91話 チェスの親
入り口にずっと止まっていては不審に思われてしまうし、やり遂げたいこともできないので、リズたちは奥へと歩き出した。
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中はとても広かったが、広さに比べ如何せん人が少なかった。
なるべく魔力を温存しておきたかったので、認識阻害魔法を解いた。
自分たちの正体が見つかる心配性が少なくなったのはいいことなのだが、ここまで室内で人間に合わなかったのだ、いっそ不気味だ。
しかし、怖いからといって足を竦ませ、その場でうずくまることは根本の解決をするために不必要なものなので、体に鞭を打って足を動かした。
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しばらく歩くと、研究室というプレートがかかった扉を見つけた。
政府の中枢機関だというのに、ドアにかけられたプレートが可愛らしい花のがらだったものだから、リズたちはキョトンとした顔を浮かべたが、気を引き締めて中に入った。
扉の奥では何やら水のようなものが入ったガラス製の円柱がたくさんあった。
一体何を研究していたのか、現段階ではわからないものの、大方人体改造などの恐ろしいことをしていたのだろう。
国がやっていることを明らかにするために、リズたちが証拠を探そうとすると
バン!と勢いよく扉を開けたような音が響いてきたかと思うと、これまた慌てた様子で近ずいてくる足音が2つ聞こえてきた。
「ふ、不法侵入だぞ!ここをどこだと思ってるんだ!」
「チッ……毒親どもめ、まだ生きてたのか…。」
男性にしては小柄な体が先に見えたと思うと、チェスが小声で何かつぶやいた。
リズには聞こえなかったが、チェスはまるで目の前で親でも殺されたかのような憎悪を向けていた。
神獣たちはチェスの心音が明らかに先程までの一定のリズムではなく、焦った時や感情が爆発しそうな時に起こる早さになったことがわかった。
「チェス……?あぁ!チェス!」
男性の後ろから女性が出てきた。
彼女はチェスを見ると嬉しそうな、楽しそうな、陽の感情を向けてきた。
リズは目の前にいる女性に会ったことがあったため、その人がチェスの母親であると知っていた。
もしかして、チェスのことを心配していたのかな?会えてよかったね。だなんて、微笑ましい気持ちが全面的に出ていたが、彼女から出てきた次の言葉に、リズは心底びっくりした。
「どこにいっていたの!全く……ちょっと成績とか運動神経とかが優秀だからって、勝手に家を出て行くだなんて!あんたは私のいうことだけ聞いて従っていればいいのよ!」
「そうだ!母さんのいう通りだぞ!」
愛情のかけらもない、そんな風に思われても仕方がないような冷たい言葉は、チェスの悩みを知っていたレオからすれば今すぐ殴り倒してしまいたいと思わざるを得なかった。
しかし、当の本人であるチェスは意外と冷静で、目の前に対峙した親に真正面から
「お前たちのことを親と思ったことはない。俺は俺の進みたい道を行く。」




