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カケラ~日常  作者: 崋山楽 
家族
4/20

第四話 準備

 数日後。

 式の当日が来た。

 当人二人、その二人の両親計六人が緊張の面持ちで控え室にいる。

 二人は水色のドレスとスーツを身に纏っている。


 式では、白と黄色、黒以外なら何色を着てもいい。

 白は学校に入っている子どもしか着るが出来ない。

 黄色は逆に学校に入っていない子どもしか着ることができない。

 黒は喪服の色。祝いの席では着てはいけない。


 そして式は始まった。

 式の内容は単純だ。

 来てくれた人たちに一人ひとり挨拶をして、この国が信仰する神の前で神に相手が見つかったこと、そして、出会わせてくれたことに感謝する。

 その後、みんなで食事会。

 みんなが帰るときにはもう一回一人ひとりに挨拶をして心ばかりの贈り物をする。


 式の前に細々と決めていたのは、ドレスや料理、贈り物などが含まれている。


 式は昼少し前から始まり、夕方に終わる。

 その後、当人二人、その二人の両親計六人は再び学校に泊まった。

 明日はその六人で二人のこれからの話し合いが行われる。






―――――コンコンコン―――――


 ほぼ同時刻。

 それぞれが泊まっている三部屋がノックされた。


「おはようございます。よく眠れましたか?イツ・キ様がお待ちです。身支度が整いましたらドアの前にいますので声を掛けてください。ご案内します」

 ノックした人間は、ほぼ同じことを言った。


 そして、六人はイツ・キの待つ部屋まで連れてこられた。


「おはようございます。さあ、皆さんで先ずは朝食を取りましょう」

 イツ・キは静かな笑顔で迎え入れた。

 その後は、ゆっくりと時間が動いているようだった。

 先ず朝食を取り、身体を休めお茶の時間。

 その間六人とイツ・キは余計なことをしゃべらず、他愛の無い話ばかりしていた。

 しかし、それも昼食までであった。


「それでは午後のお茶の時間は、ガン・シとシ・アネの今後についてお話したいと思います」

 そう言うとイツ・キは席を立って行った。

 そして、残された六人は各々別れ、午後のお茶の時間まで一人で過ごした。



「『転換』から半月たちました。二人の決意を聞き入れる心の準備は整いましたか?」

 イツ・キは淡々としゃべり始めた。

 まるで台詞を言っているように、淀みなく。


 それも仕方のないことではある。

 イツ・キは歴史上もっとも長く子どもでいるのだから。

 そのせいか、感情を時に無くしている様に見える。


「はい。受け入れます」

「子どもが幸せになれるのなら…」

「生きているうちに『転換』が見られた…他に何を望みましょうか…」

「何を選ぶのもこの子達ですから…」

 それそれがそう言ったが、幾分表情は硬い。

「二人は選びましたか?」

 イツ・キは二人に向って言った。

「はい」

「聞かせて」

「はい」

「私たちは家に帰りません」

「そんなっ」

「酒浅海はどうなるっ」

「あなたはうちの子なのよっ」

「家はどうなるっ」

 二人の言葉を聞いた途端ガン・シの両親が立ち上がり、テーブル越しに二人に詰めよった。

「お止めなさい」

「これはうちの問題ですっ」

「そうだ!何時までも子どものあんたには関係ないっ」

(やめるとは思わなかったけどここまでとは…)

 形式上の言葉を口にしたイツ・キをガン・シの両親が罵倒した。

「イツ・キ様に何たる無礼か!たわけ者!」

 その言葉に本人より反応したのがシ・アネだ。

「家に戻らぬ決意をしてよかったわ!そなた達の様な心の穢れた者達と一緒に暮らしたくもない!」

「父さん、母さん。あなたたちはさっき『受け入れると』言った。その言葉は嘘だったのですね…私もシ・アネの意見に賛成です。…いえ、それより今日この場を持って親子の縁を解消しましょう。イツ・キ殿」

 ガン・シの両親を上回る気迫でシ・アネは二人を黙らせた。

 そして、静かになった所でガン・シが悲しみに満ちた声で言葉を続けた。

「何?」

「縁の解消を認めてもらえますか?」

「そのための手続きなら今この場で出来ます」

 イツ・キは事務的な会話をするように淡々と答えた。

「では、お願いします」

「わかりました」

 そう言うと手元のある紙の束から何枚かの書類を選別し始めた。

「ま、まって…」

「言い過ぎた。すまない。だから家に戻ってきてくれ」

 イツ・キが選別している書類が本当に親子の縁を戸籍上切るものと判断した二人がうろたえ始めた。

「家に戻るつもりはありません…もし、子どもに受け継がせたいのなら一子のシア・マレーに期待してください」

 ガン・シは真っ直ぐ自分の両親を見ている。

 逸らす事のない強い目で。

「『転換』は何時起こるかわからない…」

「俺たちも両親から受け継いだ…だから、な?考えを改めてくれ」

 ガン・シは頭を振った。

「酒浅海とは関係ないところで仕事を探すつもりです。そのための手続きももう済ませてあります」

「家ももう決まっています」

 ガン・シの宣言にシ・アネも続けた。

「勝手なこと言うな!」

「お前は今まで誰に食べさせて貰ったと思うの!」

 その先も永遠と恩着せがましい台詞が続いた。

 最早二人の自己満足だ。

 誰も、二人の話を聞いていない。

「あなた方は何も言わないのですね」

 イツ・キはほとんど話していないシ・アネの両親に言った。

「はい。何もありませんもの。本当に子どもの『転換』を見られた…それで十分です」

「欲を言えば、近くに住んでもらいたい、と言うところです」

「そうね。ねえ。住む所はどこら辺になるの?」

 二人は、最初シ・アネの『転換』で騒ぎたてた人間とは思えないほど静かに、穏やかに言った。

「大丈夫。十分徒歩圏内だよ」

 シ・アネは母親の質問に素直に答えた。

「まあ。嬉しい。何か困った事があったら遠慮なく言うのよ。出来るだけの手助けはするから」

「はい。ありがとうございます。もしものときは、言うね」

「ええ」

 ガン・シの両親は未だに何か言ってはいるが、気にせず会話は続いた。

「最終確認をします」

 イツ・キは会話が終わるのを見計らって言った。

「はい」

 それぞれが頷くのを確認したイツ・キは手元にある書類の何枚かを見ながら言った。

「二人はそれぞれの家から独立し、新たなる家から始める」

「はい」

「その通りです」

 イツ・キは二人の同意を確認すると手元の書類に何か書き込んでいった。

「シ・アネはご両親とそのままで、ガン・シ」

「はい」

「あなたはどうします?」

「そうですね…」

 そういいながらガン・シは自分の両親の方を見た。

 二人は何か大声でしゃべっているがその言葉は聞き取れない。

 そして、二人の視線は真っ直ぐガン・シの方に向いてはいるがどこか焦点が合っていない。

「イツ・キ殿の仕業ですか?」

「ええ。二人には自分たちの話を黙って聞いているあなたを見せています。そして、二人の周りに軽い『壁』を創りました」

「流石ですね」

「でなければ学校(ここ)の代表にはなれません」


 学校には子どもの代表が何人かいる。

 その選考基準は在学の長さではなく『魔力』の高さ。

 学校を運営する大人は、『魔力』が高く代表としてやっていける者を選び出し、子どもの上に据えるのだ。


「…縁を切ります」

「いいのですか?」

「はい。このままの関係では周りの人間に被害が及ぶでしょう…戸籍上の縁を切れば他人になる…そうすれば、法の拘束の下、何も出来なくなるはずです」

「法の下ではそうですね。もし何かあったとき公にするかしないかはあなた達の判断です」

 つまりは訴えるのも訴えないのも自分で決めろと言うことだ。

「はい。承知しております」

 ガン・シはイツ・キの言葉をきちんと受け取った。

「では、ガン・シ、シ・アネ」

「はい」

「はい」

「この二枚の書類にサインを。一つは学校があなた達のこれからの道を確認したという書類。もう一つはガン・シがご両親と縁を切るための書類です」

 二枚の書類に二人はサインをした。

「これで学校が二人に出来ることはありません。これからは二人力を合わせて生きていってください」

「はい」

「ありがとうございます」

 二人がそれぞれ返事をするのを確認するとイツ・キは立ち上がった。

「今日一日、日が暮れるまでにここいることを許可します。その後は、自分の家に帰りなさい」

 イツ・キはガン・シとシ・アネに言った。

「はい」

「それと、あなた方にも同じことを言います」

 イツ・キはシ・アネの両親に視線を向けると言った。

「はい」

 それぞれが頷くのを確認した後、未だにイツ・キの創りだした『壁』の中にいる二人に視線を向けた。

「あの二人はしばらくあのままにしておきます。気になるでしょうが、私に少し預からせてください」

「宜しくお願いします」


―――――コンコンコン―――――


 まるで見計らった様なタイミングでドアがノックされた。

「失礼します」

 入ってきたのはレイ・ラだ。

「丁度よかった。今、終わった所です」

「そうですか。では…四人はこちらへ」

 レイ・らは部屋を見回しイツ・キの『壁』の中にいる二人を見た後、他の四人に視線を向けて言った。

 四人はそれぞれ頷き、席を立った。

「シ・アネ」

 四人がそれぞれイツ・キに礼をとって部屋から出て行こうとするのを、イツ・キが引き止めた。

「なんでしょうか?」

「あなたは先ほど学校の…いいえ、私の下の者としての態度と言葉を発しました」

「はい。許せませんでした。イツ・キ様を罵倒するなんて」

「言われた私本人がさして気にしてないのですから、あのようにあなたが振舞う必要はありません。これより先、滅多なことでは会いませんが、これっきりにして下さい」

「はい。差し出がましいことをしました。申し訳ございません」

 そう言うとシ・アネは深く頭を下げた。

「そのようにする必要はありません…あなたがあのように振舞う必要はありませんが…私のために怒ってくださり、ありがとうございます」

 イツ・キはそう言うと四人とレイ・ラを部屋から送り出した。



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