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第三話(6)


「自分たちに向かってきた個体は自分たちでやって見せなさい! それを今回の実戦訓練とするわ!」


 群れに会長が突撃し、その中心で舞っていたため心喰者たたのほとんどは会長を標的としていた。

 とはいえ数体は彼女ではなく、周囲の人をターゲットにして動いていたのだが、その数は当初予定していたよりも少なかったので、会長はそれらまで斬る事はなく、実戦班に任せる事にしたのだ。

 予定の数倍の心喰者が出現してしまった事で怯える者もいたが、会長の言葉によって彼女たちは自身の武装を構えるのだった。


(選抜されただけの実力はあるみたいだな)


 予定以上の心喰者が出現してしまったとしても、その脅威が上まで到達する事はない。多少騒がしくなった場所もあったものの、今では落ち着きを取り戻し戦いを見て直に見てそれを己の経験値にしようと、真剣な眼差しを向けていた。

 一つのチームは武装型の剣を持った二人がデコイとなって注意を引き、二人が細かい弾を撃つ事によって心喰者にとって戦い難い環境にし、そして残った一人が発動まで時間が掛かるものの高威力の操術を放つ事によって確実に一匹ずつ滅して行く。

 もう一つのチームは基本戦術を取っており、三人がそれぞれ三方向に壁を作り、五人とも三角形の安全地帯に滞在しつつ二人が陣を壁の外で組み立て、敵を射抜く。

 殲滅力よりも安全性を重視した戦い方だった。

 囮を使った戦術も、基本戦術による安定した戦い方も、どちらも完璧に近いコンビネーションの上で行われており、見る者たちにとって良い経験になるだろう。


(多少の想定外はあったけど、結局は問題なしだな。良かった……)


 もう残った心喰者の数は数えるほどになっていた。

 既に会長は引いていて、二チームがそれぞれどう動くのかを見守っているみたいだ。

 チームリーダー同士が声を掛け合い、残った心喰者をそれぞれどれだけ引き受けるのかを決めると、すぐに決めた通りに相手をしていた。


「そこまで! 両チーム素晴らしい戦い方だったわ。個での強さには限界があるわ。でも群の力に限界はない。戦い方次第で十分格上にも通用するわ。これからは各々の力を伸ばしつつ連携を育てなさい。これにて実戦訓練を終——」


 会長の口から了まで言われる事はなかった。

 その代わりに彼女はその顔に驚愕を映し、空を見上げていた。


「……嘘っ……」


 空から降って来る柱のような物に小さく悲鳴にも似た声を漏らしていた。


「——あれって!?」


 ユキの脳裏をよぎるのは過去の記憶。今から一年と少し前の記憶だ。

 忘れるわけがない。忘れられるわけがない。これは一緒なのだ。——あの時と。


「会長! あれはただの柱じゃない! あれは幻卵に近いものだ!」

「なんですって!?」


 銃を取り出して観客席から飛び出し、会長の側に着地しながユキは続けた。


「内包世界を広げる事はない、まさに卵なんだ! 中から出てくるぞっ下級共を従えた中級クラスの心喰者が!」


 ガーデンに落ちた柱の数は五本。あの日と比べればだいぶ少ないが、こちらの戦力としては明らかに低い。あの数だけでも処理出来るか怪しい所だ。

 そもそも、中級クラスの相手が出来る幻操師が何人いる?

 勝算はあるか? また、あの日の再現になってしまうのか? ユキの頭がフル回転し、状況を打破しようと思案する中、柱がガーデンに突き刺さった。


(くそっ。もう考えてる時間なんてないっ)


 柱は今いる地点をほぼ中心にして五方向に落ちた。そこから中級クラスを指揮官として下級クラスを雑兵とした戦力がここに向かう事になるだろう。

 五方向からの進軍。どこか一つを突破して逃げる? いや、それは無理だ。四方向からならまだしも、五方向からじゃ両サイドから来るタイミングが早い。

 ならば手はこれしかない。


「ジトメ! 感知!」

「やっておる! 少し待つのじゃ!」

「ユキ! あんた何か知ってるわね! 情報を出しなさい!」

「詳しくは知らない。あれは心喰者の船みたいなものな。中から中級クラスを指揮官にし下級クラスを従えた小隊が来る」

「船は五つ、それなら中級クラスが五体はいるって事?」

「……ああ、最低な」

「——っ」


 ユキの発言に言葉を失う会長。当然だ。確かに一体程度ならば会長一人でどうにかなる。しかし、最低という事は一箇所に付き複数の中級クラスがいる可能性だってあるという事だ。

 それに雑兵とした群がっているであろ下級も邪魔だ。


「安心せい! 中級クラスは各地点に一匹のようじゃ。じゃが雑兵の数はバラバラじゃな」

「最低と最高は?」

「最高は五十ほど。最低は十じゃ」

「十か……」


 最低数でさえ中級クラスの様子を見つつ十体の下級と戦うのは辛い。

 ジトメが心喰者の数を固有式によって感知している間、生十会役員は皆会長のもとに集まっていた。


「会長。一小隊行けるか?」

「……ええ。中級クラスが一体なら平気よ」

「私も問題ありません」


 会長だけでなく六花もまた一人でどうにか出来る自信があるらしい。これで二人。ジトメとユキを含めて四人、四箇所だ。


「……桜、琴音。二人で組めば中級クラスと下級クラス十体。どうにか出来るか?」

「……どうかな……あまり自信はない」

「私も倒す自信はないです。……ごめんなさい」

「倒さなくて良い。足止め出来るか?」

「それなら大丈夫だと思う!」

「はいです!」

「なら二人は足止めを任せる」


 さっき行われた実戦訓練は今ガーデンにいる全員が参加している。つまりガーデン外にいる三年生を除いた全校生徒がここに集結しているという事だ。

 教師たちは戦闘タイプじゃないとしても、生き残る術は持っているはずだ。だから今は気にしない事にする。


「俺、ジトメ、会長、六花、そして桜と琴音のペアで対処するぞ」

「……それってつまり撃ち漏らしは許されない戦いをするって事よね? シオン一人でこの人数を守るのは無理よ」

「それについては問題ない。シオン!」

「うんっわかった!」


 ユキに名前を呼ばれただけで、シオンは一体何を求められているのかわかっているのだろう。

 ピシッと両手で敬礼を決めると右腕を大きく振り上げ、そして地面に手のひらを付けた。


「一体な——っ!?」


 何をするつもりなの。会長の言葉がそこまで続く事はなかった。

 手を床につけるシオンの身体から発せられている夥しい幻魔力に目を丸めていた。


(……本当にシオンなら、一つのガーデンくらい氷河時代に変える事が出来るのかもしれない……)


 あまりにも規格外な量、圧力、純度。

 自身の能力が飛び抜けている自信と自覚がある会長でさえも、その力に感情が高まるのを感じていた。


「いっくよーっ! 【氷操・白銀天蓋(はくぎんてんがい)】」


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