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33話 悟り発見伝

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。


※運営殿からの警告措置を受け、2021/3/20に26話~41話を削除いたしました。

 このたび、修正版を再掲いたします。

 ギルドの前にグリーンガーデンの滞在先へ寄った。

 場所は調べてある。マリーが。

 こ洒落た宿泊施設は、中央区画の一等地にあった。

 部屋数と施設の間取りこそ小規模だが、設備や床、壁の素材、加工術式、防衛機構はカサブランカでもお客様満足度一位を誇る。要は中身のグレードだ。

 来訪の際は、ボーイが宿泊客に伺いを立てる。


「ご提示、有難う御座います」


 偽造の有無を確認した冒険者証をマリーに返し、「こちらへどうぞ」と男が一礼する。

 利用者の了承が降りれば部屋の前まで案内される仕組みだ。冒険者証の確認と並行し、承認をとったのだろう。尚、連れ込みは禁止となっていた。


「待ちます」


 短く言って、マリーがフロント前のチェアに視線を送る。

 入り口前では、若い男女が中を窺っていた。

 来るまでに一騒動あった。

 男女問わず、後を着けられた。尾行ではない。ただ着いて来てしまったのだ。

 マリーが腕を絡め体を寄せる姿に大半が離れていったが、逆に黄色い悲鳴を上げる奴もいた。ここまで来やがった奴らだ。


「営業妨害だな」

「どうぞお気になさらず」


 ボーイが、施設の防御力を誇るように答えた。

 マリーが瞼を伏せチェアに座るのを確認し、彼の後に従った。



 ノックの後、返事が直ぐに返った。

 俺の来訪は知らされている。

 ボーイを見ると、恭しく頭を下げるので――特に声も掛けず、ずかずかと部屋に入った。眉をしかめられたかもしれない。

 礼をしたまま、ボーイが外から扉を閉めると、自動でロックが掛かった。

 中に二人が居るのは気配で知っていた。

 頭を抱えた。

 事態を読み切れぬとは……。


「いらっしゃいませー」

「……ませー」


 サザンカの大きく胸元が()いたドレス。零れそうだ。

 クランの大きく胸元が()いたドレス。かなりスカスカだ。


「ささ、どうぞおかけになって」

「……なって」


 大き目のソファを薦める。

 罠である事は明白だ。敢えて乗ってやろうか。

 俺が座ると左にサザンカ、右にクランが密着する様に腰を下ろした。両脇に温もりを感じる。

 短いスカートのせいで、二人の生太ももが露わになった。

 サザンカの脚。肌のハリも回復して健康状態は良好だな。

 ここに来た目的は彼女だ。

 俺の蘇生の為、相当な無茶をしてくた。その後、不可抗力であったが直ぐに回復措置を施せたのは僥倖だが、その手段にも大きな問題があった。

 精神的にも疲労したはずだ。

 嫌っている相手のモノをあーしてこーして、最後に飲み込んだんだからな。

 哀傷に塞ぎ込む可能性も鑑み、直接面会は悩んだ。

 それにしても、以前にも見かけたシチュエーションだな。

 あぁ、転生の女神(リンノウレン)がやっていたヤツか。

 これ流行ってるのか?


「……何か……お飲みに、なります……?」


 クランがしな垂れ掛かってきた。

 上目遣いで俺を見上げ――そして硬直する。


「まぁ、お客様、そんなに固くならなくてもいいのよ」


 サザンカが腕に絡んで胸を押し付けてきやがった。

 そうか。あの時の事で塞ぎ込む様子も無いか。安心していいのか複雑だが。

 香水の匂いがした。

 髪を下ろし、太ももと胸を強調する――酒瓶を抱えたままソファでぐーすか寝てた、俺が惚れたお前はどこへ行ったというのだ?

 お前は何かあればアイアンクローで落としにかかる子だったはずだ。


「お客様は、初めてかしら。ふふ――、」

「……大変、サザちゃん……本当に初めて、かもしれない」


 ダラダラと汗をかきながら、クランがサザンカの茶番を遮った。


「え?」


 目をパチクリさせ俺を見る。


「って、ええ!? 誰よ!?」


 どうやら梼昧(とうまい)な彼女らでも気づいたようだ。いや、それ故に気づかれないって方が正しいか。

 アポイント無しで来た事でひとネタ思いついたらしい。ドレスが板に付いて無いのはそのせいか。


「ごめんなさいっ、てっきり彼氏が遊びに来たと思って悪ふざけをしてしまったの!!」

「……すみません……彼氏が、こういう遊びが好きな人で……だから……。」


 誰と勘違いしてるんだ? ていうか彼氏? コイツらに男が居たの? 初耳だが、やっぱ今時の女の子だな。彼氏の一人や二人――あれ?

 なんだ? 妙に不愉快だ。


「あの、フロントからはサツキという冒険者が訪問したと聞いたのだけれど? マリーもご一緒だったのよね?」


 そういや俺の冒険者証は確認しなかったな。S級のマリーが本人だってだけで、ここまで入り込めるのは問題だぞ。


「……まさか、貴女……サツキくんの、新しい女? それで……私達に手を引くよう直談判……いいえ、宣戦布告に来たの?」


 クランの湖面のような瞳に、殺意の光りが反射する。おいおい。


「だとしたら、どうします?」


 なんで俺、煽ってるんだろ?


「……今ここで雌雄を決するのは……むしろ僥倖。どちらの……パンツが凄いか、思い知らせてあげる」


 どうあってもパンツか。二の句が継げないぞ。

 待て、パンツ基準だと?


「ふふ……吠えずらかかせて……あげる」


 立ち上がりドレスの裾をまくり上げた。吠えずらをかかされた。

 めっちゃ布面積が小さいやん!?


「な、なんてことを――!?」

「ふふふのふ……今までサツキくんに嗅いでもらうのに質量に拘っていたけど……もう、普通に嗅がれるだけじゃ、イヤ」


 おめーの性癖かよ!!

 いや、転生の女神(リンノウレン)に色々聞かされて、そろそろマジメに嗅がなきゃなとか思ってたんだが。この期に及んでハードル上げてきやがった!!


「どうやらウチのクランのパンツを前に恐れをなしたようね」


 お前はお前で何言ってんだ?


「今までは脱いで嗅がせようとしていた。それは無防備になる股間へのリスクとせめぎ合いでもあったわ」


 初対面の相手にパンツ嗅がせるとか暴露するリスクはいいのか?


「だが、先日、これらの事態を覆す出来事を受け、我々は新たなアプローチを見た。即ち――。」

「……履いたまま嗅がせる」

「社運を賭けた一声だったわ」

「……その時、パンツが動いた」

「どういう、ことだ?」


 ていうか、この茶番は続くのか?


「貴女には分からないかしら。あたし達ね、彼のものに直接舌を這わせ口づけをした仲なのよ? ――つまり、その逆もまた真なり!!」

「ば、馬鹿な!?」


 いや馬鹿だろ、コイツら。

 あと「彼のもの」とかいうのは、指のことだろ?


「ていうか、お前ら彼氏居るとか言ってただろ?」

「えぇ、だから彼氏よ。あたしなんて、彼の濃厚で白濁したものまで直接飲ませてもらったんだから」

「論法というか定義がおかしい!!」


 それは生命の根の還元が目的だつってんだろうが。

 いくら惚れて好きで、告白までしたと相手とはいえ、こっちだってあんな醜態晒してんだぞ? 泣くぞ?

 ていうか、え? 彼氏?


「待ってサザちゃん……それ私、聞いてない……。」

「あ」


 妙な軋轢が生まれた。


「……どういうこと? サザちゃん……あの後、何も無かったって……え? 何? 最後まで咥えちゃったの? それを黙っていたの? 何で? どういうこと? ね? どういうこと?」


 光りの消えた瞳でサザンカに迫る。

 ぼそぼそ喋りがない。記憶のどこかで見たクランだ。

 あの怪力乱神が顔を引きつらせてるんだもんな。ご痛心のほど察っするわ。


「口で!! 口でだから!!」

「そ、そう、それにコイツ、あの時は無茶し過ぎて自分が危うい状態だったんだぞ? 俺だって蘇生したてで全身激痛で発熱もして――。」


 言葉に詰まった。二人が表情の消えた眼精で俺を見ていた。

 ゆらりゆらりと、漂うように。空間に溺れるように、無言で俺のスカートを掴んで捲ってくる。抵抗しようにも、怖くて動けない。

 あずき色のタイツ越しに透けて見えるエレガントゾーンが露わになる。

 憑りつかれたような、緩慢な動きでそこへと這い寄って来やがった。俺の股間へと!!


「ちょ、駄目、やだ……!!」


 くそ!! また女の子みたいな悲鳴上げちまった。

 成すがままだった。


「この乱れ咲く花のような爛漫たるは……サツキくん……!?」

「なるほどね。美妙なる色香。えぇ、紛れもなくサツキよ。元気そうで慶賀にたえないわ」

「そちらこそ快復に至ったようで大慶に存じるぜ――じゃない!! お前ら今、何を見て判断した!? って、待って、押し付けないで!!」


 二人が容赦なく顔を押し付けてきやがった。

 タイツが擦れて変な感触だ。


「だめ。もう顔を見せられない。何も喋んな」

「……やだ……もう、ここから出られない……。」


 こんな弱々しい声は初めて聞いた。

 でもぐりぐりと押し付けてくるのは、やめてくれないんですね?


「いっそ、ここに住むぅ」

「……ここが……ゴールで、いいから……。」


 おい。

 ほんと、やめろ。


「ちきしょう、こんな時にワイルドが居てくれたなら……ていうか、アイツ、どうして居ないんだ?」

「……兄さんなら……一人で帰りました……。」

「ぴゃ!?」


 く、口を押し付けたまま喋るな!!


「……領地にか?」

「……おうちに」

「んっ!!」


 股間からくぐもった声が返る。

 いい加減、出てってくれ。


「今回の事で、正式に報告を上げなくちゃならないのよ」

「はぁはぁ……あれは俺が原因だ。アイツ一人で、釈明せにゃならん理由でも、ないだろうに」


 何で、何でこのまま会話を続けるんだよ?


「……サツキくんを……パーティから追い出しました」

「サザンカに、告白してフラれたのが契機だ」

「うっ、そういえば、あたしも追放に賛成してたわ……。」

「私も……パンツを嗅がせようと、していました……。」


 待って!! それ報告したらややこしくなるから!!


「それが今では……こうしてサツキくんのパンツを嗅いでるなんて……人生、わかりませんね」

「ねー」


 分からな過ぎにも程がある。

 さっきから股間に話しかけられる身にもなってくれ。


「ところでサザちゃん……先程の話が、まだ終わって無いと思うのですが……。」

「ひぃぃっ」


 股間から少女の悲鳴が響くのも、妙な光景だな。


「怖がらないで……もう怒ってないから……。」

「うん、今更だけどクランが怒ると怖いって思い知ったわ」


 俺もだ。


「でも私は……お揃いに、なりたい、かな……?」


 怒りを治めても尚、怖いこと言い出すか。

 股間から顔を出し、とろんと蕩けたような顔で見上げてくる。


「私だけ……何も無いのは寂寥(せきりょう)に感じる……。」


 声は切なくか細いのに、潤んだ瞳は熱を持ったようだ。

 なのに、春霞の掛かった淡い色を思わせる。

 そうか。女将さん、一種の魅了って言ってたな。


「サザンカ? お前、状態回復が使えたよな?」


 動けない。いずれは菖蒲(あやめ)杜若(かきつばた)など言ってられるか。

 六部の恐怖と四部の絶望に硬直し暫時は呼吸をするのさえ忘れていた。


「できるけど、シテあげなーい」


 顔を出したサザンカの瞳も、クランと同じく熱く濡れていた。

 あかん。おまえは乗っかってきたな。

 そのまま這い寄るように、俺の顔まで寄せてきた。


「今のサツキだと、まだクランじゃ良くならないと思うから」


 そっか。お前も俺の事を知ってるのか。


「サツキはさ。男女の機敏に怯懦(きょうだ)なんだよね。だから付き合い方に老獪(ろうかい)な人を軽蔑する事で格好をつけようとするの」


 無造作に自分の胸元に手を当て、引き下ろすと、ぶるるんとたわわな物が出た。外気に触れ歓喜に満ちたわななきだ。


「虚飾だってわかるから、だったら女は最初から君に幻滅なんてしないもの。安心して? 好きにしてもいいよ? あたしの胸、好きでしょ」

「あの時のお前の顔な」

「あら?」

「あの眼の鈍い光が猜忌に濁ったものでなかったとしたら、それは俺の高慢だろうか」


 ずっと思っていた疑問だ。


「ふふ。サツキは凄くいかわいいから気を付けなきゃ駄目よ」


 そうやって、はぐらかす。


「特に今は可愛らしい女の子になっちゃったんだから。嚮後(きょうこう)はこんな罠に嵌らないように、あたし達がしっかりと守ってあげなくちゃ。だからサツキ、ずっと一緒に、いよ?」


 スカートの中でもぞもぞと動くクランの頭を眺めていた。

 サザンカが乳房を顔に擦り付けてくる。熱い吐息がかかる。二人の体が熱を帯びるのが分かる。

 中央都市で追放された頃は、想像できない光景だ。


「これからどうする気だ?」

「一度、以前にお世話になった協会へ行こうと思ってるわ。正しく回復もしておく必要があるし、修練も積まなくちゃ。クランも、まだ時間があるから付き合ってもらうつもり」

「俺は、クエストを受けようと思う。明後日にはここを発つ」

「そう。なら、この街に居る間だけでもあたし達の意馬心猿(いばしんえん)に付帯してくれたって――。」


 サザンカを振りほどいて、立ち上がった。

 ソファから抜け出すと、ぺたんと座ったクランが不思議そうに見上げていた。


「ちょっと!! 何よ!!」


 サザンカが鬼の形相で睨む。

 そりゃそうだよな。状態異常耐性のあるマリーが平常運転だったんだ。同じスキル持ちなら当然だ。


「俺は追放者だ。その資格が無い」

「馬鹿にして!! あんた、そうやって弁を弄してあたしの事を言い訳にする!! いい加減にしてよ!!」


 はは、そっちの顔の方が似合ってるぞ。


「己の立場を看過できないって言ってるだけだ。だから貴女との合意に甘んじられない」

「そんな胡乱な事言われたってさ!! あたし達だって満たされたいって冀求(ききゅう)して何が悪いっていうのよ!!」

「俺にとっては肝心じゃない。そう迷妄が侮辱というなら、それこそ傲慢だ。そんな理由を重ねてさ、申し訳程度の矜持すら許さないってわかるんだよ」

「あんたね――!!」


 サザンカが右手を振りかぶった。平手だった。



 フロントへ出ると、マリーが椅子からぴょんと飛び降りた。

 俺を見て、眉をしかめる。

 それから、深くため息を吐いた。


「派手にやりましたね。あはは、サツキさんって私と似通ってるんですよ。すぐに人の気持ちを裏切って踏みにじっちゃう。最初に会った時から知ってました。同族は嫌悪するものって言うじゃないですか? アレ、絶対嘘ですよ。だって私達、凄くお互いのこと理解できるのに、極めて感じられるのに、こんなにも惹かれ合ってるんですから。違うって否定できます? 拒否できます? だって、ギルドに行く為だけで、私を連れ出してくれたんじゃないのでしょ? 慰めてくれる人が欲しかったから私を利用したんでしょ? 困ったお姉ちゃんですね。いいですよ。まだ時間もありますし、顔の腫れ、どうにかしないと。とりあえずスカーフで隠して、ゆっくり冷やせる場所も。あぁ、ちょうどそこに宿屋がありますね。一旦避難しましょうか。ここだと、また会っちゃいますよね。ほら、そんな顔しないで。手を繋ぎましょう。大丈夫ですよ。私が、貴方のしたいように慰めてあげますから。ね。サツキお姉ちゃん」


 ……。

 ……。


「「怖いわ!!」」


 俺とフロントのボーイが同時に叫んでいた。

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。


本文中、

尊敬する作家さんの一節を、まんまパクッてたりしています。

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