか。


「白い部屋から帰った男には心当たりがあります」

「白い? ああ、あれの事か。白いかどうかは分からないが、君は思い違いをしているようだ」

「一度は戻ってこれたんですよ? 体はまだ温かいままだ。あとは――。」

「アレが黄泉平坂(よみのひらさか)を渡ることは決してない」


 何? ヒラサカ?


「己の復活であろうと禁忌は心得ている。小娘はそういう女だ。そんな所ばかりあの女に似やがって」

「禁忌の体現者が目の前に居るとしても?」

「話は聞いてるのだがね。先程の娘の引き際を行商人の矜持と謳ったが、ならば巫覡(ふげき)の矜持もまた女の潔さなのだろうな」

「戻って欲しくは、無いのでしょうか」

「そのような訳は、いや、あのまま偏っているという事は、優柔不断であると受け取れもする。だったらこの際だ。迷いに付け込んで引きずり出す手もあろうか。これ以上、オレの枕元に立たれては(かな)わん」


 物騒な事を言い出した。


「本来なら岩戸は叩いてこじ開ける主義だが、にしても、しばらくは交渉に尽きるな。サツキくん――。」


 ぐいっ、と黒衣の美貌が迫ってきた。どきっとした。襲われちゃうのかって。

 とん、と彼の指が俺の胸を突いた。


「未だ小娘は君の中に居るのだな」


 俺の中? ストレージの事か。


「傷口は完治している。血の温かさもある。心肺停止後だがヒールを途切れなく掛けていた。あの子の時間はそこで止まったままです。いけますか?」

「さて、君のケースとは状況が違う。それが良い方向に転ぶかは試行錯誤だな。だが、いざという時は目覚めの接吻でもしてやればいい。なぁに、相手は眠ったままの小娘だ。赤子の手を捻るより簡単だろう。いや、いっそ舌の一つでも捻じ込んでやれば喜ぶだろうて」


 最低な事を言い出した。ほんと最低。意識の無い女の子に何をさせようってんだ。

 もうこの時点で嫌悪の方が先立っていた。


「しかし、加護であるか。話すまで思い当たらなかったな」


 ふふん、と得意げに笑ってる。何だろ?


「我らと同じ特性を得たなら、己の特技が見れる、こう、ほら、これっくらいの鏡のような。な?」


 何が言いたい?

 セクハラか? またセクハラなのか?

 特技……あぁ、スキルの事か。だったら、


「朧月のように文字が輝く、小窓のようなものでしょうか?」

「よし、面倒だからステータス画面と統一して呼ぼう」


 ぶっちゃけやがったよ。


「これがステータスねぇ……ん? んん!?」


 翡翠色の文字列を薄膜に浮かべて気がついた。

 見覚えのない文字列が二行追加されてる。


「何が見えたかね?」


 彼は知っているのか。聞いてくるってことは本人にしか見えない、システム的な機能?


「えぇと、見慣れないものが二つ、って二つも新スキル獲得してる!?」

「エロいやつかね?」

「いや? いやいや? 何でエロいの聞いてくるんです? セクハラですか? やっぱりセクハラなんですか?」

「差し支えなければ、読んで聞かせてくれ給え」

「まずは……どこでもジャマダハルⅠ」


 これスキル名だったのか!?


「面白いものを習得したな。伸び代はあるぞ」


 進化系スキル?

 技として使ったからなのか、取得したから使えたのか。因果関係はいまいちだな。


「ネタバレになるが、このまま技の昇華が叶えば、『どこでもジャマダハル』から『どこまでジャマダハル』、最終的には『どんだけジャマダハルw』になるぞ?」

「なんで今、草生やした?」


 極めるのが不安になってきた。


「あと他には……ん!?」

「どうやらそれが小娘から君への贈り物らしいな」

「いやだって、これ……え、俺、えぇ……。」

「察することは出来ぬが、現実とはままならぬものよ。何を引き当てたかね?」

「魅了Ⅰ……。」

「ほう」

「魅了Ⅰ!!」

「それはそれは」

「何だよこれ!?」

「君の内面に潜む婀娜(あだ)は、SSランクの冒険者には納まりはしない」

「ボク、男の子だよ?」

「案ずるな。オレには精神異常系の一切が効かない。ところで、隣りへ行ってもいいかね?」

「状態耐性どこ行った!!」

「今宵は二人きりだ」

「あぁ、朝露の我が身よ――おのれ!!」


 この人はどこまでが本気なのか。


「そもそもパッシブなのか。受動的スキルであれば昼間のアレも納得もいくが。先ほどの少女もまた」

「他人からの好意くらい分わかります。俺は知っていて無下にするからタチが悪いんだ。彼女の心情の変化が操作されたもと認めたくはありません」


 君には好感がもてるな、とサクラさんが笑った。


揶揄(からか)っただけだ。たかだかレベルⅠの精神操作系スキルが人に影響を及ぼすものか」


 今、一番明瞭にしたかった解がそれだ。

 気を遣わせてしまったかな。


「……客観的に無意識の過程が観察できるなら、それも良い。ならオオカミどもはどうだ? 思い入れでもあったか?」

「本能的に危害を加えることを忌避しました。わかりません。冒険者の中でも高ランクほど同じ傾向にあると伺います。いや、マンリョウさんも同じ事を言ってたかな?」

「オレもだよ。君らの起源は我が故郷と一致する。我々のエゴによって、彼らは森を追われ数を減らし、既には絶滅した。残酷な事だ」

「その経緯を知らない俺が、何故、感傷的になれるのでしょう。まさか血縁関係――いえ、それは無いか」


 そんな事言ったら、マンリョウさんやグリーンガーデンの皆、そして師匠のカタバミも遠縁になってしまう。


「魂に刻まれたセンチメンタルであるなら。魅了してでも戦闘を避けるのはわかる話しだよ」


 お猪口を傾ける彼の表情が、どこか疲れているように見えた。

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。


次回以降はバタバタします。

多分ここが30話続いてきたまったり回の最後ですね。

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