称号とスキル
称号とスキル。それを正しく理解する事が探索者としての第一歩だ。俺の問いかけに由依ちゃんが答えた。
「スキルはその人にあったスキルが勝手にステータスに表示される。それをポイントを使ってアクティベートすると使える様になる。と言う認識」
「ふむ……皆、その認識なのか?」
と、聞くと高嵜一家は頷いた。
「そうか、ネット等では調べなかったのか?」
「ネットで色々書かれているのは知ってる。けれど、どれを信用して良いかわからないから」
「試してない。と」
「ん」
なるほどな。だから、4人でパーティーを組んでいる訳だ。この世界のシステムはゲームと違って、制限が今のところ見つからない。自分の望むスキルや他人から教えて貰ったスキルは習得に必要なポイントに誤差はあるらしいが習得できる。と、ネット等では言われているし、実際に俺も習得出来ている。
「とりあえずだ、スキルは自身が望む物を習得、又は創造できる」
「それ、本当?」
「ああ、俺はダンジョン都市に来る前は『闘気』ってスキルは知らなかった。だが、ここに来て教えて貰ったら、ステータスに表示されたよ」
「だから、お兄さんは1人で……」
「実際にやってみようか。まずは普段ダンジョンでの光源は何を使っているんだ?」
「ん、お母さん」
「分かったわ。『光』」
朱音さんの目の前に小さな球体が現れた。
「これは私のスキル『光』です。一応、これで相手に攻撃も出来ますが、ほとんど威力が無いです」
「ふむ『光源』」
いつも通りのイメージでスキルを発動すると一際明るい球体が現れた。
「間崎さん、これは?」
「こいつは『光源』っていうスキルだ。一度発動したらだいたい15分は維持できる」
「そんなに長く……」
「さて、これで俺のステータスには朱音さんの『光』が表示され、皆のステータスには『光源』が表示されたはずだ」
高嵜一家はそれぞれ自分のステータスを確認した。
「ポイントに余裕があるなら『光源』を習得し実際に使ってみてくれ」
朱音さんと茉子、絵里香はそれぞれ『光源』を発動出来た。だが、由依はステータスを見たまま固まっていた。
「どうした?」
「無いの、スキルが表示されてない」
「ふむ……」
「やっぱり、私には姉さん達みたいに才能が無い」
「由依ちゃん、自己否定はダメだ。それは自分の可能性を狭めてしまう」
「でも、私は」
「まあ、すぐには無理かもしれないが、ゆっくり自分を変えていこうか」
「うん……」
由依は自分だけ習得出来なかった事に肩を落としていた。
「さて、スキルについては概ね理解したと思う」
「だけど、これだけでお兄さんの強さは説明出来ない」
「ま、そうだな。確かにこれだけじゃない。称号についてはどうだ?」
「称号?」
「ああ、ステータスの上部に表示されていると思うが」
「それはわかってる。称号と強さにどんな関係がある?」
「ん?どんなってかなり重要だが……もしかして、称号を持っていないのか?」
「一応ある、けど大した効果が無い」
「ふむ、どんな称号?」
「私は『狙い撃つ者』効果は放った矢の命中率を上げる。それと、『生存者』スタミナの消費を軽減する。多分、お兄さんもこれに似たものを持っていると思う」
「ああ、持っている。が、それはおいといて問題は称号の効果はどのくらいだ?」
「効果?『狙い撃つ者』は効果は小、『生存者』は微」
「なるほどな。確かにそれじゃあ効果が無いな。ちなみに、俺の効果は極だ」
「極……どれだけの魔物を」
「だいたい10万くらいだな」
「「「「え?」」」」
俺が今まで屠ってきた魔物の数を聞いて言葉を失った高嵜一家。俺の場合、すぐ側にダンジョンがあって誰にも邪魔されない環境があったから、自分を鍛え上げる事が出来た。
「ど、どのくらいの時間掛かった?」
「ダンジョンが日本に出来た頃から潜っていたから、一年くらいだな」
「一年……」
「強くなりたいなら環境を整える事だ」
「環境?」
「ああ、まずは誰にも邪魔されないダンジョンがいる。これについては大丈夫だな」
「うん」
「後は、お金だ。俺は仕事の退職金を使って一年間ダンジョンだけに時間を使った。生活の全てをダンジョンに捧げた訳だ」
「それはちょっと無理」
「私達にはちょっと真似出来ないね」
「そうね。茉子はなんとか卒業出来たけど、まだ絵里香と由依は学生だから。今は休学してるけど来年には復帰しないとね」
「ふむ……生活費と学費か大変だな」
「そうなんです。あの人が残した遺産がありますが、限りがありますので稼ぐ方法を考えないといけなくて」
「ま、家にダンジョンがあるなら、そのうちレア物が出るさ。それを売ればいい」
「そうできればいいのですが」
話し合いが一段落したと判断したので由依に問い掛けた。
「で、疑問は解決したか?」
「まだ」
「他に何があるんだ?」
「肝心のチートスキルについて何も聞いてない」
「チートスキルって、まあそれは秘密だ。だが、まあ俺があの状況で平気だった理由だけは教えてもいいか」
「それは知りたい」
「あれは俺が持っている称号の一つ『生還者』の効果だ」
「『生還者』?それって『生存者』とどう違うの?」
「最大の違いはスタミナの急速回復だ。毎秒MAXまで回復する」
「MAXまで回復って」
「ああ、実質スタミナは無限に近い」
「それはどうやったら手に入る?」
「ユニーク個体を1人で倒せばいい。確か最大まで一万体だ」
「1人って、それは無理」
「無理って言うなら諦めるしかないな」
「お兄さん、意地悪だ」
「意地悪って、仕方ないじゃないか。ま、ゆっくり強くなるしかないよ」
「分かった」
「さて、これで話し合いは終わりかな」
「そうですね。間崎さんの受け入れ準備をしますので、一週間後に間崎さんの寮に迎えに行きますね」
「ああ、それまでに準備をしておくよ」
話し合いが終わり応接室から出て、1階に降りるとロビーに見知った顔がいた。俺を青龍のダンジョンで罠に嵌めた張本人、笹崎がそこにいた。後ろにいた高嵜一家も笹崎を見つけたみたいだった。笹崎も俺の顔を見て酷く驚いていた。
「久しぶりだな。笹崎」
「ど、どうして、お前がここにいる!」
「どうしてって、探索者なんだからここに居るのは当たり前だろ?」
「そうじゃねぇ!お前は確かに死んだはず!」
「ん?いやいや、生きているからここにいるんだけど?」
「そ、そんなバカな……あれから生きて帰って来れるはずが」
驚いている笹崎の横を通りすぎる時にそっと囁いた。
「もう一度、青龍に行け。そうすれば全てがわかる」
「ま、聖人」
俺の後ろを歩いていた高嵜一家は笹崎を無視して通りすぎようとしていたが、笹崎は朱音さんの胸元に光るペンダントを見て声を上げた。
「あ、朱音さん、そのペンダントは」
「ええ、あの人が身につけていた物です。やっと見つける事が出来たんです。間崎さんには感謝しています」
「朱音さん、俺は」
「笹崎さん。今後一切、私達に関わらないでください。でないと、私……貴方を殺したくなるから」
「あ、朱音さん……」
「お願いしますね」
俺と高嵜一家は振り返らずに組合を出た。




