206. ハキの実家の雑貨店
キースが一人で行った前回は、ハライトが一人でキースを送って行ったのだが、今回は僕とキースの二人なのだが、エレオンとアライムにも送ってもらうことになった。
前回キースが行った時に、キースはあることにとても困ったそうだ。
それは着て行った防寒用の毛皮をどうしようかということだった。
空をこの時期に飛ぶのはとても寒いので、僕らは空を飛ぶときは全身を毛皮の防寒着で覆っている。
キースは前回、町の近くまで送ってもらって、誰かにハーピーの姿を見られることを心配して、着いたら即座にハライトと別れたのだという。
そうしてその後、町に向かおうとして、はたと気がついた、この全身毛皮の防寒着の姿で町に行ったら、大注目も良い所だと。
仕方なく、毛皮の防寒着を脱いで、岩陰の濡れないような場所に隠しておいたのだが、帰ってくる時には、その防寒着がどうしても湿っぽく冷たくなっていて、とても寒い思いをしたそうだ。
今回は、袋を用意しておいて、帰りには持って帰ってもらって、迎えに来てもらう時に、また持ってきてもらうことにした。
それと今回は僕も行くことと、領主と会うのに偽装として狩人のふりをするので、そのための狩人らしい物を持って行かなくてはならない。
まあ、偽装とはいうけど、キースはともかく僕はそれが本来の姿だと思うのだけど、キースが「偽装のために」と言ったら、誰もがその言葉になんの疑問もなく話が進んだので、何も言えなかった。
それと前回キースは、知り合いの家に秘密に匿ってもらったようだけど、僕と二人で、なおかつ領主と会うのに、どこに宿泊しているのかもわからないでは、誰かに変な警戒をされることも考えられるので、宿を取ることになる。 その為にはお金がいるのだけど、ラミアの里に暮らしているとお金というモノを全く使わない生活なので、それを作らなければならない。
その為にも、狩人が生活していくには普通の手段、狩った獲物を売るという行為をする必要がある。
そんな訳で、その売るための物も少しは運ばなくてはならない為に、3人に送ってもらうことになったのだ。 つまり一人は荷物持ちだ。
「なんだよ、俺は荷物持ちかよ」
「ぶつくさ言うな。 やっぱりいつも一緒に飛んでいる方が、気心が知れていて、俺たちも人間も安心していられるだろ」
「ま、それはわからないくないけどな」
アライムの愚痴にエレオンが返している。
「デイヴも行くときはどうしようか。 荷物を持つハーピーがいないぞ」
「別に、荷物を持つならウスベニメでもモエギシュウメでも構わないだろ」
僕が何とはなしに、ちょっと先の想像をして呟いたらハライトが答えてくれた。
「そうだな、女性ハーピーと一緒に飛んだことはないから、頭になかったよ」
「あれ、飛んでる時にあいつらが一緒にいたことってなかったっけ」
「ああ、俺はないな。 キースあるか?」
「いや、俺もないぞ。 しかしお前ら、もう少し緊張感を持てよ。
もうすぐ目的地だぞ」
降り立ったのは、町からそんなに離れていないけど、窪地になっていて町からは見えにくい位置にある野原だった。
周りを背の高い木に囲まれてもいるので、低く飛行すれば町からハーピーが飛んでいるのに気づかれることもないだろう。
「都合の良い場所だろう。 前回の時にキースと見つけたんだ。
もっと遠い場所に降りないとダメかと思ったのだが、運が良かったな、お前ら」
「ああ、本当にそう思うぜ。 ここなら町に近いからな」
僕とキースを降ろした3人は、僕たち二人が脱いだ防寒着を持って、戻って行く。
「ここに来る前に、町を出た所で合図しろよ。 ここまで来ちゃうと見えないからな。 ま、町を出た所で俺たちからは見えるのだけどな」
「ああ、了解だ。 三日後にまた頼む」
「おう、それじゃあ、頑張ってくれ」
もうその辺の打ち合わせはキースとハライトにお任せだ。
僕とキースはアライムに持ってきてもらった荷物を持って町へと向かった。
まず目指すのはハキの実家でもある雑貨屋だ。
今回の話をしていた時に、ハキからぜひ使ってくれと言われている。
「親父も兄貴も真っ当な商売をしているから、初めての取引でも変に買い叩かれたりすることなく、適正な値段で買ってくれると思うから。」とのことだった。
キースは元々はこの領主の膝元の町の出身だ、ハキの実家である雑貨屋の場所も知っているとのことで、キースに案内されて向かっている。
僕が元々居たおばさんの家はこの地方の外れの方の場所だったし、狩人学校はその目的に合致した人間が入って問題がない森に近い場所、つまりどちらかというと問題の砦に近い場所にあった。
僕にはこの地方の中心であるこの領主の膝元の町に来る用事も、その余裕も今までなかったので、初めてで右も左も分からない。
「やはりさすがにこの地方の中心地だな。 大きな建物が多いな」
「そうなのか。 俺はここ出身だから、これが普通だから、そういうのは良く分からないんだ」
キョロキョロしている僕と違い、キースは全く関心がないという感じで先を急いでいる。
「アレク、ハキの実家の店に行ったら、そこでの交渉は全部お前に任せるからな」
「え、何で。 この土地に慣れているお前の方が交渉が上手くいくんじゃないか」
「いや、地元だからこそ、俺の元々の騎士の家のドラ息子の地が出ちゃうかも知れないだろ。
普通の狩人らしからぬ雰囲気があったら変じゃないか、それが心配なんだよ」
「俺から見たら、お前も普通に狩人だけどな、剣を振るわない限り」
「ま、剣を振るったら、今ではお前だってとても狩人にはもう見えないよ。
それを言うなら、体格的には俺たちはもう誰も狩人の体格してないだろ。
だから注意しないと怪しまれる。
それを考えないとな」
そうだった、忘れていたが僕たちは過酷な戦闘訓練のお陰で、もう誰も狩人という体型をしていなかったのだった。
「そうだった、体型が変わったのなんて、デイヴの体型以外は忘れてたよ」
歩きながらつい二人とも声をあげて笑ってしまった。
「おい、これが本当にハキの実家の雑貨屋か。 随分でかい店だな」
「ああ、ここがそうだ。 同じ名前の店は他にはないと思うぞ」
ハキの実家だという雑貨屋は、町の中心に近い商店の並ぶ一角でも目立つ大きさの大きな店だった。
あいつ、こんな大きな店の息子なのに、何で狩人になろうとしてたんだ。
「ま、何はともあれ、中に入って目的を果たそうぜ。 そうでないと宿にも泊まれないぞ」
中に入ってみると、高い天井の広い売り場に様々な雑貨が並んでいた。
天井が高いのは、壁の上の方にも大きな窓があり、そこからの光が奥まで届いて明るさを確保するためらしい。
僕はちょっと圧倒される気分だったのだが、キースに促されて買取をしている一角に向かった。
買取をしているカウンターには、一目でハキの親父さんだと思う人が接客していた。
前の人が終わるのを待ち、僕らの番が来た。
「こちらの店で買取をお願いするのは初めてなんですが、大丈夫でしょうか?」
僕はハキの親父さんにそう言った。
「もちろん新規の取引は大歓迎ですよ。 随分と体格の良い狩人さんですね。 兵隊をやめて狩人になられたのかな」
「いえ、兵隊になろうと思って体を鍛えたんですけど、なれずに狩人になったという反対なんです」
「そうなのですか。 それで今日はどの様な物を売ってくださるのですか」
僕たちは今回軽いモノという制約があったので、まずはたくさんあるウサギの皮を持ってきた。 新米狩人なら、一番あり得る売り物だということもある。
「このウサギの皮なんですけど、良いですか」
ウサギの皮なんて見慣れているだろうに、ハキの親父さんはきちんと一枚づつ皮を確かめてから言った。
「とても良い状態の皮ですね。 高値で買い取ることができますよ。
罠で獲ったモノですか、皮に傷跡が全くないのがとても良いです。
それにどうやって締めたのですか、皮に全く抵抗した様な感じがありませんね。
まるで眠っている時に気づかれる前に殺した様な皮の状態です。 素晴らしいですよ」
提示された金額は僕らが考えていた金額より随分と上だったので、それは嬉しかったのだけど、ハキの親父さんの眼力はとても凄くて、僕らは背中に冷や汗が流れそうだった。
皮の状態を見るだけで、ウサギの獲り方の違いまで見分けるんだ。 抵抗の跡がないなんて、大鳥の肉の状態の違いは分かるけど、毛皮の状態にも影響が出るなんて初めて知ったよ。
「はい、ありがとうございます。
初めての取引なのに、こんなに高価に買い取っていただいて、本当に助かります」
「いえいえ、こちらとしても良い取引です。
この様に状態の良い毛皮でしたら、いくらでも引き取りますので、どんどん持ってきていただけると嬉しいです」
「ありがとうございます。 ところで、こんな物も買い取っていただけますか」
僕は軽いからちょうど良いやと思って、何気なく獲ったばかりで使用目的が無かった大鳥の尾羽を少し持ってきたのだ。
「おっ、これは」
ハキの親父さんの顔が変わった。
「これはもしかして大鳥の尾羽ですか、これは珍しい」
親父さんの食いつき方が凄かったので、ちょっと狼狽えながら答えた。
「はい。 手に入れるのが難しいと聞くので、売れるかなと思ったのですけど」
「もちろんですよ。 それもこれは中でも少ない雄の尾羽ではないですか。
これも売っていただいて良いのですか」
「はい、でもたった10本しか持ってきてないのですけど」
「10本も売っていただけるのですか、もちろん全て買い取らせていただきます」
出された金額は、一本あたりにしても持ってきたウサギの皮全てより多かった。
「あのでもちょっとお願いがあるのですけど」
「はい、何でしょうか」
「僕たち、あまり目立ちたくはないので、この羽根を僕たちが売ったことは内緒にしてもらえると嬉しいのですが」
「分かりました。 私どもとしても入手先は秘密の方が都合が良いので、もちろんそれで構いませんよ。
また手に入ったら、ぜひ持ってきてください。 もちろん、他の毛皮その他も歓迎しますよ」
取引が終わって、僕はつい気が緩んでしまったのだろう、ついいらない一言を言ってしまった。
「店主さん自らと取引させていただいて、安心してお任せできました。
ありがとうございました、これからもよろしくお願いします」
「おや、初めてお会いすると思うのですが、私のことを知っていらしたのですか」
「あ、いえ、あの顔が似ていたので、すぐに気がついたというか」
「誰かうちの子供の知り合いなのですか」
困ったが、上手くごまかせない。
「あの、以前に狩人学校にいた息子さんに会ったことがありまして、実はその縁でここに買取の依頼に来たんです」
「そうだったのですか、その息子は狩人になると出て行ったと思ったら、今では行方不明なんですよ。
周りの者は、『もう諦めろ』と言うのですけど、私はなんとなくまだ生きているんじゃないかという望みが捨てられないんです」
「そうなんですか。 すみません、変なこと言っちゃって」
「いえいえ、息子のことを知っている人に会えただけでも親としては嬉しいです。
そんな縁があるのなら、ますますまた来てください」
「ありがとうございます。 また寄らせてもらいます」
「おいおい、気をつけろよ」
店から出て、キースに即座に言われてしまった。
「ごめん、取引が上手くいって、つい口が滑った」
「でも、ハキの親父さん、まだハキが生きていると思っているって言ってたな」
「ああ、ハキに伝えてやろうな」
「きっと、あいつ喜ぶだろうな」
最近忘れていたのだが、なんだか無性におばさんに、自分が生きていることを伝えたくなった。
えーい、気分を変えよう。
「それにしても大鳥の尾羽の値段にはびっくりしたなぁ」
「ああ、まさかウサギの毛皮50枚より、大鳥の尾羽1本の方が値段が高いとは思わなかったぜ。
これで目立っちゃいけないので無かったら、豪遊できたんだけどな」
「そうだな。 でもさ、これだけの金額があったら、馬の飼料が十分買えるんじゃないか」
「そうだな。 持っていく方法があれば十分以上に買うことができるな。
というより、もっと色々買えるだろう。
ま、とにかく、宿を取ろうぜ。 まずは明日の打ち合わせだ」




