11. 僕には名前は必要なんだ
今日は仕事に行かなくても良いと分かってから、ずっと部屋の中で過ごしている。
一度は外に出るために服を着たのに、僕にはいくらかのその必要があったけど、気がつけばみんな服を脱いでいた。
基本ラミアは集落の中というか巣穴の中は、服を着たり何かを身につけたりはしないらしい。
ラミアは尻尾の蛇の部分はとても強く、人間の振るう剣くらいでは傷もつかない。 鱗は緻密でその表面は少し濡れた様な光沢を帯びている。
尻尾以外の人間の女と変わらない様に見える部分は、まったくの見た目通り、人間の皮膚と変わらない弱さらしい。 そのため外に出る時には保護するために服を着たり、防具をつけたりする必要があるらしい。
集落内では基本裸なのは、まず第一にラミアは女性体のみの種族であること。
第二に変温動物であるため、寝る時などは裸で体を寄せ合った方が快適だかららしい。
人間の僕から見れば、寝ている時以外もというのはズボラではないかと思うのだが、それも異種族文化だ。
問題は、触れるというかくっ付くというのが当たり前のことなのか、恒温動物である人間に触れているのが気持ちいいからか、やたらベタベタと裸の僕に擦り寄ってくることだ。
朝と夜の二回と言ったのに、今反応してしまうのはマズイ。
昨日は尻尾を見たら、とてもそんな風に反応出来ないでいたのに、一度それを超えて気持ち良いと感じてしまったら、そんなことは関係なく反応してしまうのが自分でもびっくりだ。
それにしても自分だけでなく、ラミアたちも当然のごとく裸であることがヤバイ。
この部屋にいるラミアたちは、大部屋で友人たちを弄んでいたラミアみたいに肉感的ではなく、スレンダーで色気という点では何段階も下なのだが、それでもその肢体は女性に免疫のない僕にとって、無視できない魅力がある。
それぞれに個性があって、ラミアだけど今の僕には誰もが魅力的に見えるようになってしまった僕にとって、大腿部より上は完全に女の子にしか見えないのだから、裸で5人も近くに寄ってきてたら意識してしまわない訳が無い。
直視たら絶対にヤバイ気がする。
これからどうするかという話は、具体的なことはその場になってみないと想像できないらしく、続かなかった。
僕にはラミアの日常なんて全く分からないから、何も言えるはずもない。
僕は気を逸らすために、おしゃべりを仕掛けた。
「この部屋って、小さな窓がそっちの上の方にあるだけなのに明るいよね。 地下なのに凄いね」
少し余裕が出てきたのか、僕はそんなことが気になっていた。
「ああ、窓は地表まで続いているし、そのトンネルの中は白く塗られているから、結構明るいんだ。 部屋の中も白く塗られているからな」
「窓のトンネルを掘ったり、白く塗ったりといったことをするのが、小さい子どものラミアが任される最初の仕事なのよ」
「白いのは、白い石を細かくして、ネバネバした液を出す草の茎を絞って混ぜたのを塗っている」
「地表には蓋があって雨の時は窓の所の棒で閉じることができる」
「蓋が時々風なんかで壊れるのよね」
はい、そうですか。 ここのラミアたち、僕が思っていた以上に色々なことを詳しく教えようとしてくれる。 ラミアって基本教え魔なのか?
「そ、そうだ。 僕のことをみんな『人間』って呼ぶのだけど、確かに僕は人間だけど、『アレク』という名前があるからそう呼んでくれないかな」
「人間って呼ぶんじゃダメなの」
「他の人というか、僕の仲間たちも人間だから、人間と呼ばれるとあまり自分が呼ばれた気がしないんだよ」
「そうなの、変なの」
あれっ、ただ普通に僕の名前を教えただけなのだけど、どことなく話が噛み合わない気がする。
「まあ『アレク』というのも、どこにでも居るありきたりの名前なんだけどね。 それでも僕の名前さ」
「ふーん、人間て変なところに拘るのね」
「それでね、僕のことを『アレク』と呼んで欲しいのと同様に、君たちのことも一人一人別の名前で呼びたいんだ。 ちょっと呼びかけようと思う時や、誰に何をしてもらったか覚えておこうと思った時とか、なんか困って落ち着かない」
「なんで? 呼び掛ける人の方を見たり、その人を覚えているから良いでしょ」
何か自分たちの名前を秘密にしているのだろうか?
「君たちにしてみれば、そうなのかも知れないけど、人間は一人一人を名前で覚えるのが普通だろ」
「そうなの?」
ラミアたちはよく分からない、腑に落ちないという顔をしている。
「私たちが一人一人が、個々に別々の名前を持つということは、あなたにとっては重要なことなの?
今の私たちが、あなたのことを周りに秘密にしていることに何かプラスになることなの?」
名前を持つこと? 何だか変な言い回しだな。
「僕にとっては重要だし、秘密を守るために絶対にプラスになると思う」
えーと、彼女たちの思考が僕には理解出来ていないのだけど、勢いでそう答えてみた。
「それじゃあ一人一人に名前があっても構わないけど、私たち名前なんて分からないわよ」
名前が分からないって、どういうこと。 僕には全く理解出来ない話で、頭の中が混乱した。
「えっ、名前が分からないって、どういうこと?
みんな他の人に呼ばれることあるよね?」
「うん、私はナーリアのリーダーと呼ばれる」 と、金髪さん。
「私は、ナーリアの青髪」 と、青髪さん。
「私は、ナーリアのピンク。 ナーリアの小さいの、と言われることもある」 と、ピンク髪さん。
「私は、ナーリアの黒いの、と呼ばれたり、すばしっこいのと呼ばれたりもある」 と、黒髪さん。
「そして私は、ナーリアの短髪だな。 それから私はナーリアの力自慢とも呼ばれることもあるぞ」
「ナーリアの筋肉バカもあるよね」
最後に短髪さんが自慢げに自分のことを言ったが、黒髪さんが混ぜっ返した。 短髪さんが怒る素振りを見せたけど、笑っているから、普段からの単なる冗談口の応酬なのだろう。
「みんな、ナーリアの、なの?」
「そ、私たちはナーリアという5人のグループだから。
私たちは5人だけど、上位のグループは10人で、そっちだと第何位という言い方もある。 例えばラーリア様たちだったら、ラーリア様の第5位とか、第7位とかという感じ。
でも、そもそもみんなラーリア様で済ますことが多い。 個々に区別する必要があることが、私たち下の者にはほとんどないから。
上位の人たちはグループの中で順番が決まっているから、そういう言い方が必要だとされるけど、下位の私たちのようなグループだと、一応リーダーは決まっているけど、順番が決まっている訳じゃないから、第何位という言い方はされなくて、身体の特徴だとかで呼ばれる。
あとそれから、ナーリアというのは私たちのグループの名だけど、私たちが揃っているところで上位の人なんかに呼ばれたら、リーダーが答えることになっている。 これは私たちのグループだけじゃなくて、何処でもそう。 上位だと、第1位の人が答える」
青髪さんが、懇切丁寧に解説してくれた。
「ということは、君たちはみんなナーリアということになるんだ。
困っちゃったな」
僕は自分の常識とはかけ離れた話に戸惑ってしまった。 個々の名前の区別がはっきりしないなんて思いもしなかった。
「それなら、お前が勝手につけてくれたら良い。 それで応える」
僕の困った顔を見て、短髪さんがそう提案してくれた。
「え、それで良いの?」
「私たち、名前になんて興味ないもの」
ピンク髪さんが、何だかめんどくさそうに、消極的に(?)その提案に賛成してくれて、他のみんなも、それで良いようだ。
5人のラミアの名前を考えないといけないことになりました。
「えーと、君たち全体でというか、このグループはナーリアっていうんだよね」
「うん、そう、私たちは5人でナーリア」
「そうかそれじゃ、リーダーさんはそのまま『ナーリア』が良いかな。 別の名前にして、他の人が呼び掛けてきた時に、反応がおかしくなるといけないから」
「わかったわ。 私は『ナーリア』ね。」
次にどちらかというと今まで、リーダーのナーリアよりも場を仕切っていることが多い感じだった短髪さんに、
「君は『サーブ』でいいかな」
「『サーブ』だな」
2番目に実験を兼ねて精を受けて、さっき解説してくれた青髪さんに、
「君は『セカン』」
「わかった」
僕のことを秘密でなくして、今まで通りに過ごそうと、それまでの流れと全く違う意見を言ったピンク髪さんに、
「君は『ディフィー』が良いかな」
「私は『ディフィー』ね」
言葉を発することが一番少ないけど、ぼそっと変なことを言う黒髪さんは、
「最後の君は『レンス』でどうかな」
「ん」とコクッとうなづいただけだけどOKなんだろう。
やっとこれで、それぞれ別々に名前に関連して分けて考えられる。
今まで名前が分からないと、細かいことは記憶がごちゃごちゃになって、それぞれのどのラミアかはっきり覚えていられなかったんだよね。
人間て、そうだよね。
その日は部屋から出るのは注目を集めるかも知れないことが嫌なのか、僕をこっそりトイレに連れて行ってくれただけで、部屋の中で過ごした。
食事も取ってきてくれたのだが、心持ち僕が食べれる物を多く持ってきてくれた様な気がする。
気を使わなくても、5人が残す彼女たちからしてみたらカスの部分で十分な量があるのだけどね。
日が少し翳ってきた頃、サーブが聞いてきた。
「今日はもう2度出しているから、夜は無しか?」
「時間が経ったから大丈夫だと思う」
「そうか、それは嬉しいな」
暗くなってきたら「明日のために早めに寝ることにしよう」となったのはそのせいか。
興奮してしまうのを我慢していた僕にとっては助かったという気分だ。
僕はラミアにとってのエネルギー源を、ただ放出させられるだけという行為は何となく嫌なので、
「僕の方からも君たちを触ったりしても良い?」と確認を取ってから、ラミアたちの肌に触れたりもした。
ラミアたちはその行為を嫌がるどころか、喜んでいる。
「触るのも良いけど、人間に触られるのも気持ちいいね。」
今回僕からのエネルギーを受けるのはレンスだった。
僕はてっきり次は仕切っていたサーブなのかと思っていたので、ちょっと意外だった。
意外でももちろん我慢なんてできない。
僕はすぐにエネルギーを放出してしまった。
やっぱりだ、口移しの水を用いなければ、物凄く気持ちがいい。
それを確信して、何だか大満足な気持ちを味わっていたら、睡魔に襲われてしまった。
やはり尻尾までピクピクさせたレンスが
「ん、満足」と言ったのを、意識が遠のく寸前に聞いた。
僕は何だか可笑しくて、ニヤっとした気がする。




