78話 オスマンの悩み
P.M 21: 41
すでに辺りは暗く、この場にいるほとんどのものが眠りについた。
そんな中、オスマンはただ1人水辺に座り込んでいた。
水に映る三日月を見ながら、オスマンは考え事をしていた。
みんなに言ったら困らせてしまうかもしれない。そんな考えが頭を支配していて、誰かに相談する気にもなれなかったのだ。
はぁ、と思わずため息が出てしまった。
きっと誰もいないだろうと油断していたからなのだろう。そんな彼の横、水面にラタムの姿が映った。
「どうした?浮かない顔をしておるぞ?」
「!?、なんだ……ラタムか。」
体をビクつかせ、オスマンは思いっきり後ろを振り返る。水面に映るラタムの姿を確認するより前に話しかけられたため、驚いてしまったのだ。
オスマンは安心したようにホッと息を吐き、「別に、ラタムには関係のないことだよ。」というが、ラタムは引き下がらなかった。
「そのようなことを言われとも、浮舟のような童を1人にすることなぞできん故。」
「浮舟?‥‥前から思ってたけど、随分と古めかしい言葉を使うよね。僕には理解できないや。」
「あなや、今の時代では使われん言葉じゃったしな。」
今日は一段と古風な話し方をするものだ、とオスマンは思った。
ラタムは本来の姿に戻った時から少しづつ、古い言い回しが増え始めた。多分、これが本性なのだろう。
彼女はオスマンのすぐそばに座り、9つのうちの1つの尻尾で彼の頭を撫でた。
涙が出そうになるのを我慢しながら、オスマンは放っておいてくれと言った。
「思いの外頑固なようじゃの。‥‥‥遠慮なく話せ、このような時間、どうせ神の眷属にとって玉響としか感じん。」
「何を言っても引いてくれないの?」
「あぁ。妾はお心づくし、汝の話を聞くことに決めたからの。」
頭を撫でるのを止めず、どこへも行こうとしないので、オスマンは仕方がなく心のうちに隠していた言葉を漏らした。
「‥‥時々不安になるんだ。自分のしてしまったことを思い出すと、息を吸うのも難しくなる。一連のことが終わったら僕はどうなってしまうんだろう?きっとタダじゃ済まないはずだし、みんなとももう会えなくなるだろうし、親からは見放されるんじゃないかって。」
自然と涙が溢れてきた。何も感じなかったはずがない。過ちを犯した時からずっと体を蝕んでいくような、そんな感覚と付き合ってきた。
仕方がなかった、本気を出さないと自分の身が危なかった、魔法を制御できていなかった、そんなことじゃ許されないんだろう。
命の重さはわからないけど、それに見合った気持ちがオスマンの身に降りかかっているかのように感じられた。
「‥‥‥‥‥。」
ことのあらましを聞いたラタムは黙りこくってしまった。
そりゃあそうだ。こんなことを聞いたら誰だってびっくりするし、頭の中を整理したいと思うはずだ。
「命は泡沫の如く一瞬のうちに散ってしまうものだ。しかし、汝はやりたくてやったわけではない。」
(励ましの言葉が欲しいのだろうが…人間たちの道徳上此奴は牢獄に入らざるを得ない。……そう、此奴が殺めてしまった者が善人だった場合は。)
「こんなことを考えてたら、魔法を使うときに集中できない。実際、今日は失敗ばかりだったし、そもそも僕はみんなと協力できるのか心配なんだ。」
「深く考えすぎては体に毒だ。しかし……まぁ心配する事もあるまい。汝は何も悪いことをしておらぬ。」
「で、でも……。」
ラタムの言葉に、オスマンは困惑していた。
自分は確かに悪いことをしてしまったのに、目の前のやつは何事もないかのように言ってのける。
ラタムはオスマンの前で呪文を唱えると、寝床に戻っていってしまった。
ラタムがいなくなった後、ふと、心の内が軽いことに気がついた。
とにかく明日に響かないように寝よう。
オスマンも寝床に戻っていった。




