2-02 盗賊は荷馬車を襲い、私は手加減をしない
2-02 盗賊は荷馬車を襲い、私は手加減をしない
コボルドは犬頭の小鬼なのだが、ゴブリンと比べると理知的な要素が少し高い。集団で簡単な社会を築き、鉱山などで野鍛冶を行い、狩猟採取生活をしつつ、自分たちの群れの縄張りを護っていることが多い。
森で出会った場合、狩りをする提案をし、合意に至れば臨時のパーティーを組んで猪や鹿のような大型の獲物を共に狩ることもある。相手に敵意や害意が無い時に限るのだが。
そんなことで『コボルドは友達!』という師匠の教えに従い、共通ボルド語を習得した私は、ある程度会話ができる。お互い夜目も効くし力は私の方が何倍も強いので、『力こそ正義』の世界に生きる魔物の端くれであるコボルドとはいい関係が築かれやすいのだ。
だから、そんな気のいい奴の偽装をして自分たちの罪を擦り付けるこの目の前の小汚いオッサンの犬耳盗賊団に激しい怒りを感じているのです。
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「なんだ!てめぇ」
「それはこっちのセリフだ。この隊商の護衛だよ。良いから大人しく討伐されておけオッサン。なに、似合わない犬耳つけてんだ此畜生!!!」
歯の欠けた小汚い髭づらのオッサンに怒りがわく。コボルドは……もっと精悍で可愛らしい魔物なのだ。臭くないし。オッサンは、饐えたような煮しめたような異臭を放っている。風呂に入るという習慣はコボルド以上に無いのだろう。
「ふざけんな。おい、こいつ叩き殺しちまえ!!」
「「「へい!!!」」」
荷馬車から飛び降りた私は、姿勢を低くしたまま影のように盗賊たちの背後に回り込み、脚を次々と片手剣で斬りつけていく。勿論、刃の無い部分を使い全力で打ちのめしていく。
「があっ!」
「ぎゃ、あし……足がいてぇ!」
「がああぁぁぁぁ!!!」
自分以外全員敵なので、切れない程度に鋼鉄の棒である剣で動けないように脚よ折れろとばかりに叩きのめしていく。
暗闇でも足元がはっきり見え、相手も確認が容易な私と違い、明るい所と暗い所を高速で移動する私の姿を盗賊たちは追いきれない。
「おい、逃げろ!!」
「ひぃぃぃぃ……」
「ま、待ってくれ! 置いていくな!!」
叫んで逃げ出すオッサンたちにはさらに容赦のない一撃を加えて昏倒させていく。なんなら……
『土牢』
盗賊たちの足元に穴が開き、すとんと頭まで地面に落ち込んでいく。その瞬間、当然脚にもダメージが発生する。
「ぎゃぁぁぁ」
「な、なんだぁぁあああ!!」
煩いので、頭をめがけて剣を振り下ろす。顔を蹴り上げる。黙らせる手段は様々だが、騒ぐ声が一段落する。
「あのさ、盗賊は処刑が基本だから、今すぐ殺されるのと、後で拷問されて見せしめに街の住民のおもちゃとなって殺されるのどっちか選ばせてあげる。あ、首領は選択肢無しだから。盗んだ物のありか話してもらって、その後、公開処刑だからね!」
ド=レミ村の懐かしい思い出の一つに、盗賊の処刑をするというイベントが存在する。あの村は、隠れ里みたいなものなのだろうか、やたら戦闘が上手い人が揃っていた。普通の農村だと思って盗賊団が襲ってくると、逆襲して皆殺しにし、盗賊の財産を回収して村で有効活用する……主にお祭りとかでの散財……ことになっていた。今となっては何もかもが懐かしい……
「ふざけるなぁ!!」
ふざけていない証拠に、私は地面に埋まっている盗賊の頭を二つばかり叩き潰してみる。グシャッと良い音がして、兜ごと叩き割られる盗賊の頭。とたんに、静かになる盗賊たち。
「ね? ふざけてないでしょ」
「お、俺たちにだって生きる権利が……」
「そうそう。で・も・ 今まで人を殺して奪って小汚く生きてきたよね?生きる権利が他人を殺す権利であるとしたら、殺される権利がもれなく付いてくるって知らなかったのか……な!!」
地面にしゃがみこんで呻いている賊の一人の頭を思い切り蹴り飛ばす。なんか変な方向に首が曲がっているが、気にしない。
「面倒だから、首領以外皆殺し。首領、誰?」
因みに、この間、周囲には『風』の魔術である『静寂』を用いて音が周囲に伝わらないように遮音結界を展開中です。安眠妨害で怒られたくないからね。『風』の属性に強くて良かったよ私。
安宿とかでも室内に展開すると、静かに寝ることができるし、野営の時も展開したまま寝ると、周囲の魔物や獣に気配を悟られなくなるのでより安心することができる。
「お、俺だ!」
中でも一番体格の良い、他の犬耳と比べると銀色っぽいそれを身に着けた男が手を挙げる。
「分かったわ。ありがとう!!」
「……ぎゃああぁあぁぁああ!!!」
上げた手を肘の上から斬り飛ばす。だって、殺さないって言ったけど、五体満足にしておくなんて約束していないもんね。逃げ出せないように、逃げても抵抗できないように、四股欠損は当然です。
よく考えたら、こんな小汚いオッサンが溜め込んだ宝物なんてたいして意味ないんじゃないかって事に気が付いたので、この件は、この街の冒険者ギルドにでも預けて、評価に加えてもらう方が良いかもしれない。
盗賊の討伐は常時依頼に入っているだろうから。それと……
「オッサン、手引きした内部の人間って……誰と誰?」
「……」
「早くしないと……死んじゃうぞー」
転がっている一人に剣を叩き込む。そして、動かなくなる。
「二人くらい生き残っていればいいからね。じゃあ、お話したい人だけ首領以外で手を挙げてもらおうかな。それ以外の人は、即処刑してあげましょう」
というわけで、門衛の一人と、宿場兼酒場の経営者である街の幹部の一人が共犯者でした☆ 酒場って公的な場所としても活用されるから、街の名士が経営していることが少なくないんだよね。ド=レミ村でもそうだった。トラスブルは関係なかったけれど、人口が数千くらいまでの小さな街だとそんな感じみたいだね。
多分、街の人も薄々知ってたんじゃないかと思う。まあ、商人が襲われても街の人間からしたら他人だからね。
とは言え、アルス十都市同盟に加盟している街の幹部が盗賊と結託して商人を襲っていたなんてのは……随分なスキャンダルだよね。
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朝一で、盗賊の手引きをした門衛を捕縛してもらい、冒険者ギルドには城塞の責任者に連絡を入れてもらった。私は一旦、街に残り、昨晩の報告をしてから次の街に移動することにさせてもらった。護衛の仕事はしっかりと昨晩こなしていた事だし、私が残らなければ、隊商全体が足止めされることになりかねないので、街も隊長も快諾してくれた。
昼前には城塞の責任者と、街の警備の責任者と確認をし、生き残りの盗賊を引き渡し、協力者だと告げた街の酒場の経営者の名前を伝え、賊からもその名前に間違いないと同意を得た。
コボルドの盗賊団は討伐依頼対象であり、城塞の責任者から懸賞金も掛けられており、ギルドの査定と報奨金の支払いを冒険者ギルドで得ることができることになった。
生きて数人の盗賊を捉えることができたのは珍しい事だという。普通は、アジトに乗り込んで死にもの狂いで抵抗された挙句、殺すしかないのだという。
「その年で一人前の冒険者をしているだけあるな」
城塞の責任者である騎士からは過分な誉め言葉を貰ったが、それより現金が欲しいのです行商人は。
「行商の途中でこの街に立ち寄ることがあれば、ぜひ城を訪ねてくれ。その時は、歓待させてもらおう」
「身に余る光栄でございます。トラスブルに戻る際には、ぜひ立ち寄らせて頂きます」
「ああ、楽しみにしている」
何年後に立ち戻るかは知らんけど、そう言わないといけないのが大人の関係という物です。
私は、爽やかな気持ちでライニンゲンの街を後にした。報奨金と懸賞金は冒険者ギルドで速やかに清算され、清々しい気持である。もう二度と、偽モフモフ盗賊団があの街に現れる事はないだろう。ないといいな。
人目もあるので私は街道から外れ、薬草を採取しつつ隊商を追う事にした。今日の夕方までに次の宿泊地である『パイエ』に到着すれば問題ない。あまり早く合流しても不自然でしょうし、気を遣うんだよ駆け出し行商人は。
隊商と別れたら、魔法の袋に溜め込んだ素材を使って、ポーションを作ることにしよう。それを持って、メインツの冒険者ギルドを訪問することにする。あまり長く留まるつもりは無いのだが、素通りするのは少々勿体ない気がするのだ。
帝国の第一の司教座のある場所であるし、私のルーツに関わるような情報が得られないとも限らない。とりあえず、あの梟の紋章について調べたいんだよね。




