104. ゴブの動向
「まあ、こういった状況だったから、ミーリアが『氷の』と言われる原因になった、全てのゴブの首を切り落とせ、という命令も妥当なものだったと言えるな」
「その点は完全に同意しますわ。
怖かったのは本当ですけど」
ラーリド様がラーリア様の言葉に賛成しつつ、笑顔で少し場を和ませた。
ミーリア様は渋い顔をしているけど。
「他に今回の戦いで気づいたことはないか?」
「今回のゴブは装備が整っていた。
後から気がついたが、矢が刺さっても大した傷を負わせていないことが多々あったようだ」
「それは私も気がついた。
戦いの序盤のラーリアとナーリアたちの矢はしっかりと傷を与えていたため、全ての矢がそういう風にゴブたちに傷を与えていると誤認してしまった。
それがゴブの死んだ真似を全く見破れなかった原因の一つだ」
ラーリク様に、ラーリナ様も続いた。
「矢はどちらも新たに作った物がほとんどだったから、弓の性能の違いだろうが、それに加えて、ゴブの装備が充実していたからだと思う」
ラリベ様も加わった。
「それを考えるとアーリアが弓を捨てて突撃したのも、強ち間違いとは言い切れないのではないか」
ラリファ様がちょっとさっきまでの話を蒸し返した。
「それは違う。
武器を選ぶのと、命令されて託された使命を放棄するのは別問題だ」
ラリト様が厳しく反論した。
「ま、確かにその通りだな」
ラリファ様はあっさり引っ込んだ。
「それよりも問題は弓の性能と、ゴブの装備だと思います」
ミーリド様が躊躇いがちだが断固とした言葉で議論の方向を正そうとした。
「そうだな、ミーリドの言う通りだ」
ラーリア様がその言葉を汲んだ。
「今回2番太鼓を鳴らすまでに、本陣からの矢で凡そ100近くのゴブが矢で倒れていました。
それは当初の見込みよりかなり多く、今回の大勝の大きな一因となったのですが、戦場の移動なども考えると、この時までに倒れたゴブは確かに討ち取ったモノと考えて良いかと思います。
問題はその後、矢で討ち取ったと思ったゴブの中に、浅手のモノが沢山の混じっていたと言うことでしょう。
弓の性能の違いと、ゴブの装備に因るのは間違いないと思います」
ミーリア様が続けた。
「ほう、2番太鼓までに、そんなに討ち取っていたのか。
我らは一番低い位置に居たから、状況がどうだったのかは、太鼓の音でしかわからなかったから」
ラリファ様がそう残念がった。
「ナーリアたちの奮戦は凄まじかったぞ。
遠い敵を射るばかりでなく、少し近づいた敵は狙い射ちにして、それを掻い潜ってきても、目にも止まらぬ速射を浴びせて倒しておった。
私とラーリルも射ってはいたが、あまり役に立ててなかったな。
つくづくナーリアたちの使っている弓が欲しいと思ったよ」
ラリオ様がラリファ様にそう語ると、ラーリル様とミーリア様たちが頷いていた。
僕たちは急に話題の中心になり、ちょっと面映い。
「今後のことを考えると、少なくとも上位にはこの弓を揃えたいな」
ラーリア様がそう言うと、ラーリア、ミーリアの総てが激しく同意した。
えっ、これって、僕たちに弓を作れという流れ。
「弓などの武具の作製に関しては、後の課題にしましょう。
ナーリアたちにそれを請け負わせても、数からいって難しいですし、他の者が作れないでは、手入れにも困ります」
ミーリア様が助け舟を出してくれた。
こういう所、やっぱりミーリア様は現実的だし、頼りになるよなぁ。
「武具に関しては弓だけの問題ではありません。
今回の戦いで、武具の傷みが激しく、対策を講じる必要があります」
「そうだな。 あれだけ暴れれば当然だのだが、傷みが激しくて、もう研げば良いというレベルを越えてしまっているな」
ラーリル様がため息をつくと、
「私も」とラーリア様たちが次々と声を上げる。
ラーリア様がちらっとイクス様の方を見た。
「言っておくけど、宝物庫の在庫の中に、あなたたちが使うのに都合の良い様な物は無いわよ。
使い潰している自覚もあるでしょ」
イクス様の言葉にラーリア様たちがシュンとなった。
そうか、ラミアは火を基本的には使わなかったから、当然だが鍛治職人はいない訳で、何かの折に手に入れた武器を使い回すしかなかったのだ。
「だけど手がない訳じゃないと思うの。
今回の戦いでも、そのままでは使えないけど、材料ならたくさん集めた訳でしょ。
という訳で、アレクくん、鍛治はできないのかな?」
急に指名されて、ちょっと焦った。
「僕ですか。 それは無理です。
ナイフや鎌くらいなら僕でも作れますけど、剣や槍となるととても無理です」
「そうなの。 できるかと思ったんだけど。
アレクくんて、何でもできそうだから」
「そんな、とんでもないです。
僕が出来るのは、狩人として1人で生きるためのギリギリのことくらいです」
「でも、それじゃあ、人間ちゃんたちの中に誰かいない?
ほら、アレクくんは石臼は作れなかったけど、ダイクくんは簡単に作っちゃったじゃない。
あんな感じで、誰か出来る人間ちゃんいないかな?」
「すみません、今、分からないので、後で奴らに鍛治できる奴いないか聞いてみます」
「うん、お願いね。 そうすれば、懸案が一つ解決するのだから」
「いえ、そう簡単にはいかないと思います。
鍛治をするには、その前に炭を焼かなきゃダメですし、炉も作らないと。
1人で出来る訳じゃないし、人手も入ります」
「そういうのは、どうにかなると思うのよね。
炭も炉もアレクくん、作り方わかっているでしょ。
人手はどうにかなると思うのよね」
「それはともかくとして、それだけのことをするとなると、とても火の使用を隠して行うというレベルでは済まなくなっちゃうと思うのですけど」
「その辺は仕方ないな。
このままでいて、次のゴブの侵攻で滅びる訳にもいかないからな」
ラーリア様、今、さらっと怖いこと言ったよね。
「鍛治に関しては、アレクに人間でできる者がいないかをまず確かめてもらおう。
それによってまた考えることにしよう」
ラーリア様は、より一層深刻そうな雰囲気で違う議題に移っていった。
「さて、今回のゴブの侵攻をどの様なモノと捉えたら良いかの意見を聞こう。
せっかくこの場にいるんだ、戦いの作戦を考えたディフィーとセカン、お前たちの意見をまず聞いてみよう」
急に名指しされて、ディフィーもセカンも慌てていたが、2人とも意見は持っていた様だ。
「今回の戦いはまだ前哨戦に過ぎず、ゴブの侵攻はこれからもっと本格化するのではないかと私は思います」
まずセカンがそう言った。
「今回のゴブの総数に対して、当初から戦闘に参加した戦闘装備をしたゴブの割合が異様に高いことからも、今回の集団がゴブの本体というか母体という訳ではなく、先遣隊または支隊といったものではないかと思います」
ディフィーも続けた。
空気の重さがまた一段と増した。
ラーリア様が視線でミーリア様に次を促した。
「ラーリア様たちも同様にお考えでしょうが、私も今の2人と同意見です。
つまりゴブの本体はまだ健在で、数もずっと多いということです」
ミーリア様が2人の意見に当然という感じで同意した。
「今回のゴブが先遣隊だか支隊だか分からんが、それでさえ人数は我々の集落の総数を上回っていた。
これが数倍規模で来たとしたら、どう考えても今のところ対処のしようがないな。
まさにゴブの得意な圧倒的数の暴力というやつだ」
ラーリア様がそう呟くと、その声に応えられる者は誰もいなかった。
ラーリア様も誰かから返答があるとは思っていなかったのだろう、自分で言葉を続けられた。
「とはいえ、ゴブの本体の規模もその位置も目指している方向も何も分からない。
少なくとも我々の索敵範囲外であることは確かな訳で、まだ脅威が差し迫っている訳ではない。
冷静に今可能な対処を一つ一つ積み重ねていくしかない訳だ」
ここでラーリア様は一度言葉を切り、改めて提案をした。
「そこで、今季節は秋になったところであるが、一つ提案がある。
今はここに居るアレクも含めて人間が10名以上いる。
人間は我々ラミアの様に冬ごもりをする訳ではない。
そこでラーリアとナーリアはこの冬は集落の奥で冬ごもりすることを止めて、人間と共に活動することにしたい」
あ、なるほど、そういうこと。
この話題が出るから僕たちナーリアもこの場に参加させられていたのね。
納得しました。




