↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/48

八回目って、何の話しだよ

第24章 八回目って、何の話だよ


「――八回目」


その言葉が聞こえた瞬間、俺の意識は完全に観客席へ向いていた。


銀色の髪。


学院の制服でも、教師のローブでもない。


ただそこに座っているだけなのに、周囲の生徒たちは誰一人として彼女を気にしていない。


見えていないのか?


いや。


違う。


見えているのに、認識していない。


そんな不自然さがあった。


そして俺の視界には、はっきりと表示されている。


《第七世界》


《現在周回数:8》


八回目。


それが何を意味しているのか。


考えるまでもなく、嫌な答えが頭に浮かんだ。


正規個体が言っていた。


――世界を七度、作り直した女を探せ。


七度作り直した。


なら。


今の世界が八回目だとしたら――


「おい」


目の前から声がした。


まずい。


そう思った時には、もう遅かった。


ブンッ!


空気を裂いて木剣が迫る。


俺は反射的に身体をひねった。


鼻先をかすめる。


そのまま後方へ跳んだ瞬間、さっきまで俺が立っていた地面にグレンの木剣が叩き込まれた。


鈍い音とともに訓練場の土が弾け飛ぶ。


木剣だよな、それ。


「よそ見とは余裕だな、特別編入生」


グレン・バルハルト。


レベル四十三。


こっちは仮にも学院に入って初日の学生なんだが。


教師って、新入生にこんな攻撃していいのか?


「ちょっと考え事を」


「戦闘中にか?」


「……すみません」


「なら続けるぞ」


待て。


普通そこは少しくらい待ってくれないか?


だがグレンは待たなかった。


一歩。


たったそれだけで間合いが消える。


速い。


ステータスだけじゃない。


踏み込み、重心移動、剣の軌道。


全部が洗練されている。


ゲームだった頃のNPCみたいな決まった動きじゃない。


本物の剣士だ。


振り下ろされた木剣を受け流し、その勢いを利用して懐へ入る。


狙うのは脇腹。


俺の木剣が走る。


だが。


カンッ!


軽い音がした。


グレンの剣が、いつの間にか俺の剣を止めていた。


「ほう」


その口元が少しだけ上がる。


「今のは悪くない」


「そりゃどうも」


直後。


腹に衝撃。


「ぐっ……!」


蹴られた。


まともに食らった。


身体が数メートル後ろへ滑る。


痛い。


木剣の試験じゃなかったのかよ。


「レオン!」


リリアの声。


同時に、横から蒼い炎が走った。


グレンが木剣を振る。


それだけで炎が二つに割れた。


「嘘でしょ……」


リリアが目を見開く。


いや。


俺も同じ気持ちだ。


魔法を木剣で斬るな。


「火力は十分。だが直線的すぎる」


「だったら――!」


リリアが右手を掲げる。


今度は一発じゃない。


三つ。


蒼炎が別々の軌道からグレンへ飛ぶ。


その瞬間。


「お兄ちゃん、左!」


エリシアの声が響いた。


理由を考える前に動いた。


左へ走る。


グレンはリリアの魔法をかわしながら、一瞬だけ俺から視線を外す。


そこへ飛び込む。


木剣を横薙ぎに振る。


グレンが受ける。


予想通り。


なら。


「リリア!」


「分かってる!」


俺の背後から蒼炎。


グレンがわずかに眉を上げた。


俺ごと焼く軌道。


普通なら撃てない。


だがリリアなら。


直前で炎の軌道が曲がった。


俺の肩を避け、グレンの足元へ突き刺さる。


爆発。


土煙が広がった。


「やった!?」


リリア。


それ言うと、大体やってない。


案の定、土煙の中から木剣が飛び出した。


「うわっ!」


しゃがむ。


頭上を剣が通過する。


同時に足払い。


跳ぶ。


そこで俺は気づいた。


グレンの身体が完全に俺へ向いている。


背後が空いた。


「エリシア!」


「う、うん!」


エリシアが両手を前へ出す。


淡い光が集まった。


攻撃魔法――ではない。


細い光の帯。


それがグレンの足首へ絡みついた。


「……拘束魔法?」


俺は思わず呟いた。


エリシア本人も驚いていた。


「え?」


お前も分かってなかったのかよ。


グレンの動きが止まる。


ほんの一瞬。


でも十分だ。


踏み込む。


俺の木剣がグレンの胸元へ伸びる。


届く。


そう思った。


だが――


「甘い」


光の拘束が引きちぎられた。


グレンの木剣が跳ね上がる。


まともに受ければ終わる。


俺の身体が反応する。


視界の端に文字が浮かんだ。


《境界簒奪きょうかいさんだつ》


使うな。


こんな場所で見せる能力じゃない。


俺は強引に発動を止め、身体だけをひねった。


グレンの木剣が肩をかすめる。


痛みが走った。


それでも止まらない。


剣を捨てる。


「なに?」


グレンの視線が落ちた。


その一瞬。


俺は地面を蹴り、落下中の木剣を左手で掴み直した。


逆手。


そのまま振り抜く。


パシッ。


軽い音。


俺の木剣の先端が。


グレンの制服の袖に触れていた。


沈黙。


数秒。


グレンが自分の腕を見る。


俺も見る。


リリアも。


エリシアも。


「……当たった?」


エリシアが小さく言った。


グレンはしばらく黙っていたが、やがて木剣を下ろした。


「そこまで」


終わり?


俺が息を吐いた瞬間、膝から力が抜けそうになった。


強すぎるだろ。


この学院の教師。


「レオン・アルヴェイン」


「はい」


「妙な戦い方をするな」


「褒めてます?」


「褒めてはいない」


ですよね。


「だが、面白い」


グレンはリリアを見る。


「リリア・フレイムハート。魔力操作は優秀だ。威力に頼りすぎる癖を直せ」


「……はい」


次にエリシア。


「エリシア・アルヴェイン」


「は、はい!」


「その拘束魔法。誰に教わった?」


エリシアが固まる。


そして困ったように俺を見る。


いや。


俺に聞かれても知らない。


「誰にも……」


「初めて使ったのか?」


「たぶん……」


グレンの表情が変わった。


ほんの一瞬だった。


けれど俺には分かった。


驚いている。


やっぱりエリシアの魔力には何かある。


そこで。


視界に表示が浮かんだ。


《特殊魔力反応を検出》


《対象:エリシア・アルヴェイン》


《照合中――》


やめろ。


嫌な予感しかしない。


《照合失敗》


《対象データは現在の世界に存在しません》


……またか。


エリシアは、この世界の人間なのに。


世界のデータには存在しない。


俺と同じように。


いや。


もしかすると。


俺以上に――


「前より早いね」


声。


俺は勢いよく観客席を見た。


銀髪の女。


まだいる。


こっちを見ている。


間違いない。


今の言葉は俺に向けたものだ。


前より?


「お前……!」


叫んだ瞬間。


女が立ち上がった。


そして笑った。


「でも」


その唇が動く。


「今回は、あの子もいる」


視線が動いた。


俺ではない。


エリシア。


ぞくり、と背筋が冷えた。


「待て!」


俺は観客席へ走ろうとした。


だが。


一度だけ瞬きをした、その瞬間。


消えた。


誰もいない。


最初からそこには誰も座っていなかったみたいに。


《観測対象を消失しました》


《追跡不能》


《上位権限による遮断を確認》


上位権限。


またそれか。


そして、最後に。


新しい表示が現れた。


《周回情報の一部が解放されました》


《第一世界――終了》


《第二世界――終了》


《第三世界――終了》


《第四世界――終了》


《第五世界――終了》


《第六世界――終了》


《第七世界――》


文字が乱れる。


ノイズ。


そして。


《第八周回:進行中》


俺は何も言えなかった。


第七世界なのに。


八周目。


世界と周回は、同じ意味じゃない。


つまり。


俺がまだ知らない何かがある。


「レオン?」


エリシアが俺の袖を掴んだ。


振り返る。


不安そうな顔。


銀髪の女が言った言葉が頭から離れない。


――今回は、あの子もいる。


今回は。


その言い方なら。


少なくとも過去のどこかでは、エリシアはいなかった。


ゲームにも存在しなかった。


そして銀髪の女は、それを知っている。


俺はもう一度、空になった観客席を見る。


学院に来れば、少しは世界の謎から離れられると思っていた。


どうやら逆だったらしい。


ここには。


答えがある。


そして多分。


答えを知っている奴もいる。


《特殊クエストが発生しました》


《八周目の観測者》


《銀髪の女の正体を突き止めろ》


《報酬:????》


《失敗条件:????》


……せめて失敗条件くらい教えてくれ。


俺は小さくため息をついた。


こうして。


俺の学院生活初日は。


授業を一つ受けるより先に。


世界を七度作り直したかもしれない女を追いかけることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。