第二話 親子
「慣例どうりにやりますがよろしいでしょうか?」
二人が出て行った後、多少乱れたところを片付け、新しくお茶も入れなおすとイツ・キが言った。
「はい。そのことに関してはお任せします。しかし…」
「ここを出たところからはそちらにお任せします」
「はい。ありがとうございます」
イツ・キの言葉にさっきまでソファーに座っていた二人は嬉しそうに頭を下げた。
「しかし、決まりごとはお守り下さい」
「…はい。肝に銘じておきます」
「そして、二人の意見に耳を傾けること…ご自分で経験しているのですから分かってはいますね?」
その言葉に二人はやや落ち着いた。
「はい」
「自分たちの苦労は子どもたちにさせない気でしたが…やはり…」
「口を出したいのも親心。道を決めておきたいのです」
「あなたたちは決められてしまったんですね」
イツ・キの静かな声が響いた。
「はい。その時は親を憎みました…でも、自分がいざその立場になると…」
「…話は分かりました。しかし、話し合いだけはしなくてはなりませんよ」
「はい」
「承知しております」
二人がそれぞれ頷いたのをイツ・キは確認し立ち上がった。
「私はこれで、これからの事と、もう一人のお子様の方のこと、しばらくの間誰も来ないようにしておきますから少し話し合っておいてください。私は二人の様子を見てきますので」
「宜しくお願いします」
「それでは」
イツ・キはそう言うと、部屋を出て行った。
―――――コンコンコン―――――
「はい」
「気分はどう?」
イツ・キはシ・アネたちが居る部屋を訪ねた。
「イツ・キ様。はい、気分は良いです」
「『様』は必要ないのよ」
イツ・キは苦笑しながら言った。
「いいえ。先ほどは『さん』と呼ばせていただきましたが、私にとってイツ・キ様はイツ・キ様なのです」
「…そう思うなら好きにしなさい」
「はい。ありがとうございます」
イツ・キは勢い良く頭を下げるシ・アネからもう一人の方に視線を向けた。
「自己紹介が遅れました。ここの代表の一人でイツ・キと申します」
イツ・キが自己紹介をすると相手はきちんと背筋を伸ばした。
「こちらこそ自己紹介が遅れました。私は酒浅海を経営しています夫婦の二子、名をガン・シと申します」
「そうですか。あなたは二子目でしたか…」
「はい。私は一子であるシア・マレーより先に『転換』してしまいました」
「気になりますか?」
「はい。少し…でも、シ・アネと会えた喜びのほうがはるかに大きいです」
「そうでしょうね…私も何回も『転換』を見てきましたが皆一様にソウルハーフに会えたことの喜びと感謝で、しばらくの間はほかの問題は些細なことと気にも留めない人が多いですね」
イツ・キは二人をソファーに座らせ、お茶を入れると自分も座った。
「さて、二人とも」
「はい」
「何でしょう?」
「未だ興奮冷めやらぬことでしょうが、これからのこと、あなた方が選べる道、及び権利に関して少しおさらいをしましょう」
「はい」
「分かりました」
この世界の子どもには『性別』が無い。
子どもが『性別』を持つのは大人になり『転換』を迎えるしかない。
『転換』とは、自分の相性のいい『魂』を持った者に出会ったときに訪れる。
それは一生に一度のことであり、パートナーが変わることはありえないので俗にパートナーのことをソウルハーフと呼ぶ。
『転換』は時に『変化』とも呼ぶ。
子どもには性別以外にもいくつか特徴がある。
一つは、『魔力』と呼ばれる『力』があること。
『魔力』は大抵の子どもは軽い物を浮かせられる程度だ。
時に強大な『魔力』を持つものがいるが、問題には去れずむしろ重宝される。
しかし、そんな『魔力』も『転換』を迎えた途端消えてしまう。
もう一つは、『老い』が無いこと。
子どもは二十歳前後で成長が止まり、『転換』を迎えるまで止まり続ける。
『転換』を迎えると時間が動き出す。
なので、必ずしも親が生きている間に『転換』を迎えるとは限らない。
下手をすると、兄妹の子、孫の代になってやっと、という人もいる。
それを、出来るだけ防ぐために学校がある。
全寮制である学校に入れば子どもばかりである。
街中で偶然を待っているより可能性は高い。
そのため、成長が止まった子どものほとんどが学校に入る。
学校に入る時期は親が決める。
だから、成長が止まってすぐであったり、親の身体が弱くなってから入ったりするのだ。
『転換』を迎えるのは相性とタイミングなので、入って割りとすぐの者もいるし、数年いる者もいる。
『転換』を迎えると、親元に帰ったり、二人で新しい生活を始めたり、自分たちで決めることが出来る。
しかし、親の中には自分の後を継がせたいと無理やり自分たちのところに引き取ったりする。
それは、本来の決め事に反しているのだ。
子どもは大人になった時点で、親から自由にならなければならない。
だから、親はあの手この手で子どもの気を引こうとする。
学校側は無理やりがない様に注意をしている。
親にきちんと忠告し、子どもには自分たちの権利を確認させ、どんな道を歩きたいか明確にさせる。
イツ・キは主に後半を二人に確認した。
「自分で選ぶことが出来る。それだけは覚えておきなさい」
「はい」
イツ・キの言葉に二人は頷いた。
「あなた方がどんな道を選ぶのか、二人で話し合いなさい」
「はい」
「それから」
「はい。何でしょう?」
「『魔力』の方はどうですか?」
「それについては問題なく消えております」
「そうですか」
「元々、スプーンを曲げるぐらいしか出来ませんでしたから」
シ・アネはガン・シを伺いながら言った。
「あなたもですか?」
「はい。そもそもあるかないか分からない程度でしたから」
「そうですか…それは良かったです」
イツ・キはスッと立ち上がった。
「しばらく席を外します。式については慣例どうりにやりますが、細々とした打ち合わせがあります」
「はい」
「…明日までにある程度は決めておきなさい。ガン・シのご両親は別の部屋に泊まっていただきます。シ・アネ」
「はい」
「あなたの一族は?」
「親は健在です」
「分かりました。こちらから連絡を取っておきます。恐らく明日には来るでしょう」
「はい」
「後で、泊まる部屋に案内させます」
「ありがとうございます」
「案内が来るまで色々と話し合っておきなさい」
「はい」
イツ・キは二人を残し部屋を出て行った。




