54話 不穏な空気
「そのコルチカム?ってものでスピネルの卵の代わりになるの?」
リズが首を傾げ、サイネリアに尋ねた。
先ほどの説明を聞けば、スピネルの卵の代わりになるどころか、それ以上の役割をこなしてくれるはずだと予想できそうなものだが、リズはわからなかったらしい。
「あぁ。代わりどころか、みんなが思っているよりも目覚ましい働きをしてくれるはずだよ。」
サイネリアが確信を持って、言葉を吐いた。
おかげでソレイユは、先ほどよりも心が穏やかになり、罪悪感がスッと消えていた。
「とにかく早く行動したほうがいい。僕らはここで待っているから、そのカルセベルというのを取ってきてくれ。」
サイネリアの言葉に、それまでぼんやりしていたキキョウがハッとし、リズたちを連れてストックのところへと駆けていった。
ーーー
リズたちがストックを連れてジェロンド山へ行こうとしている時、残っていたサイネリア、パーム、ラタムの間にはピリピリとした空気が張り詰めていた。
「ラタム。どうしてあんなに不安にさせるようなことを“今”言ったんだい?」
サイネリアは穏やかに彼らしい笑みを浮かべながらも、その声は低く、乾いていて、恐怖感を煽るにはぴったりな声だった。
しかし、ラタムはそれに凄むこともなく、むしろおどけたようにサイネリアに返した。
「なんのことじゃ?妾はただ“可能性の話”をしただけじゃが?それともなんじゃ?汝には未来でも見えるのかのう?」
ラタムもニコリと笑みを浮かべた。
2人とも笑顔のはずなのに、どこか殺伐とした空気を醸し出している。
そんな2人の様子に、パームは1人、あわあわとしていた。
周りの空気はどんどんと冷めていく。
実際は本当に気温が下がっているわけではない。
だが、この場に残った3人の間の空気だけは、確かに冷えている。
そう感じたのだ。
さずがにそろそろ止めたほうがいいと思ったのか、パームは2人の間に割って入った。
「サイネリア!ラタム!2人とも、その全く温かみのない笑みをやめるパム!それに…リズたちが戻ってきたら何事かと思うパムよ!」
パームはサイネリアにも聞こえるように、なるべく大きな声を出した。
声は届いているはずなのに、2人ともやめる気配がない。
サイネリアはパームの方を見て
「別に喧嘩をしたいわけじゃない。けど、ラタムは“分かっている癖に”僕に言ってくるんだ。」
「別に妾は“何も知らん”ぞ?」
この場にいる3人だけがわかる話が続いていく。
第3者からでは、なんのことがわからないのか、なんのことがわかるのか、聞いてるこっちは1ミリもわからないよ!
そんな言葉を吐いてしまいたくなる。
サイネリアはリズたちの前では見せたこともない、イライラした様子だ。
それに対しラタムは、先ほどからあいも変わらずおどけて見せてる。
サイネリアは彼だけが知っている。
『これから起こる未来』について1人、目を伏せ、あぐねていた。




