第1章 宇宙加速膨張の再解釈と本研究の立場
現代宇宙論において、宇宙の加速膨張は観測的に確立された事実である。超新星観測、宇宙背景放射、および大規模構造の解析により、宇宙の膨張速度は時間とともに増加していることが示されている。
この現象を説明するため、標準宇宙論(ΛCDMモデル)では、ダークエネルギーと呼ばれる未知の成分が導入されている。ダークエネルギーは負の圧力を持つとされ、その代表的なモデルは宇宙定数 Λ によって与えられる。この場合、エネルギー密度 ρ と圧力 p の関係は
p ≈ -ρ
と近似され、これにより Friedmann 方程式において加速膨張が実現される。
しかしながら、この説明には本質的な問題が残されている。第一に、ダークエネルギーの物理的実体は未だに不明である。第二に、そのエネルギー密度の大きさは量子場理論の予測と著しく乖離している。第三に、なぜ現在の宇宙でその効果が支配的となっているのかという、いわゆるコインシデンス問題が存在する。
これらの問題は、ダークエネルギーを「宇宙内部に存在する新たな物質成分」として仮定する枠組みそのものに起因している可能性がある。
本研究では、この前提を見直し、宇宙の加速膨張を内部エネルギーではなく境界条件に基づいて説明する新しい視点を提案する。
具体的には、宇宙を無限に広がる空間ではなく、時間依存する有限領域として捉える。その境界には物理的実体を持つ膜(宇宙膜)が存在し、この膜の運動が内部観測者にとっての宇宙膨張として観測されると仮定する。
さらに、本モデルでは宇宙の外側に観測不能な外部セクターを導入し、この外部構造において斥力的相互作用が存在すると仮定する。この相互作用は直接観測されるものではないが、境界膜に対して有効な力として作用し、その結果として膜の半径が時間とともに増大する。
重要なのは、この斥力が宇宙内部の物質やエネルギーに起因するものではなく、境界を介した外部との相互作用として現れる点である。したがって、本モデルにおける加速膨張は、内部流体の負圧ではなく、境界条件の力学によって生じる現象として理解される。
この視点に立つと、観測される加速膨張はダークエネルギーという新たな実体を導入することなく説明され得る。また、見かけ上の負圧やエネルギー密度の異常な振る舞いは、境界ポテンシャルを内部から再記述した結果として自然に現れる。
本論文の目的は、この境界駆動型宇宙モデルを力学的に定式化し、その基本的性質を明らかにすることである。特に、宇宙膜の運動方程式を導出し、どのような条件のもとで加速膨張が実現されるかを示す。
第2章では、宇宙膜を単一自由度として扱う最小モデルを構築し、外部セクターに由来する斥力ポテンシャルを導入することで、加速膨張が自然に導出されることを示す。




