34話 彼と共に去りぬ
ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。
さて、旅立ち編は36話まで続きます。
サブタイトルには特に意味がありませんが、御覧の通り古い映画からパクっています。
※運営殿からの警告措置を受け、2021/3/20に26話~41話を削除いたしました。
このたび、修正版を再掲いたします。
重厚だが真新しい入り口を潜ると喧噪が消えた。
フロアの冒険者が一斉に振り向く。
揶揄う者も、侮蔑する者も、誰もが声を無くした。
播種の如き空間がまさしく水を打ったように、静寂は冷気となって固着した。
俺を見ていた。
「参ろうか」
「はい、お姉ちゃん」
右腕を出すとマリーが跳ねるように絡んでくる。彼女を伴いカウンターへ向かうと、目の前の人々が左右に分かれ、一筋の道が出来た。
どこの神話だよ。
「視線、凄いな」
「典麗な容姿に妖にして艶ともあれば、見つめられもしましょう」
「しかし、これでは野分の目だよ」
「誰だって綺麗過ぎる物は怖いから」
顔を正面に向けたまま、小声で話す。
色気とか勘弁してくれ。
そんなもの、振り撒いてられるか。
……そういやスカート、少々短い気がしてきた。
「だからって、目覚めないで下さいね? サツキさんはそういう所、迂闊なんですから」
「言ってくれるな」
正面に影が現れた。
巨体の上に岩のような顔を乗せた冒険者だ。わざと遮るように出てきた。
マリーの話を真に受けると、然ばかり豪勇ではないか。
「おいおい、こんな所に可愛らしいのが来たな!! ここは嬢ちゃんらの用がある場所じゃないぜ!!」
って、それ俺が言いたかった台詞!! 言いたかった台詞!!
よくも盗ったな!!
「特にそっちの姉ちゃんはとんでもねぇ別嬪じゃねぇか!!」
そんな風に見るな!! やっぱ短いからか!? スカート短いからなのか!?
くそっ、もう少し太めのデニールが良かったか!!
俺が睨むと、横を通り過ぎた眼鏡に七三分けの職員が、
「クエストの依頼で一般のかたも来られますよ」
おのれ!! この期に及んで正論を!!
ほら、絡んできた冒険者も口をぱくぱくさせて、二の句が継げずに居るぞ!? って待て!! 職員の男、さっさとカウンターへ仕事に戻るんじゃねーよ!!
どう処理するんだ、これ!?
周りの冒険者達が固唾を飲んで見守っている。
いや見てんなよ。よもや駟馬も追う能わず。だったら、こんな時こそ仲間の結束を信じさせてくれよ!!
「お、おい、アイツはCランクのあれだ、荒くれだぜ」
一人、自分の役割を思い出したヤツが居た。よし、悪くない出だしだ。
それを合図に、
「お、おう、そうだ、素行が悪くてアレなCランクのあれだ」
「あー、可愛そうに、アレに絡まれるだなんてな」
「まんずまんず」
「うんだうんだ」
ざわついた。
いい感じだ。
俺も絡んできた巨漢も、口元に満足げな笑みを浮かべた。
それを台無しにするのが、隣に居るやつだ。
「あの……ランクだけで言ったら私、Sランクなんですが……?」
水を打ったように静かになった。
……。
……。
「おい、どうすんだよ、この空気!?」
「え? 私ですか!? 私が悪いっていうんですか!? 大体、何で私の時は誰も絡んでくれなかったんですか!! 差し支え無ければ教えて下さい!!」
何かキレてた。
「いや、おめぇはカタバミさんと一緒に居たじゃねーか。あの人に喧嘩売れるヤツなんざいねーよ」
目の前の巨漢が弱気な事を言いだした。
もう少し頑陋で通せよと思う所だが、こればっかりは正しい物の見方だ。俺だって嫌だよ。あの人に因縁つけるだなんて。
仕方がない、ここは穏便に済ませるか。
「ねぇ、お兄さん」
と巨漢との距離を縮める。
一歩も必要無い。
「うちの連れが済まないね、お兄さん。ここは俺に免じて勘弁してくれないかい」
しな垂れ掛かるように寄り添い、ヤツの胸元にゆらりと手を這わせた。
見上げると、巨漢の相好が崩れた。一瞬弛緩した筋肉から力が抜け、腰砕けになるのがわかる。
――よし!! コツは掴めた!!
「そういう趣味の人、だったんですか?」
「磯の鮑の片思い。相手が俺だった事を不運と知れ」
「うわぁ……。」
マリーが引いていた。
受付カウンターで冒険者の初期登録を申請した。
対応してくれたのは、ゆるふわな受付嬢、ユーフォルビア・ダイアモンドフロストさんだ。
柔らかい人当たりに、愛くるしい笑顔の人だ。カサブランカでの業務も長いと聞いたし、クロユリさん並みに人気があると思うのだが、そういう話は聞かない。
「はい、用紙のほう、受領しました。えぇと、お名前はサツキさんでよろしいのですよね? あれ? 初めまして、でしょうか? あ、はい、では冒険者証の発行までの間、ギルドの規約についてご説明を致しましょうか。え、いらない? はい。子細ありません。マリーさんやカタバミさんから教えて頂いたのですね。代わりに? えぇ、何でも聞いて下さい、大丈夫ですよ。私? あ、私の事ですか? ふふ、えぇ、構いません。付き合ってる人? あぁ、お仕事のことじゃなくて、そっち系ですね。ガールズトークですね。お付き合いしているといいますか、夫が居ます。はい、既婚者なんです。あまりそう見られないのですが、子供は男の子と女の子が一人づつ。最近は冒険者に憧れて、泥だらけになって帰ってくることもあるんです。ふふ、そうなんです、そうなんです。わんぱくが過ぎるのも心配ですけど、目標を持ってくれることは良い事ですね。一昨日あたりから冒険者の事を色々教えてくれる大きな猫が居て、その子に夢中なんです。ご存知ですか? 今、子供たちに大人気なんですよ」
滔滔と述べるが最後、何か不穏なものを聞いた気がする。だが納得もいく。赴任して早々にクロユリさん人気が上がったわけだ。
お前ら。分かっちゃ居ないな。
人妻はな。良い匂いがするぞ。
「サツキお姉ちゃん、あまり変な視線で他人を見るのは感心しませんよ?」
囁くような声で釘を刺された。
何故、お前はカウンターの下で俺の太もも撫でくり回す? お姉ちゃんも関心しませんよ?
「それと、ギルド内ではあまり変な事はしないでくださいね?」
さっきの俺の事か。或いは、今のマリーの事か。
「ごめんなさい。うちのお姉ちゃん、 売女だからすぐ男の人を蕩けさせちゃうんです。よく言って聞かせますから」
俺が悪い事にされた上に、変な設定を盛られた。
ジキタリスの依頼については、目新しい情報は無かった。
捜索対象の引き渡しが別途、クライアント指定による、てことぐらいか。
うん、これアウトだわ。
捜索対象は犯罪者か?
「カサブランカがジキタリスの領分を冒すのは具合が悪くないのか?」
「同じギルドの支部同士ですから、そこは問題無いのですが。逆に言えばお互い通じてるということです」
そういう意味でもクライアントは明哲に欠けるか。或いはマリーの推測通りか。
ひとまずマリーのパーティということで受注は叶ったが、ユーフォルビアさんからは再考するよう勧められた。
内容が額面通りに受け取れないもの。
「商工会議所経由のかたと落ち合えるよう取り計らっておきますね。ターミナル市場なら向こうからの行商人と合流も容易です。マリーさんもご同行されるのですよね?」
「えぇ、ここにもようやく慣れてきたのに忙しないけど。こっちのお姉ちゃんがどうしてもって」
へいへい、仁恕に溢れる妹分で嬉しいよ。
そりゃ、こんな怪しい依頼、滅多に無いもんな。
「ありていに言えば金欠病でね。糊口をしのいでるんだが、こればっかりは回復術でどうにかできるものでもないから」
「確かに中級討伐の報酬に近い額ですが、それだけにどうか油断を召さらないで下さい」
「心得ている。もう一ついいかな?」
「何が仰りたいのかは、察しております。ここでの、新米冒険者さんへの歓迎の意とご理解頂ければ幸いに存知ます――あぁ、マリーさんは既にSランクですし、カタバミさんのご紹介でしたから」
「いえ、私は私で何かあった気がする……。」
「では皆さん。もういいですよ」
ゆるふわ人妻受付嬢さんが声を掛けると、背後で遠巻きにしていた連中が押し寄せてきた。
「よっしゃ!! あんた初めてなんだろ? 俺たちの所に来ないか?」
「ねぇねぇ!! 女の子同士のパーティなんだけど、どうかな!!」
「うちにはBランクも居るんだ、熟練度が捗るぜ!!」
「ジキタリスに行くって? 例の依頼を受けるんなら付き合うぞ!!」
「あんた、すげぇ美人だな。どこから来たんだい?」
「待て、聞くは無粋だぞ」
「はわぁー、凄く綺麗な脚ね。何かコツがあるの? ねぇ、コツとかあるの?」
「待て、もっと詳しく聞け」
「いや、いきなりセクハラは駄目だろ」
「いいんですぅー。女の子同士だからいいんですぅー」
「聞いてくれ。こっちは健全だぜ!!」
「うちも健全だ!!」
「アタシたちだって健全よ!!」
なんか後半、著しく健全を推してるんだが……。
確かに、健全なのは惹かれるな。
「皆さん。ご高配を感謝する。だが、今はこちらのマリーと共に堅忍不抜の精神で精進したいと思う。だから皆さんも、どうかこれからも健全で」
俺が一礼すると、おぉ、と歓声が上がった。
自分でも何言ってるのか分からんようになってきた。
「マリーだ!!」
「やっぱりマリーだ!!」
「マリーだぜ!!」
「マリーちゃんね!!」
安定の信頼感みたいになってる。
本人は、
「ちょっと、皆やめてよ、もう。わたしぃ、そんなんじゃないんだからぁ~」
手を目の前でぱたぱた振っていた。まんざらでもなさそうだが、何が何やら理解が追い付かない。
そのうち、
「「「「まーりーぃ!! まーりーぃ!!」」」」
「ダァー!!」
カウンターに登って声援に応えていた。
パンツが丸見えだった。
翌日、旅の準備に奔走する。
大雑把な担当分けだが、俺が野宿の設備。マリーが足――つまり馬車もしくは、それに類似するものだ。
資金を渡したが、当面必要無いと突き返された。
「宿屋の短期雇用、どんだけ羽振りがいいんだ?」
オーナーに聞くと、給料は平均的だった。
出会い目的での就業とのことで、本人が金銭に拘らないらしい。
それも、今は解決を見たようで、俺が蘇った夜には退職の相談をされていた。
「そうか。あいつに捕まった可哀そうな男が居たのか」
「ま、今じゃ男か女かもわからんようになってるがな」
「ははは、そんな面妖なヤツがそうそう居てたまるか」
「ふっはははっ、まったくだぜ」
結果的に引き抜く形になったので後ろめたかったが、円満退職のようで何よりだ。
「なぁ、あんた。短い間だったがあの子は俺達にとっちゃ娘みたいなもんなんだ。くれぐれも粗末に扱ってくれるなよ?」
めっちゃドスの効いた声で迫られた。
……円満退職なんだよな?
ただ、眼差しは追懐にふけるように、寂しげだった。
本当にこの人は、強面のくせに情が深い。
「懐いてくれてると思うがね。お互い頑迷で、俺に至っちゃ固陋だもん。反りが合わない所もあるだろうよ」
皮肉屋な言い回しに、オーナーは分厚い唇に笑み浮かべた。
「てめぇで分かってるなら、それで上等だ」
だから買いかぶり過ぎなんだよ。
さて、テントの準備だったな。
まずは全体像を浮かべようか。二人以上の利用を鑑みるとサイズは中規模以上がいいな。設備。女の子が居るんだ、水回りは大事だろう。寝具もグレードが必要だ。俺がヒーラーを兼任するとはいえ、根本的な疲れは睡眠で癒すしかない。
そして予算だ。グリーンガーデン時代の蓄えがある。
……。
……。
よし、不動産に行こう。
二段も三段も論法が飛躍していた事に気づいたのは、翌夜にマリーの突っ込みを受けた後だった。今の姿が思いの外、交渉に役立ったのもありテンションがおかしくなっていた。
いや、せっかく転移の女神の加護を授かったのだ。これからの旅もオルタナティブで行こうか。
既成やそれに基づく敢行なんてのは、いずれは代替に代り選び得るものなんだ。
その最たるものが、やはりアイツだった。
翌朝。マリーが入手した馬車が来た。
……なんじゃコリャ!?
俺を含む全員が悲鳴を上げた。
お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。
本来は31話~36話を二話分で終わる予定でした。
やはり惰性でテキストが増えていきますね。悪い傾向です。




