「仕方ない」
ふわふわと、しかし確かにシモンの中へ溶け込む羨望。しかし、それさえも、シモンにとっては少し遠い世界にあるようだった。
「仕方のないことだ」
とうの昔にそう割り切ってしまったのは、きっと、シモンの両親のこともあったのかもしれない。
父親のイアンは、この街で代々受け継がれる剣の名門、イルミフォード家の三男として生まれた。そもそも身体能力に恵まれていなかった彼は次第に書物に興味を持つようになり、いつしか科学者を志した。
イルミフォードの名を背負っている以上、彼の兄弟、さらには両親までもが剣の道をそれることに反対の色を示したが、そんな世間体を気にするような男ではなかったのが彼にとっての救いであったのだろうか。奇異の目を向けられながらも、自らの力で専門学校へ通い、今では街で知らぬ者はいないというまでの科学者に成長した。
そんな彼と恋に落ちた女性、つまるところの母、リリアは、いたって普通の、平民の家の娘であった。絶世の美女であることを除けば。
街行く人は一度はその青の瞳に釘づけになり、ひとたび街の大通りを歩こうものなら、ほとんどの男性からの熱烈な視線を受ける。平民の家の育ちだからなのか、美しさの中に一本の筋が入っており、確かな強さを感じさせた。一言で表すなら「凜」だろうか。
そんなシモンの両親は、世の中を常に冷静に見つめていた。
学術に長けた父親は「論理的な」思考を重んじ、シモンに子供向けの絵本を買い与えなかった。
心の強い母親は「我慢する」ことを知り、シモンに「自分の身の程を知った上で行動するように」教育を行った。
だからこそ、シモンが成長し、「声が無い」ことに気づいたときに
「仕方のないことだ」
その一言で割り切ることができたのかもしれない。
そして、同年代の子供が泣きながら母親にお菓子をねだるのも、いまいち理解ができなかった。
こんばんは、四ツ谷りるれと申します。
「クレシェンド」連載二回目!!ぱちぱちぱち
この作品も、いつかはどなたかのお目にかかれることを望みます。
簡単に諦めがつく世界は、つまらなくもありますが、羨ましくもありますよね。




