鎮魂
奴(分蘖体)の消滅と花畑が枯れたのでこの一件は終わった。結界を張り続けていた高嵜一家の所に行き終わった事を伝えた。
「もう大丈夫だ」
俺の一言を聞いた朱音さんは結界を解除した。
「えっと、お疲れ様。お兄さん!」
「お疲れ様です。間崎さん」
「聞きたい事、一杯ある」
「私も笹崎が何を話したか知りたいです」
とりあえず朱音さんの疑問に答える事にした。聞いた事を話さないとダメな気がするから。
「朱音さん。ダンジョンの中での出来事は全て自己責任です。それは理解してますね?」
「理解しているつもりです」
「でしたら、地上に戻って笹崎に会ったとしても……ダメですよ」
「わかっています。という事は?」
「はい。笹崎は朱音さんの旦那さんを嵌めたと言ってました。朱音さん、貴方を手に入れたいが為にね」
「やっぱり……そうだったんですね。あの人が亡くなる前からずっと言い寄って来ていましたから」
「あのクソ野郎!今度会ったら!」
「ダメだよ。絵里香ちゃん」
「お兄さん!」
「ダンジョンの中での出来事は自己責任。仮に訴えたとしても証拠が無い。それに、笹崎はお父さんをここに連れて来た。そして、お父さんは魔物に襲われた。ただ、それだけなんだよ」
「でも!」
「それよりも、お父さんの遺品を探さないか?」
「えっ!」
「花畑があった場所を見てくれ」
赤い花が枯れて花畑があった場所の床が見えていた。亡くなった探索者達の服等はダンジョンに吸収されたのか残っていなかったが、身に付けていたペンダントや指輪等は吸収されず残っていた。
「あの中にお父さんが身に付けていた物があるかも知れない」
そう言うと、高嵜一家は花畑があった場所に向かい遺品を探し始めた。
「一杯あるよ……一体どれだけの人が犠牲になったのかな」
「出来れば全部持って帰って遺族に渡してあげたいな」
茉子は集めた遺品を見て、
「持って帰る事は出来るが、組合に渡すのか?」
「そうですね。個人で渡すのは難しいと思うので」
「この件を組合が黙認していたとしても?」
「どういう事ですか?」
「これだけの犠牲者が出ているのに組合が何も対策を取らないのはおかしいと思わないか?」
「それは……確かに」
「組合は笹崎達がここで行われていた事を知っていて黙認していた。と、考えるのが自然だと思うが」
「言われてみれば、確かに組合が何も対策を取らないのは変ですね」
「んで、笹崎達がここで何をやっていたかと言うと」
俺はポケットから拳大の結晶を取り出した。笹崎達が居なくなった後、蔓に絡み付かれていた時に一つだけ採取しておいた物だ。
「これは?」
「聞いた事はないか?これが生命の結晶だ」
「これが……」
「そして、この結晶は人に魔物を寄生させて、その命を吸って生成されるアイテムだ」
「えっ!」
「笹崎が自慢気に話していたよ。だから、組合側も黙認しているんだろう。組合としても利害が一致しているはずだから」
「組合が?どうして?」
「この結晶が高値で取引されているのは知っているだろう?こいつを欲しがっている連中がダンジョン都市のスポンサーで組合はこいつを集めていた。そして、衣食住が保証されているから、毎日毎日新しい探索者が増えるんだ。組合は将来性のある探索者ならいいが、役に立たない探索者は不要だろうからな。そこで笹崎達が出てくる。あいつは役に立たない探索者をダンジョンに連れて行き、結晶と言う利益に変えて持って帰ってくるんだ。多少、組合にとって不利益な事をしても目を瞑ってきた。と、俺の勝手な想像だが、まあ間違っていないと思うよ」
「そんなことって……」
「仮に訴えても組合側は自分たちも利益を享受していたんだ。真相を究明されたら組合側も責められるだろうし」
「だから、この遺品を組合に渡しても処分されてしまうと?」
「そこまでは言わないが、何かしらの理由をつけて遺族に返さない気がする」
「そうかも、しれませんね……」
ふと、視線を感じたので周りを見ると、いつの間にか高嵜一家が集まっていた。
「どうした?お父さんの遺品は見つかったのか?」
「それはもう見つけてるよ。それより、茉子姉とずいぶん仲良しだね。お兄さん?ずっと近くに居たのになぁ」
「そうか?」
「そうだよ!ね、茉子姉?」
「そ、そうかな?別に普通だと思うけど……」
「そんなことより、これを見て」
由依の手には綺麗なペンダントがあった。
「あ!……これって、お父さんが探索者になった時にお守りにって、皆でプレゼントしたペンダント。ちゃんとお父さん着けてくれてたんだ」
「ええ、ちゃんとあの人は身に付けてくれていたわ。これでやっと、あの人を送る事が出来るわ」
「無事に遺品を見つけたのなら、そろそろ帰るか」
「そうですね」
「そうだね」
「ええ、帰りましょう」
「帰ったらお兄さんに聞きたい事、一杯ある」
「と、とにかく、ダンジョンから出よう」
「はーい」 「「はい」」 「ん、」
その後、ダンジョンを脱出した時には太陽は沈み、闇が広がっていた。入口のスキャナーに手をかざし、警備員に声を書けてからバス停に向かった。
バスに乗り込み、中で今後の予定を打ち合わせた。今日は組合に寄らず、高嵜一家は家に帰って父親を弔うと。後日、改めて話し合いの場を設ける事で一致した。その後、ダンジョン都市の外に出る為に途中下車した高嵜一家を見送ると、寮の近くのバス停で降りた。
寮の管理人さんには昼はいらないと伝えていたが、まさかこんなに遅くなるとは予想していなかった。寮に到着し、管理人さんを探すと食堂で立ち尽くしていた。
「あの~すみません。遅くなりました」
「ん、なんだ無事だったのかい。あまりにも遅いから死んだのかと思ったよ」
「死にかけましたが、なんとか戻って来れました」
「そうかい。んで、飯は?」
「食べます」
「ちょっと待ってな、すぐに用意するよ」
「お願いします」
ちょっと管理人さんを待たせてしまったが、ご飯は作ってくれるみたいだった。
しばらくすると管理人さん特製の晩御飯が出来上がり、相変わらずの特盛定食だったが完食した。その後、自室に戻りベッドで眠りについた。




