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405話 復讐者、それから…

復讐篇の最終話です。

「お姉さん、妹さんの身柄をこちらで預かりたい」

「ちょ、サツキ、言い方!! もっと言い方!!」

「君に義父さんと呼ばれる筋合いはないがね!!」

「おじ様まで、何でまた姉さんの家に来てるんです!? 何で半裸なんです!?」

「くんくん――なるほど。アナベルの股間からサツキさんの濃厚な匂いがします。相当出しちゃいましたね? このこのー」

「姉さんも、いい加減私の股間に顔を埋めるのやめてよ!! サツキも困って、結局、義兄さん相手に挨拶するしかなくなっちゃってるじゃない!!」

「サツキ殿、会って数日の義妹ですが、どうぞ宜しく」

「私は認めないわよ!! こんなバラエティ番組みたいなお嫁さんに下さいなんて!! って、姉さん、パンツずらして中身確認するのやめて!! 奥開いたってもう中身は垂れてこないから!!」


 アナベル――如何なる暴投も逃さない、そつの無い捕球。

 心強いぜ。




「主人が大変迷惑をお掛けしました」


 深々と頭を下げる。


「い、いえ、と、ととととんでもないです、お姉様!!」


 アナベルも深々と頭を下げた。エール交換みたいだな。


 こうして、王妃様によってしばかれた王様は捕縛され、王城へ引き摺られて行ったのだ。一言。厄介そうな事を耳打ちして。

 しかし、王妃に人力で市中引き回しにされる国王か。

 街角で、うっかり鉢合わせた住民達がビビってるビビってる。


 ……この国も長く無いかな?


 さて、本題だ。


「改めてよろしいか――。」


 テーブルを挟みアナベルの姉上と騎士くんに向かい合う。こちらの隣はタイトなドレス姿のアナベルだ。問題は言うほど誠意に信憑性が乏しいって事だな。なんせ四人目が欠番の状態で五人目という非道徳な申し入れだ。俺が後見人だったら、そんな奴は一寸に刻んで五分に磨りおろす。


「お嬢さんを僕に下さい」


 深々と頭を下げる。我ながら安っぽい頭だ。

 まさか定石にとらわれない答えが返るとは。


「あら、やだわ? でも私は既にこちらの旦那様の妻ですのよ?」

「オメーじゃねーっ、妹の方だちゅってんだろ!!」


 この人。こんな人だったのか?


「姉さん、大事な話なんだから、少しだけでいいからちゃんとして」

「それよりアナベル? お姉ちゃん今夜は忙しいから泊めてあげられないわよ? この家には近づかないで?」

「え、そっち大事?」

「貴方がたに当てられちゃいました。サツキさん。アナベル。それが私の答えです」

「姉さん、そんなぞんざいな……。」


 どうやら、俺たちの関係は了承して頂いた、らしい?


「どうしてもと言うのなら……混ざる?」

「ご遠慮申し上げよう、義姉上」

「サツキさん。逃げるのね?」

「気を利かせて二人きりにさせてやるって言ってんだ!!」


 何より、俺を巻き込まないで欲しい。

 あと、お姉さんの隣で騎士くんが頬を引き攣らせていた。今夜はハードコアだな。後でスイレンさんの秘薬(エルフの精力剤)を分けてあげよう。頑張れ。


「私たち姉妹が、こう、こう、並んで突き出してるのを、それぞれ旦那様が、こう、こう、後ろから競うように」


 妹さんを嫁にくれと言ったら、マニアックな提案が来た。


「……これは。サツキ? 負けられないわね?」


 そして当事者の嫁の闘志に謎の火が灯った。

 頼む、見捨てないでくれ。いや、風儀の可能性もあるのか?


「ひょっとしたら、これも人狼族の習性か?」

「私達の姉妹の夢ですわ?」


 向かいの騎士くんを見た。

 悲しそうな眼差しで、首を横に振っていた。




「スイセンカちゃんは出せないのよね?」


 ひとまず義姉の家を後にし、王城へ向かった。

 預かり物があるから中央都市を出る前に寄っていけと言われたのだ。王様に。


「侯爵家からそのままオダマキへ飛んでもらってるから、落ち合うなら森林地帯前に展開させた臨時の集落がいい」

「何よ、本末転倒じゃない」


 語気が荒いのは、俺が(かたく)なに姉君の提案を拒んだからか。

 これ、いつかは叶えてやらなきゃダメなのか?


「不測の事態で巻き込む事も視野に入れると、民間の乗り合い長距離馬車は避けたい。なので、専用の馬車を個人調達することになるが、ベリー家の別邸は追放扱いになっているから」

「国王陛下には、貸しは作りたく無いのよね? SSランクならギルドに伝手の一つや二つ確保してないわけ?」


 呆れた声色に変わった。人を何でもかんでも万能に思うなよ。


「グリーンガーデン追放時に、そこはすっかんぴんでね。傷心でカサブランカの迷宮を攻略しに行った時も乗り合いの一般席だったよ。いやぁ、迷宮最深部でグリーンガーデンの面子と鉢合わせて刺されて死んだりしたなぁ」

「あ、刺されて死にかけるの、昨夜が初めてじゃないんだ……。」


 ガスで身動き取れない間に生贄にされた事もあったな。

 むしろ、生きて会った女神は今の所マイヨウレンだけだ。


「普通は死んだら戻って来れないから、お前は気をつけろ」

「その忠告は斬新だわ? あなた、何なの?」


 聞き方が大雑把すぎる。

 俺たちに必要なのは、信条を含めた相互理解だろう。

 活気の良い市場の通りに出た。

 小売店や卸業、買い物客、掘り出し物を探す冒険者。住宅地から急に歓声が沸いたようだ。

 すれ違った背の低い老人が、「お暇します。お元気で」と小さく呟いた。

 ハッとして振り向くが、老人の姿は見えなかった。


「今の翁、不思議な足取りね。年老いてるようには見えないわ」


 分かるのか?

 だが、中身がドクダミ領で会った人物とは思うまい。

 思えば、コイツの復讐劇はあそこから始まった。まさか自身の行動が彼女の運命を変えるとは。


「はぁ……バタフライエフェクトか」

「ん? 何? まさか、私にバタフライ的なものを履かせたいの?」


 何だよバタフライ的なのって?




 王城の門番に告げると、8畳程度の客間に通された。


「サツキ様!!」


 先に入室していたドレス姿の笑顔が咲きほこる。

 黒柿色の真っ直ぐな髪を後ろで丁寧に束ねた――ゴギョウさんだ。


「君が来ているとは」

「ハナキリン様が。サツキ様が移動にお困りになるだろうと」

「て事はコマクサか?」

「今は車両と共に、騎士様用の中庭に。大きな馬舎が作られていましたね」


 ああ、空き家を再利用したのか。

 確かにワイバーンの不在となれば解体を待つばかりだったろう。王国の貴族から俺に宛てがった侍女が俺を迎えに来た。魔物とはいえコマクサは王立第一学園で飼育されていた。いずれも王政側が拒否する理由はない。メイド着じゃないのは、彼らの誰かと謁見の後か。


「到着は今日?」


 タイミングが良すぎる。

 ハナキリンさんが予見した? こんなに都合よく? 何らかの予知に関するスキル持ちかな。王妃様ってのはどこの国もチート持ちかよ。


「先日の夕刻でしたわ。冒険者ギルドのクエストに出られた後でしたので行き違いになってしまいましたのね」

「ここでもすれ違わなくて良かったよ」


 さっきの言付け。ゴギョウさんの背後は国王かな。馬鹿正直に彼女に聞くのは野暮だけど。


「向こうの仔細を伺いたいが、まずはこちらだ」


 無言で佇むアナベルに向く。

 一言も発しないのは貴族令嬢に対する身分をわきまえての事だ。


「このたび我が五番目の妻に迎えた――いや分かるよ、気持ちは分かる、そんな顔すんなって」

「五番目の妻ってって何ですか!? 攫われたクラン様を連れ戻しに出ってって、え? 5人目の奥さん? 五等分にしちゃったの!?」


 本当に最低だよな、俺。

 アナベルは何か俺の裾を摘んでブンブンしてるし。狼が小動物なってんぞ。

 朱に染まり可愛らしく俯いてるが、お前はお前で油断が過ぎる。

 あの黄昏時の街路で味わった恐怖を忘れたか。クラン・ベリーはお前の暴挙を決して許してはいないぞ?


「私だって、サツキ様をこうばんざーいってさせてお着替えをお手伝いした事だってあるんですよ!!」


 しかも初対面だったしな。


「綺麗にドレスで着飾って差し上げて……あの時から私!! 美少女になったサツキさんにこの大きなお尻を雑に背後から攻められたいって思っていたのに!!」

「ぜってー事情知ってんだろテメー!!」


 睨んだ先は、アナベルだ。

 ゴギョウさんはひとまずいい。出会った頃から白状したようなものだ。俺たち三人しか知らない今朝までの行為を暗喩したなら、陰でゴギョウさんの背後関係に通じた奴が居たってわけだ。

 恐らく最初の接触は王城に入って別れた時だろう。仮に黒幕として、そいつの使用人が同行者(クラン)に悟られず接触した。可能だ。王政の隠密は冒険者の盗賊職を出し抜く。アザミの一族もその内の一派だ。最後の接触は、まぁ、さっきの別行動の時だろうな。


「最初から密告者を抱えていたわけだ。半裸のおっさんが陛下とは知らなかったんだろう? 俺よりもクランを出し抜き頻繁に疎通を許すとはな」


 姉上に会いに行く道中で、クランの帯同の意味を意識したはずだ。その上で、内通を辞めないのは故意と判断する。つまり敵だ。


「どういうつもりだ、アナベル?」

「私は……。」

「待ってください!! 私のお尻の話がまだ終わっていません!! 何でしたら立ちバックでも寝バックでも――。」


 え、先そっち?


「クランに義理を立てるのが優先なんだよ。ゴギョウさんを付人以外には出来ないと前にも宣言したはずだ」

「奥様一筋のはずが、五人も娶られるのは恥ではないのですか?」

「本当にね!!」


 分かってるんだよ。バーベナさんやイチハツさんを受け入れた時点で最低の不義理だって。


「古巣を追放されてからだ。言い寄られる事が増えたんだ。下手したら村一個分の女から」


 村人活殺陣とか。


「星の巡りなのでしょうか。私もその一人と認識されてますのね。奥様とは一線を画すと」

「そこまで明確な境界は無いよ。ただ、惰性で誠実な信念を無碍にするのは、反発を覚えるんだ。自分のことを気に食わないって分かるから」


 一度、迷宮都市(カサブランカ)でサザンカやクランと訣別した。哀愍(あいびん)の一片もなく、泣かせもした。なのに二人以外の女性とも関係を持つなど、初めからおこがましいではないか。


「肝心なのはサツキ様が望まれているか。その一点ではないのでしょうか? 外からの見え方では、詭弁を弄して駄々を申してる風にしか」

「境遇を利用してると? 俺がそれを楽だと思っているから不義理に抵抗がなかったって言いたいのか?」


 俺の屁理屈に、ゴギョウさんは少しだけ悲しそうに眉を顰めた。


「奥様の――クラン様の心情をおもんかばればこそ」

「こちらのアナベルは、彼女も認めた」


 やべ、糾弾するはずが口実を作っちまった。いやもうアナベルはいい。おっさんからしたら用済みだろう。

 確かに、ゴギョウさんの見解は自身の価値を全否定していながら正鵠を射ている。ならば、俺にだってケジメの付けようはある。


「仮拠点から、コマクサでどれだけ掛かった?」


 あからさまに話題を逸らされ、ゴギョウさんはキョトンとし、すぐに軽蔑するような視線になった。


「行きはあれだけ掛かった行程でしたのに、たった三日でした」

「ならその三日は、いや厳密にはクランと合流を果たすまで、貴女がたには性的な接触を行わないと宣言しよう」


 二人の女に稲妻が走った。そんな顔になった。


「な、何を言ってるの、サツキ? 嘘でしょ……。」


 おい、そこまで動揺することか?


「またおあずけですか? 私だけおあずけなんですか? ご褒美くらいあったっていいじゃないですか!!」


 ゴギョウさん、ちょっと待て。


「俺の覚悟を示したまでだ」

「よく分かったわ、サツキ」


 多分、分かってない。

 ゴギョウさんと指を絡めるように手を組むと、ビシっと俺に指を指してきた。


「この旅で、あんたの頭の中を桃色にして必ずやそんな決意を挫いてやるんだから!!」

「やるんだから!! ――え? 私何をさせられるんですか!?」


 俺への闘志に燃える復讐者は、相棒を得て新たな目標に奮起するのであった。

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