オマケ:戦いの後で
海村さん(https://mypage.syosetu.com/1384641/)ってゆーお友達がいるんですが。
海村さんの描いてくれたファンアートがエモすぎてついオマケの話を書いてしまったー。
エリオット出てこないんですが、イラストの仕様なので諦めて下さい。
ξ><)ξ
イラストは一番下に。
トントンと扉がノックされ、ゆっくりと扉が開いて声がかけられる。
「あの、メリー先輩……いらっしゃいますかー?」
ん、いつもの隣室の後輩じゃなくて、えーと……。チョコレート食べさせた後輩ね。
「おや、どうしたの?」
「あの、寮長がおよびです」
寮長からかー……。
「わざわざ呼びに来てくれたのか。ありがとね」
あたしは椅子から立ち上がると、ラーニョに手を伸ばす。ひょいと軽く曲げた人差し指の上、それから肩の上へと飛び移ってきた。
扉を閉め、一緒に階下へ。
「あ、あのっ!」
階段を降りたところで彼女に声を掛けられる。
「ん?」
「あのっ、また……お菓子をつくったり、します……か?」
彼女は頬を紅に染めて尋ねてきた。
お菓子……ああ。そういえばエリオットに作り直すと言ってしまっていたな。
「そうだね。週末に作ろうかな」
「!……お、お手伝いしても、……いいです、か?」
ん、あたしは頷き、彼女の頭を撫でる。
「ありがとね」
「は、はいー。楽しみにしてましゅっ!」
後輩は階段の手すりを掴み、ずるずると崩れ落ちるように座りながら言った。
さて、週末の予定が決まったのは良いけど、問題は寮長よ。
ディーン寮の寮長。ミセス・バン(禁止)ことミセス・バンフィールド。細かいことにちょこちょこちょこちょこ禁止だの注意だのしてくるんでそういうあだ名がついてるわけ。
ディーン寮が秩序だっていて、あたしが寮の中ではあまり嫌がらせ受けてないのはミセスのおかげだと思うし、あたしは素行面では問題児ではないからそんなに嫌なイメージは持っていないんだけど……。
校舎倒壊させちゃったしなぁ。
魔術戦闘訓練の決勝でエリオットと戦っていた最中、彼の放つ熱気とあたしの冷気で上昇気流が発生し、竜巻になってたのよね。……結界の内側では気づかなかったんだけどさ。
「絶対、説教だよなぁ……」
そう呟きながら、寮長室の前に。ドアをノックする。
「メリリース・スペンサー参りました」
部屋に入ると、暖炉の前にはいつも通りに紫紺のローブを羽織り、背筋を伸ばして座るミセス・バン。その隣には監督官の六年生、ジンデル先輩。
……うへぇ、フルメンバーって感じじゃん。
「良く来ました。ミス・スペンサー」
ミセスのいつもの固い声。あたしは黙礼する。
「まずはおめでとうございます。あなたが魔術戦闘訓練で優勝したと聞き、わたしも誇らしいわ」
「ありがとうございます」
「それで、その時のことなんだけど……」
ほら来たぞ……!
「ミスター・ロビンソンに求婚されたとか」
……ん?
あたしが思わず硬直すると、ジンデル先輩が続ける。
「ああ、メリリース。別に隠す必要はない。どうせ学校中がもう知っていることだ」
いや、そうではなく。
「あ、……はい。いや、あたしてっきり校舎壊したことやら、使った術式のことで叱責されるのかと」
ミセスは、ふんと軽く鼻を鳴らした。
「あなたがたが全力で戦いに臨み、故意でなく起こした事故を責める気はないわ。というより、責められるべきは学長とその担当教師よ。魔術結界の強度不足は彼らの責任。
それとあなたのオリジナルの術式……なんといったかしら?」
「〈無慈悲なる徴税官〉と名付けました」
「あれだって本質的には〈魔力奪取〉系の術式よ。4年生には難度が高いから教えられてないけど、本来〈魔力奪取〉は魔術師同士の戦いでは基本戦術。あなたはそれを先取りしただけだわ。
あれを学校全体の広範囲に使えたのは、あなたのその肩の……」
ミセスがあたしの肩を示しました。
「ラーニョと名付けました。蜘蛛系統の魔物の幼体かと」
「ラーニョの糸を学校中に張り巡らせたからでしょう?それについて責められるべきは、掃除が雑であった用務員や、身の回りをきれいに保とうという意思のなかった学生たちよ」
あたしは頭を下げます。
「そんなことはいいの、ミス・スペンサー。求婚されたんでしょう?」
「はい、婚約の申し込みをされました」
「ミスター・ロビンソン。伯爵家の令息からね。そして接吻で答えた」
思い出して顔が赤くなります。顔を隠して言います。
「……ちょっと魔力に酔ってテンション上がってただけなんです……!」
はぁ。とミセスがため息をつきます。
「別にそれに関しても怒ってないわよ。でも問題ね」
「ええ、大問題です」
ジンデル先輩も頷きます。
「な……じゃ、じゃあ。なにが問題なんですか」
「あなたのそのぼさっとした髪の毛、徹夜による疲れ目からくる目付きの悪さ、うつむき気味の顔、よれた襟、袖のインク染み、スカートの皺、履きつぶされたローファー。ぱっと見でもこれくらいは問題ね」
「え……」
「ミスター・ロビンソンに愛想をつかされる前に、身だしなみを改善なさい」
あたしはふぅっとため息をつきます。
「……なにか厳しいことを言われるのかと」
「わたしの言葉が優しいとでも思っているのかい?ミス・スペンサー。それは思い違いも甚だしいね。
わたしはあなたに、魔術の研鑽を続けたうえで女も磨けと言っているのです。今までの倍努力しろと言っているのに等しいのですよ」
あたしは背筋を伸ばして頷きます。ミセスはジンデル先輩に声を掛けました。
「ではミス・ジンデル。後は任せます」
「はい、ミセス・バンフィールド。化粧はどういたしますか?」
「……ちょっと前までは顔色が悪かったけど、最近は蜘蛛の糸はるために学校中を走っていたみたいだからね。
血色は良くなっているから今は不要でしょう」
ジンデル先輩がミセスに頭を下げ、背後からブラシを取り出します。
「かしこまりました。……ではメリリース。徹底的に磨いてやろう」
かくして週末はお菓子作りと洗濯とアイロンがけとお風呂と散髪とブラッシングに費やされ……。
月曜日。
あたしは鞄と、小さくお洒落な手提げ紙袋を右手に持って寮を出た。青地に榛色のリボンがついた紙袋の中には、あの日潰されたのと同じチョコレートの小箱。
いつもはぼさっとした亜麻色の髪は丁寧に梳られて後頭部で白いリボンで束ねられている。靴は新調した。服もアイロンかけた。
変わらないのは肩の上のラーニョだけ。
言われた通り、下は見ず、前を見て歩く。なぜかあたしを見て硬直する生徒たち。
……なんだよ、あたしが髪を整えてるのがおかしいのかよ。
校舎に入ろうとすると、ラーニョがふいと跳ねる。肩の上から左腕に、あたしが左手を上げるとその拳に。
手の一番高いところ、人差し指の第一関節の上に留まると、ラーニョは大きく前脚を振った。
その向こう。エリオットの姿が見え、思わず口角が上がる。
こちらに気づいていないのか、そのまま近づいてくる彼に、あたしはゆっくりと向き直って言った。
「おはよう、エリオット」
そしてエリオットまで硬直した。
イラストが本編のメリリースのイメージより可愛くてエモすぎたので、こんな話を書いてしまったー。
ああ、こんな夜中まで執筆させるとは海村さんは酷い方なのですわー(棒)
さておき、前話の完結時に、
ブックマークとか評価とか感想とかその他諸々……いただけると本当に嬉しいです!
さらに言うと、下のバナーから、『なまこ×どりる』を読んでいただけると、感激のあまりびくんびくんします。
と書きましたが、おかげさまで、この作品なんともう10000ptいきそうです!
ひゃー!><
なまどりの方まで見に来てくれた方々、本当にありがとうございます!
そしてこうしてイラストやバナーを下さいました皆様や、レビュー書いてくれた皆さん、読者のみなさん!
応援の数々、本当にありがとうございました!
 




