107話 お開き
歯が欠けてしまうのではないかというほど力図よく歯ぎしりをするチェス。
対してリズはどうすればいいのかわからないというように放心状態になっていた。
「……とに。」
「え?」
チェスのかすれた声が耳に入ってきたが、言葉の意味を理解できるほどまでには聞き取れなかった。
だからリズは声をあげた。そうすればしっかりと聞こえる声で喋ってくれるのではないかと、無意識のうちに期待していたのかもしれない。
しかし、その判断は間違っていた。
「本当に……本当にうざいんだよ。ぴーぎゃーぴーぎゃー喚きやがって。泣けば許されるとでも思ってんのか?……耳障りだ。」
チェスの言葉はまるでナイフのようにリズの心を引き裂いてきた。
前に喧嘩した時ですらここまでのことは言われなかったので、身構えてすらないところに罵倒がストレートで入ってきた。
流石にまずいと思ったのか、レオがチェスを止めにかかる。
「おいチェスト。流石に言い過ぎだ。」
「言い過ぎも何もない。俺は思ったことを口に出しただけだ!」
「落ち着け!君は今疲れてるんだ!小生はチェストの心配を……。」
「心配されるほどでもない。俺は今すこぶる絶好調だね!」
感情の抑制が効かないのか、チェスはどこか不気味にすら思える程の清々しい笑みを浮かべてきた。
会議場に集まっている人々は皆一様に何かしらの反応を見せていた。
あるものは驚き、あるものは恐怖にかられ、またあるものはヒソヒソと何かを話し合っていた。
その声すら不快に思えてきたチェスは、こんな場所から一刻も早く逃げ出したい気持ちに駆られた。
このままここに止まれば、それこそ気持ち悪さから吐いてしまうのではないかと思えたのだ。
「っ!やめだやめ!止まってなんかいられねえ!」
「あ、ちょっと!チェス!」
叫んだかと思えば会議場から一直線に何処かへと駆け出してしまったチェスを追おうとするリズの手は中を彷徨った。
誰にも届かないその手を引っ込めることなく、リズはただぼう然と座っていた。
現状、会議なんてものを信仰し続けるのは不可能と感じたフローラは皆に告げる。
「本日の話し合いはこれでお開きといたしましょう。また後日、皆が集まれる日の予定を調節した上で会議を開くことにいたします。」
「ま、待って!チェスはすぐに連れもどすから!だからちゃんと最後まで!」
「私が言うのもなんですが……無理だと思いますよ。」
「え?」
フローラは柔らかに言葉を言い放つ。
リズは鳩が豆鉄砲を食らったかのように間抜けな顔をし、どうしてそんなことを言うのか問い質したくなった。
しかし、リズが言葉を発するよりも早く、フローラは説明してくれた。
「彼は今頭に血が上っていてまともに物事を考えれないでしょうし、自身が苛立つきっかけになったあなたを見たら、それはもう先ほどよりもひどい罵声罵倒を言われてしまうかもしれませんよ?」
言われてしまえば反抗なんかできるわけがなかった。
彼女の言っていることは正しいとまでは言わなくとも可能性として大いにあることなのだ。
フローラもその場からさり、次第に集まっていた人々も何処かへと足を運んでいった。




