宮下という教師
「嵯峨。降参はしても良いとは言ったが、授業中の自主練ぐらい参加しろ。校内戦まであと、2日なんだぞ」
午後の自主練の授業時間。担任の宮下が開口一番に告げたのはそんな事だった。義哉は棄権の為、夏の校内戦に参加しない弥嗣の隣に腰掛け、休憩している。アリーナにいる他の生徒は授業の始まりを告げる鐘がなる前から練習に取りかかっているというのに。
宮下は呆れた様子でため息を吐く。
「五月雨。お前からも何とか言ってくれよ」
「無理です。こいつは俺が何言っても聞かないし」
義哉の性格を知っている弥嗣はもう諦めている。
「仕方ない。教師命令だ。自主練しろ。さもないと、校内戦が終わってから一ヶ月間、特別補修をするぞ」
「げっ!!」
義哉は補修という言葉に嫌そうに顔を顰める。
「横暴だ。教師の権限を使った生徒に対する暴力だ!!」
義哉の言う通り、確かに横暴だ。だが、そうでもしないと義哉は動かないのだ。
「なんとでもいえ。さぁ、補修が嫌なら行け」
「ちぇー」
いじけながらも、義哉は立ち、アリーナの練習している生徒がいる所へ歩いていった。
「ふぅ、全く」
そう呟き、宮下は弥嗣の座るベンチの隣に腰掛ける。
自主練の授業中、教師は特にやることがない。練習している生徒に教えを請われれば、その生徒に付き合うだけだ。なので教師は学園をあちこち回り、練習する姿を見るのが恒例になっている。のだが、宮下はベンチに腰掛けたまま動く気配がない。宮下は特殊な教師とも言えるだろう。
「五月雨。どうだ?魔方陣の方は」
「全然ダメです」
「そうか…。まぁ、ゆっくりとお前のペースでやればいいさ」
即答した弥嗣の言葉に、宮下は辛そうに顔を歪ませた。宮下は弥嗣を気に掛けているのだろう。
魔方陣の構築が出来ない。それはかなりツラいことだ。他の理由もあるかもしれないが、宮下が弥嗣を他の生徒より気に掛けている理由はそれだろう。
二人とも口を閉ざしたまま、練習している生徒に視線を向けていた。その間に会話はない。だが、二人の間には温かい雰囲気が占めていた。