依頼と報酬
高嵜一家との会談の日までの数日間は、寮の自室で闘気の重ね掛けをした状態の時間を伸ばす為に更なるトレーニングに励み、食堂以外に外出せず、自室に引きこもっていた。
約束の日、久しぶりに外に出ると太陽が眩しかった。 バスで組合に向かい受付にやって来たが、まだ高嵜一家は来ていない様だった。ロビーで待っていると、驚いた表情の受付嬢が慌てて駆け寄ってきた。
「間崎さん……どうして」
「おっと、どうして生きているの? なんて聞かないでくれよ。 マイクロチップで管理しているんだから、俺がダンジョンから帰って来たのはわかっていただろ?」
「でも……あそこから生きて帰ってくるなんて、今まで誰も」
「いないから、笹崎達と一緒に潜った時点で死亡扱いか?」
「それは……」
「とにかく、俺は生きている。 助けに来た高嵜一家も無事だ」
「朱音さん達まで」
「ま、俺から言える事があるとすれば、俺はただ降り掛かる火の粉を振り払っただけ。 ただそれだけだ」
「それだけって……」
受付嬢と話していると後ろから声が聞こえた。
「瑠美姉、お兄さんが生きていると何か問題があるの?」
「絵里香ちゃん」
後ろを振り返ると高嵜一家がそこにいた。
「そう言う事は無いんだけど……」
受付嬢が言い淀んでいると、
「瑠美さん、二階の応接室を借りられないかしら?」
朱音さんが口を挟んだ。
「えっと、ちょっと待ってください」
そう言って受付カウンターに戻り端末を操作し確認すると、
「だ、大丈夫です。 第1応接室を使ってください」
「そう、ありがとう。 じゃあ、間崎さん、行きましょうか」
「ああ」
朱音さんに促され二階の応接室に向かい、初めて応接室に入った。 応接室の中央に大きなテーブルが1つと、1人用のソファーが6個置かれていた。 中に入るとすぐに朱音さんが指示を出した。
「絵里香、由依。 いつも通りお願い」
「はーい」「ん、」
そう言うと、絵里香ちゃんは部屋の中央付近に立ち目を瞑った。 しばらくすると、由依にあれこれ指示を出した。
「由依~中央の机の裏に1つ。 壁際の花瓶の下のコンセントに1つ。 後は……これとこれのソファーの下に1個づつある」
「了解」
由依は絵里香に指定された箇所に向かい、小さなチップのような物を回収していった。 そして、全てを回収すると右手に集めると由依の手に電撃が走った。
「終わった」
「ありがとう。これでやっと安心ね」
「これは一体?」
2人の行動になんとなく予想はついていたが一応聞くことにした。
「ん、盗聴器」
「おいおい、自由に使える場所に盗聴器かよ」
「まずは座りましょう? 盗聴器は全て壊しましたから」
朱音さんに促されソファーに座ると、高嵜一家も着席した。
「では……改めて、間崎さん。 ダンジョンでの救援とこの間の件。 本当にありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
高嵜一家は頭を下げた。
「ダンジョンの件は間に合って本当に良かったと思っている。 Barのマスターにも感謝しないとな。 この間の件は、単に襲ってきた魔物を撃退しただけだから気にしなくていいよ」
「ですが……」
「それよりも報酬の件を聞きたいな」
「分かりました。 間崎さんにお支払いする報酬ですが、私が所有する土地の一部を譲渡します。 そこにある住居付きで」
「土地と住居?」
「はい、私達の自宅は古い古民家なんですが、離れもあって住居兼倉庫になっています。 それを間崎さんの報酬にしたいと思います」
「あ~ママが忙しく動いていたのはその為だったのね」
「ええ、弁護士さんに依頼したら、探索者に対する報酬として譲渡する事は可能だと聞いたわ。 特に間崎さんが優秀な探索者に登録されていたのも大きいわ」
「優秀な探索者?」
「そうです。 間崎さんは以前に何か貴重な物を組合に納品しませんでしたか?」
「貴重な物……あ、納品した事があるな」
「それを組合が評価したので、普通の探索者より税金等が優遇されてます。 報酬として土地や住居を譲渡する場合があるそうで」
「なるほどね……土地と住居を貰うのはいいが、そうなると朱音さん達の近くに住む事になるが良いのか?」
「ん~お兄さんなら良いかな」
と、絵里香ちゃんは納得しているようで、
「私も大丈夫です。 私達が住む母屋とは少し離れてますし、ちゃんと鍵を掛けれますから」
と、茉子ちゃんも納得していた。 だが、
「私は反対」
「あら? 由依はどうしてダメなの?」
朱音さんは由依ちゃんに問い掛けた。
「お兄さんに襲われたら勝てない」
「あ~確かにお兄さんチートだもんね。 私達が束になっても勝てそうにないし」
「だから、お兄さんの強さの秘密。 教えてくれたら、私も構わない」
「ちょっと待ってくれ、俺が襲う事が前提なのか?」
「お兄さん、襲わないの? 私達に興味ない?」
「誰がやるか! 興味はあるが……って、そんな事はどうでもいいんだ!」
「興味はあるって、良かったね。 姉さん達」
突然話を振られた2人はそっぽを向いた。
「んで、なんで俺をそこに住まわせたいんだ?」
「それは、これからお話しします。 間崎さんは覚えていないかもしれませんが、私達がダンジョンから救出された日。 あの日、体調を崩した茉子ちゃんは組合の一室にいました。 普通なら自宅で療養すると思いませんか?」
「確かに……だが、今のご時世なら自宅に1人ってのも危険だろう」
「そうですね。 でも、それを言うなら組合の一室に1人も危険ですよ。 周りには探索者が沢山いるんですから」
「と、言うことは探索者より厄介な物が家の近くにあるのか?」
「はい、私達の家の庭にダンジョンがあります」
「あ~やっぱり、そんな事だろうと思ったよ。 要は俺にダンジョンを攻略して欲しいんだな?」
「そうです。 仮に攻略出来なくても、定期的に魔物の間引きをして頂きたいです」
「なるほど、今回の話し合いは報酬と依頼って訳だな。 だが、高嵜一家でも攻略出来なかったのか?」
「はい……10階層までは行けたのですが、そこから先を守る様にゴーレムが居たんです。 でも、私達では傷をつける事が出来なくて逃げました」
「それで俺にそのゴーレムをなんとかして欲しいんだな」
「その通りです。 あの家は私達の思い出が一杯あるんです。 だから……」
「お兄さん、お願い」
「間崎さん、お願いします」
「ついでに、お兄さんの強さの秘密。 教えて欲しい」
ダンジョン都市の生活は楽でいいが、少々退屈だった。 ま、新しい土地で生活するのも悪くないか。
「ふむ……報酬と依頼については了解した」
「本当ですか! ありがとうございます」
朱音さんは嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
「んで、俺の強さの秘密だが」
「教えてくれるの?」
「ああ、だがその前にスキルについて何処まで理解している?」
俺の強さの秘密。 称号とスキルについて少し話す事にした。




