↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの森の歯磨き事情  作者: 藤紫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/35

あとがき 神様の反省会

「……で?」


 神の執務室。

 巨大な机の向こうで、神が頭を抱えていた。


「どうしてこうなった? わしの計画では、もっと穏やかな人生だったはずだろう」

「どうして、と申されましても」


 向かいに座る部下が、淡々と報告書をめくる。


「最初の計画では、問題ありませんでした」

「だよな?」

「はい。息を清めることを忘れたエルフに、口腔衛生を思い出させるきっかけを作る予定でした」

「うん」

「本人も、それなりに穏やかな人生を送る想定でした」

「うんうん」


 神は頷く。


「……なんで世界樹が喋った?」

「それは、本人の責任ではありません」

「分かってるよ!」


 神が机を叩いた。


「なんで歯磨きの話をしてたら、世界樹が喋るんだよ!」

「世界樹も、思い出してほしかったのではないでしょうか」

「そこまで想定してないよ!」


 部下は一枚、書類をめくった。


「なお、当初の予定では、本人は人間のまま生涯を終えるはずでした」

「……」

「ところが」


 神は、報告書の該当箇所を睨んだ。


「神酒を飲んだ」

「はい」

「間違えて」

「はい」

「エルフになった」

「現時点では、完全には判定できません」

「なんでだよ!」


 神が頭を抱える。


「エルフになったんじゃないのか?」

「本人にも分かっていないようです」

「じゃあ、なんで寿命が延びてるんだ」

「副作用です」

「便利な言葉だな!」


 神は報告書を取り上げた。


「チート能力は?」

「ありません」

「魔法は?」

「ありません」

「特殊スキルは?」

「ありません」

「じゃあ何が起きたんだよ」

「馴染みました」

「何に?」

「森に」

「……」


 神は黙った。

 部下は淡々と続ける。


「精霊が集まりました」

「うん」

「森の匂いが気にならなくなりました」

「うん……」

「世界樹の声を聞きました」

「ん……」

「リシェルとの関係も良好です」

「……」

「歯磨きの習慣も定着しました」

「そこだけが、計画通りだったんだよなぁ……」


 神は椅子に深くもたれた。


「最初は、ただの歯磨きだっただろ」

「はい」

「それが、神事になって」

「はい」

「世界樹が喋って」

「はい」

「忘れられた意味が戻って」

「はい」

「最後には本人がエルフになったかもしれない、と」

「はい」


 神はしばらく黙っていた。


「……歯磨きって、怖いな」

「歯磨きが原因ではありません」

「分かってるよ」


 少し間を置いて、神は報告書の最後を見る。


「で」

「はい」

「明は、元の世界に帰れないんだよな」

「はい」

「スマホも使えなくなった」

「はい」

「学校にも戻れない」

「はい」

「人間としての一生も、もうない」

「はい」


 神は、少しだけ眉を下げた。


「……それ、失敗じゃないのか?」


 部下はすぐには答えなかった。

 やがて、報告書を閉じる。


「本人は、隣に座った彼女と、この先も生きていくつもりのようです」

「……そうか」

「祖母から教わった習慣も、残っています」

「……そうか」

「現在は、リシェルと一緒に、新しい歯ブラシを作り始めています」

「……そうか」


 神は、しばらく黙っていた。

 そして、小さく息を吐く。


「全部が同じにはならないけれど、か」

「はい」

「……なら」


 神は報告書を閉じた。


「転生は、成功ってことでいいんじゃないか?」

「計画通りではありませんが」

「うん」

「想定外ではあります」

「うん」

「かなりの部分が」

「うん」

「ほぼ全部」

「うるさい」


 神は椅子に背を預けた。


「でもまあ……」


 少しだけ笑う。


「ちゃんと、生きてるんだろ?」

「はい」

「なら、いいか」


 部下が一礼する。


「では、次の案件ですが」

「待て」

「はい?」

「次は絶対に、歯磨きに関係ない魂にしてくれ」

「かしこまりました。では、次の案件ですが、爪が……」

「ストップ。それ以上言うな」

「はい」

「…………」


 神は再び頭を抱えた。


「……今度は始めからチートを持たせよ」

「どのようなチートを?」

「わしは知らん。お前に任せる」

「かしこまりました」

「……今度こそ、うまくいくといいな」

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

感想や評価など、いただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。