89話 それぞれの思い残し
計画を実行する日の前日、リズたちはそれぞれが思い思いのことをしていた。
もしかしたら二度とこの世界の風景を見ることができないかもしれない。もちろんそんなことになる気はサラサラないのだが、念には念をと言う言葉通りに、リズたちは今のうちにできることはやっておくことにしたのだ。
リズは母親とおしゃべりをするため、ソレイユやオスマンも両親と会話をしに行き、チェスはレオとともに魔法の練習をした。
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「昨日も言ったけど、気をつけるのよ?絶対帰ってきて、お母さんに元気な顔を見せてちょうだい。……あぁ、元気じゃなくてもいいから生きて帰ってちょうだい。」
「うん。絶対帰ってくるよ!」
リズの言葉を聞いても、エレンは心配で仕方がなかった。
約束をしたからと言って、絶対にそれが守られると言う確証はないのだ。しかし、約束はできないなどと言われて本当に帰ってこないよりかはいいのかもしれないと思うことにした。
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ソレイユとオスマンもリズのように母親、または父親に帰ってくると約束していた。
しかし、オスマンは自分が決めたことを守れる自信がなかった。
やはり自信がやらかしてしまったことを償うためにはこの世からいなくなるしかないのではないか、そんな被害妄想を心の中で何度も何度も繰り返すのだった。
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チェスとレオは今隠れ場としている森の少し奥の方で稽古をしていた。
稽古といっても、竹刀を振るったり木刀を使うようなものではなく、ただ手を前に突き出して呪文を唱えたり、集中力を鍛えるために瞑想をしたり、そんなことが殆ど。
「チェスト、君は何も思い残しがないのか?……まぁ、十中八九そんなことはないと思うが……。」
「わかってんなら何にも聞くなよ。」
レオは魔法を使うのをやめ、チェスのほうへ体を向けて、真剣な声色で
「君が両親のことで辛い思いをしているのは知ってる。なんせ相談された側だからな。……しんどいんだったらちゃんと話した方がいい、みんなとは言わない、小生にでも言ってくれ。」
「‥‥‥‥お前にはこれ以上迷惑をかけられないよ。俺のことばかり気にして自分のことをおろそかにしてんだろ?知ってんだぞ。」
知っていたのか、レオは声には出さず渋い顔をした。
もっと上手くやれたら、そうすればチェストに背負わせなくて済んだだろうに。今更後悔しても遅いことを心の中で吐露する。
実際、今チェストは頼れる大人も、それどころか友達もいない状況で1人立ち向かおうとしているのだ。
「何を言ってもダメなんだろうが、本当にもう無理だと思ったら遠慮なく言えよ。」
「わかってるよ。その代わり、俺にもちゃんと相談するんだぞ。」
「え?」
「お前だって悩みぐらいあるだろ?それを共有してやるって言ってんだ。感謝しろよ?」
「おいおい……君は何様だ?」
「んー…チェストミール様だな!」
「何だよそれ!」
しばしの間、2人はお互い満面とまではいかないが笑みを浮かべあった。




