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『序盤で死ぬ最弱悪役に転生したけど、このゲームを一万時間やり込んだ俺には関係ない』  作者: くんくん


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妹まで学園にくるなんて聞いてない

第20章 妹まで学院に来るなんて聞いてない


「……なんでエリシアの名前があるんだ?」


俺はもう一度、目の前に浮かぶ表示を見直した。


見間違いであってほしかった。


けれど、何度見ても文字は変わらない。


《王立アストレア学院・特別編入対象者》


《レオン・アルヴェイン》


《リリア・セレスティア》


《エリシア・アルヴェイン》


三人。


しっかり三人だ。


「……兄様?」


隣から、恐る恐る声がした。


振り向けば、エリシアが俺の肩越しに表示を覗き込んでいる。


もちろん。


こいつにシステムウィンドウは見えていない。


「どうかしたんですか?」


「いや」


俺は一秒だけ迷った。


「エリシア」


「はい」


「お前、学院に行きたいとか言った?」


「……学院?」


きょとん。


完全に初耳の顔だった。


ですよね。


「レオン」


少し離れた場所で、カイルが低い声を出した。


目が合う。


こいつにも同じ表示が見えているらしい。


カイルは無言で指を三本立てた。


俺も無言で頷いた。


三人。


間違いない。


「おいおい……」


思わず額を押さえる。


ズキッ、と頭の奥が痛んだ。


「痛っ」


「兄様!」


「動くな」


反射的にエリシアが近づこうとしたところを、アルバートが止めた。


「坊ちゃまは先ほどまで死にかけておられましたので」


「死にかけてない」


「左腕に裂傷。肋骨にひび。魔力枯渇。全身打撲。加えて原因不明の高熱」


「……ちょっと死にかけてたな」


「ちょっとではございません」


アルバートの声が冷たい。


ちなみに本人も額に包帯を巻いている。


リリアも右腕を吊っているし、カイルなんて服の半分が焼け焦げていた。


まともなのはエリシアくらいだ。


屋敷もまともじゃない。


壁は崩れ。


庭はえぐれ。


噴水は真っ二つ。


正門に至っては、どこへ行ったのかすら分からない。


よく死人が出なかったと思う。


本当に。


「それで?」


リリアが壁にもたれたまま言った。


「エリシアちゃんまで学院に来るって、どういうこと?」


「俺が聞きたい」


「王命じゃないの?」


「最初の編入命令には俺の名前しかなかった」


正確には、俺を学院へ送り込むためにカイルが推薦した。


そのあとリリアが追加された。


そこまでは分かる。


だが。


エリシアは違う。


そもそも――。


「エリシアは、本来ゲームに存在しない」


俺が小さく呟くと、カイルの表情が変わった。


「……だからこそ、かもしれない」


「何?」


カイルが俺の隣まで歩いてくる。


そして、表示を睨んだ。


「お前が学院へ行くこと自体は、本来の流れから外れてる。でも学院という場所そのものは、シナリオ上かなり重要だ」


「第二幕の中心だからな」


「ああ。だったら世界がズレを修正しようとした時、何が起きる?」


その言葉に。


俺は黙った。


世界線乖離率。


二十二・六一パーセント。


正規個体が消える直前に表示された数字だ。


そして。


《シナリオ補正を開始します》


嫌な文字まで思い出す。


「……俺の周囲にいる重要人物を、強制的に学院へ集める?」


「可能性はある」


カイルは答えた。


「それに、エリシアはもう普通の人間じゃない」


「おい」


「言い方が悪かった。怒るな」


「誰が怒ってる」


「顔」


「生まれつきだ」


「兄様はもう少し優しい顔もできます」


なぜかエリシアに刺された。


リリアが小さく吹き出す。


久しぶりに。


本当に久しぶりに、普通の笑い声を聞いた気がした。


けれど。


カイルが言っていることは分かる。


エリシアは、この世界に本来存在しない。


それなのに。


世界の外から来た何者かが、こいつを回収しようとしていた。


黒狼団を使ってまで。


しかも正規個体は最後に言った。


――世界を七度、作り直した女を探せ。


あの言葉が。


どうしても頭から離れない。


「レオン?」


カイルが俺を見る。


「まさかと思うけど」


「言うな」


「まだ何も言ってない」


「分かる」


エリシアを見る。


銀色の髪。


淡い紫の瞳。


どこからどう見ても、ただの俺の妹だ。


少なくとも。


俺にとっては。


「エリシアが“世界を七度作り直した女”って線はない」


「根拠は?」


「年齢」


「この世界で見た目の年齢を根拠にするのか?」


「……」


言い返せない。


くそ。


こういう時だけ正論を吐きやがる。


「ですが」


アルバートが口を挟んだ。


「お嬢様が学院へ通われるとなれば、準備が必要ですね」


「いや待て」


「制服。教本。筆記具。学院指定の外套も必要でしょう」


「待てって」


「寮へ入られるのであれば日用品も――」


「話進めるな!」


思わず声を張った。


脇腹が痛んだ。


「ぐっ……」


「兄様!」


「レオン!」


「坊ちゃま。だから動くなと」


三方向から怒られた。


俺は大人しく椅子に座り直す。


……情けない。


「そもそもエリシアは学院の入学資格を満たしてないだろ。年齢はともかく、試験も受けてない」


王立アストレア学院。


名前の通り、この国最高峰の教育機関だ。


貴族なら金を積めば入れる――なんて生ぬるい場所じゃない。


剣術。


魔術。


学術。


最低でも、どれか一つで一定以上の成績が必要になる。


特に年度途中の編入試験は厳しい。


俺は王命。


リリアは実力。


だがエリシアは――。


コンコン。


その時。


まだ辛うじて残っていた玄関扉が叩かれた。


全員が黙る。


「……客?」


「正門ないのに?」


リリアが言った。


確かに。


今、この屋敷。


入り放題なんだよな。


アルバートが立ち上がる。


「私が」


「その怪我で?」


「坊ちゃまよりは動けます」


ぐうの音も出ない。


アルバートが玄関へ向かう。


しばらくして。


「失礼いたします」


戻ってきた彼の手には。


一通の封筒があった。


白地に金の紋章。


見覚えがある。


「王立アストレア学院……」


カイルが呟く。


アルバートが俺へ差し出した。


宛名。


《アルヴェイン家 御中》


嫌な予感しかしない。


封を切る。


中には三枚の書類が入っていた。


一枚目。


俺の特別編入許可証。


二枚目。


リリアの特別編入許可証。


そして。


三枚目。


「……」


俺は黙った。


「兄様?」


エリシアが首を傾げる。


俺は紙を裏返した。


もう一度見る。


やっぱり同じだ。


《エリシア・アルヴェイン》


《王立アストレア学院 特別推薦入学許可証》


試験免除。


学費免除。


寮費免除。


入学時期――。


俺たちと同日。


「めちゃくちゃ待遇いいじゃねえか……」


「私よりいいな」


カイルが真顔で言った。


「お前王子だろ」


「王子でも学費は取られる」


「世知辛いな王族」


問題はそこじゃない。


俺は書類を読み進める。


推薦理由。


そこに書かれていた文章を見て。


息が止まった。


《推薦理由》


《特殊魔力資質を確認》


《学院長権限により、特別観測対象として受け入れる》


「……特殊魔力資質?」


リリアが俺の手元を覗き込む。


「エリシアちゃん、魔法使えるの?」


「いいえ」


本人が即答した。


「魔術の授業は家庭教師の先生から少しだけ受けましたけど、私は魔力が弱くて……」


そう。


俺も知っている。


エリシアに戦闘能力はない。


ゲームにいなかったとか以前に、これまで普通の令嬢として育ってきた。


魔力量だって平均以下。


少なくとも。


今までは。


――今までは?


嫌な感覚がした。


俺は視線を落とした。


エリシア。


妹。


ゲームには存在しないキャラクター。


世界外から狙われた存在。


そして。


学院長直々の特別観測対象。


「エリシア」


「はい?」


「手、出して」


「手?」


「いいから」


エリシアがおずおずと右手を差し出した。


俺はその手首を掴む。


目を閉じる。


《深淵適応》。


違う。


こっちじゃない。


意識をさらに沈める。


正規個体との戦いで。


俺は一つ、分かったことがある。


《境界簒奪》は、ただ何かを奪うだけの力じゃない。


境界そのものを認識する能力でもある。


人と人。


物と物。


世界と世界。


その間にある線を。


俺は探る。


「……兄様?」


エリシアの声が遠くなる。


そして。


見えた。


細い線。


いや。


違う。


一本じゃない。


二本。


三本。


十本。


百本。


「なんだ……これ」


思わず手を離した。


「レオン?」


カイルが身を乗り出す。


俺は答えられなかった。


エリシアの身体から。


無数の糸のようなものが伸びている。


天井を抜け。


空を抜け。


もっと遠く。


ここではない何処かへ。


一本一本は細い。


けれど。


数が異常だ。


そして、その中の七本だけが。


はっきりと。


途中で切れていた。


ぞくり。


背筋が冷たくなる。


七。


偶然か?


いや。


そんなわけがない。


《警告》


突然。


視界が赤く染まった。


《未承認領域への観測を検知》


《対象個体からの逆探知が発生》


は?


《接続を強制切断します》


「っ!」


頭の奥で何かが弾けた。


視界が真っ白になる。


「兄様!」


身体が傾く。


誰かに支えられた。


遠くで声がする。


だが。


意識が落ちる、その直前。


俺は見た。


ほんの一瞬。


エリシアの背後。


そこに。


女が立っていた。


長い銀髪。


俺たちを見ていた。


いや。


違う。


俺だけを。


そして。


笑った。


《観測者権限を確認》


《第七世界》


《ようやく――》


文字が途切れる。


最後に。


声だけが聞こえた。


「見つけた」


そこで。


俺の意識は完全に途切れた。

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