第092話:テスト勉強が始められない
近藤昭彦:前世の須藤の親友であり木下清美の幼馴染。今世では清美の婚約者でもある。
一条雛乃:2年D組 男爵家の一人娘にして長女 【火魔術】
町田紬:雛乃の侍女、南雲家配下の伯爵家から派遣された。
冬川真帆 :探索者センター センター長
「つまり、前世で死んでいた人はロストしないと前世は思い出さないと」(近藤)
「私達と近藤さんしかいないわけだから推測だけどね」(白雪)
「いや、可能性は高い気がする。噂話だが『ロストすると前世の自分を思い出す』ってのを聞いたことは?」(近藤)
「そういえば、噂話が好きなクラスメートがそんなこと言ってたね」(長谷川)
「あー、聞いたことあるかも」(皆川)
「実際俺達も記憶があるから気になってはいたけどな」(黒田)
「ノリが前世占いとかそんなノリだったからなぁ」(加藤)
「チーターだった前世の話とか言われたら『あぁ、そっちのオカ板話のダンジョン版か』ってなったっす」(陽子)
「なるほどな、確かに前世でも占いとかの話は女性が好きだったからな」(近藤)
「なまじ前世がある分どっちのノリなのか混乱してしまいますよね」(加藤)
「確かに」(近藤)
「実際のところね、私はこっちの世界にも竜造寺がいると思っているんだよね、ここまで関係者がいて彼女がいないとは思えない」(白雪)
「もっと言ってしまえば、このDRDだって彼女が関わっていると思ってしまうんだよね」(白雪)
「いや、さすがにそれは考えすぎじゃないか、DRD自体俺が話をセニーに持っていかなければ製作されなかった可能性だってあるだろ」(加藤)
DRDは加藤がニュージェネレーションの営業でFDSの話をセニーに持って行ったところから始まった。当然竜造寺が没後の話だ、転生している可能性はあるだろうが関わっている可能性は無いはずだ。
「DRDというのは?」(近藤)
「ええと自衛隊の事故があった後、FDSの研究は一旦中止になったんですが、その竜造寺さんのお父さんがFDSの研究チームを引き抜いて新たな会社を立ち上げました」(加藤)
「そこで新しいアーキテクチャの元安全なFDSが開発されました」(加藤)
「なんとも言えないな……たかが親子喧嘩のとばっちりで殺されたのかという思いと我々の実験は無駄にならなかったのかという思いと」
「DRDというのはその安全なFDSで開発されたゲームです」(加藤)
「それが竜造寺と関係しているというのは?」(近藤)
「ここが現実として存在しているからだね」(白雪)
「ダンジョン学園のことしか描かれてませんが、主要登場人物が容姿、性格までもがゲームとほぼ同じであること、舞台設定もゲームと同じであること。出現するモンスターもまったく同じなんです」(加藤)
「……」(加藤)
「良く出来過ぎていると思わないかい? 元々中世として開発されたゲームが近代日本がモデルに置き換わった。こちらも近代日本だ」(白雪)
「近代なのに貴族がいるというゲームの設定もそのままで、何故そうなったかの理由もしっかりある」(白雪)
「ゲーム世界なんだからとそんなもん適当に造ってもいいはずだろう? 私達がこちらの世界にいる時点でダンジョンに挑むしかないんだし」(白雪)
「それに宝玉パリィンとかはた迷惑な転生者特典つけた存在がいる。出木杉君すぎると思わないかい?」(白雪)
「じゃぁこっちの世界を造ったのが竜造寺だと?」(近藤)
「逆だと私は思う、どっちが楽かといわれればゲームをこちらの世界に合わせた方が楽だろうからね」(白雪)
「でもそうなると、こちらの世界が今後どうなるかを知っている未来人がゲームを作ったことになるっすよ」(陽子)
「理由がわからないな、それが本当だったとしてそんなことをして何の意味があるのかわからない」(近藤)
「元々こちらの世界に連れてくるつもりだったら? 前世の世界自体がシミュレーションだったとしたら? もっと言って見るとFDS自体がオーパーツな気もするんだよね……」(白雪)
「可能性はあるかもしれないけれど、小町さんとかはどうなるの? 彼女はDRDどころかFDSとも関係ないはずよ」(千鶴)
「それを言うと長谷やんもあまり繋がりは深くないよね?」(皆川)
「僕はDRD未プレイだけど、FDSそのものというと仕事でFDSを使っていたからなぁ」(長谷川)
「美々さんや楓さんの方がなんでDRDやっていたのも謎だな、彼女達の性格上ゲームをそもそもやるか?」(黒田)
「むぅ」(加藤)
「とりあえず、竜造寺ってのがラスボス候補かにゃ?」(ミーナ)
「私としてはそう思っている」(白雪)
「とはいえ、俺達にそれ程の恨みがあるかと言われると難しいとこだな」(加藤)
「動機も見えないな」(近藤)
「いや、無理やり危険な世界に放り込まれた恨みがあるじゃん」(黒田)
「……なるほど、言われてみればそうか」(加藤)
「転移者が多すぎなうえに日本だからあんまり困ってないのが困りごとっすかね」(陽子)
「う~ん」(千鶴)
「にゃ~」(ミーナ)
「よくある展開100層でボスモンスターの代わりに出てきて真相を話そうとか言い出す奴だね」(皆川)
「うわ~~ありそう」(長谷川)
「うへ、そういうの苦手」(黒田)
「絶対話聞いてもバーリンがデュオルフでパージとか宇宙猫になりそうです」(陽子)
「ソウル系でなく量子力学とか、ダークマターとかSF系かもよ」(長谷川)
「あ~そっちっすか~」(陽子)
「だめだな、これはどんなに考えても結論は出ない話だろう」(近藤)
「そうですね、最後に答え合わせしてくれないとわからないですね」(加藤)
「そうだ晃、清美もいずれ自衛隊に来ることになる」(近藤)
「そうなんですか!?」(須藤)
「清美って誰っすか?」(陽子)
「須藤君の婚約者だった人。生徒会長の御付きの人の一人」(白雪)
「オー! フィアンセ!」(メリッサ)
「婚約者の方がいたんですね」(千鶴)
「私の被害者でもあります」(白雪)
「ジーザス」(メリッサ)
「そしてこちらの世界では俺の婚約者だ……」(近藤)
「え……」(須藤)
須藤としてはかなり複雑な心境だ、清美のことは確かに嬉しいのだがこちらの清美は前世の記憶はない。
さらに、近藤の婚約者という言葉に返す言葉が思い浮かばなかった。
「頼む! 晃、ガチで清美を口説いてくれ」(近藤)
「はい?」(須藤)
「このままだと俺が清美と結婚することになるんだぞ!」(近藤)
「どういうことっすか?」(陽子)
「清美さんはガチの筋肉愛好家です、かなりガチで僧帽筋は受けか攻めかで論争できるタイプです」(白雪)
「あ~そっちっすか」(陽子)
「近藤さんと清美さんの関係は?」(千鶴)
「幼馴染。私が清美さんを取り込んでも筋肉大好きにならないくらい毛嫌いしている」(白雪)
「この貴族社会で切れるんでしょうか?」(千鶴)
「いや、今後須藤君達の舞台は日本に移るわけだから」(白雪)
「なるほど。ではなんで婚約という話に? あぁ、名家であればそういう風習が残っていても不思議では無いですね」(千鶴)
「あ~許嫁とかそういうやつっすね」(陽子)
その裏で須藤が非常に苦手とするミッションを近藤から頼まれているのだった。
「とりあえず、これでひと段落かな」(加藤)
「やっとテスト勉強に集中できるな」(黒田)
「そうはイカの金玉だ!」(白雪)
「まだ何かあるのか!?」(加藤)
「あるんだな、これが浩平と黒田君は確定で……あとは千鶴ちゃんに来てもらった方がいいね、他に希望者いる~」(白雪)
「俺? なんで?」(黒田)
「副リーダーだろう?」(白雪)
「どこになにしに行くっすか?」(陽子)
「言ったじゃないか、発見したものは全公開でいくと。ダンジョンセンターだよ」(白雪)
…………………………
「こんにちは東京大ダンジョン・ダンジョンセンター、センター長をしている冬月真帆です」(真帆)
「え、えっとダンジョン学園2年D組一条雛乃です。よ、よろしくお願いします」
紬は雛乃がお辞儀すると、黙って頭を下げる。
「同じくダンジョン学園の1年F組花籠白雪ちゃんだ!」
「同じく加藤浩平です」
「黒田竜司です」
「三段崎千鶴です」
「まず確認ですが、スキルをコピーする方法がわかった。いえ、確立したので特許ととして登録したいということでいいでしょうか?」
「は、はい。ですよね白雪さん」(雛乃)
「緊張しないでがんばれ~」(白雪)
「はい、間違いないです」(加藤)
ちなみに白雪はまたいつものガスマスクだ。
「……とりあえず、連絡を受けてからこの場を設けるまで時間が掛ってしまったことをお詫びするわ」(真帆)
「ではお詫びは体で」(白雪)
無言で加藤が白雪の頭をはたく。
「……基本的に特許は公爵家くらいからしか挙がらないから、どうしても対応が遅れてしまったの」(真帆)
「ではお詫びは体で」(白雪)
無言で加藤が白雪の頭をはたく。
「本当にうちの白雪が申し訳ありません」(加藤)
「……とりあえず、申請は一条様、連名でF組の方でいいのでしょうか?」(真帆)
「は、はい」(雛乃)
「やだねぇうちのだなんて、意味深じゃぁないか」(白雪)
無言で加藤が白雪の頭をはたく。
「これはDVだねセンター長通報をしてくれたまえ」(白雪)
「……私は日本の人間なので日華の問題には加われません」(真帆)
「すみません、無視して話進めてください。連盟は一条様と私のチームの人達で間違いありません」(加藤)
「かしこまりました」(真帆)
とりあえず茜の言った通り、厄介な人間であることは判った。何というか話が読めない人間というのが花籠白雪に対する率直な感想だった。
日華は日本の属国であるため特許についても日本に依存する。とはいえ基本的に日華で特許申請があること自体が無い。
そもそも法律のない日華に特許など意味があるのかと問われれば、まず意味は無い。だが、日華で使われる武器防具を製造しているのは日本だ、だから特許については意味がある。
だが日華で生産されると今度は特許に問えなくなる。とはいえ日華での生産をしている場所などほぼ無い。せいぜいSKハンズが少量生産しているくらいだろう。
ややこしい話になるが貴族達は日本人でありながらダンジョン討伐のために日華に来ており、スムーズに統治をおこなうために日華の国籍を得ているという形をもっている。
そのため一応日本の法律も関係してくる。だが、関係してくるのは子爵以上だ。本来なら男爵である雛乃やF組の加藤達にはまったく関係ない話だ。
だが、今回その人達からスキルコピー等という世界を揺るがす技術が出てきてしまった。実用性云々ではなく、人間からダンジョンへのアプローチが出来ることの証明をしてしまった。
「というわけで、今回の特許部分としては、この方法を使えば後は魔法陣の解析さえできれば自分で作製したスキルスクロールをスキルとして登録できる可能性を示している。まぁ人類にとって重大な一歩だね」(白雪)
「え”っ」(雛乃)
「あっ」(加藤)
「あ~~」(黒田)
「あの、気付いてなかったのですか?」(真帆)
「なんで今言った!?」(加藤)
「サプライズ、面白いでしょ」(白雪)
「面白くない!!」(加藤)
「まーそういうわけだから、私は特許として登録はするけどフリーライセンスとして登録、公開したいんだよ」(白雪)
「こんなもんで金とったら、お金以上に命が危ないからね。かといって取らなかったらどこぞの貴族が独占しちゃうからね。私達が今後やりにくくなる」(白雪)
「やりにくくなるって、しれっととんでもない発言してませんか!?」(真帆)
「あ、じゃぁ聞かなかったことにしといて」(白雪)
「まぁまぁ、大変なのは雛乃ちゃんだから。雛乃ちゃんが南雲さんに渡したいですと言えば、私達は何もできなくなるね、もっとも私達は雛乃ちゃんを敵認定するけど。さぁ、友情を取るか家を取るか! 選びたまえ!」(白雪)
「ここでそういうことやらないで欲しいのですが」(真帆)
「やだなぁ、相手に不利なところで戦いを挑むのは戦争の基本じゃないか。それに後回しには絶対できないでしょ」(白雪)
「……」(真帆)
基本的に特許として申請するのは日本に会社を持つ上位貴族以外無いため、特許は日本で申請される。だが、加藤達も雛乃も日華から出るわけにはいかない。
そして日華には当然特許庁など存在しない。前例のないことには日本はとことん対応が下手なのだ。そのため今回はダンジョンセンターが一旦申請を受け取って、代理としてセンターが申請する形を取った。
とうぜん白雪はそれをみこして半ばだましうちのような形で、雛乃に通達している。「明日スキルコピーの特許申請しといたからよろしくね~」と。
「おい、今回はマジで洒落にならんぞ」(加藤)
「だましたようですまないが、こちらも由美沙耶ちゃんの命が掛かってるし、時間がないんだよ。このまま雛乃ちゃんが南雲さんに知らせると、彼女が望まなくても南雲さんは確実に特許申請しちゃって独占する確率が高いからね」(雛乃)
「だが日華だろ、こっちも好き勝手できるんじゃないか?」(黒田)
「前に言った通り、こちらが好き勝手すると華族もそういう手段で対抗してくるんですよ。何しろ向こうは兵隊抱えていますからね」(千鶴)
「あ~……1財閥と全面対決はやばいな……」(黒田)
「逆にうちらも南雲の下につくというのは?」(加藤)
「研究は続けられるだろうけど自由はなくなるだろうね」(白雪)
「まぁそうなるか……」(加藤)
「というわけでどうだい? 共同開発だったので相手を立てた、今後も役立ちそうだったからとしてくれないかい?」(白雪)
「……わかりました」(雛乃)
「いいのですか?」(真帆)
「はい、いまだに少し混乱していますが、今回のも連名になってますがあきらかに白雪さんの功績の方が大きいですし、フリーの方が最終的に南雲さんの方にもプラスになると思うんです」(雛乃)
「ありがと~」(白雪)
「助かる」(加藤)
「承りました。フリーライセンスとして特許申請させて頂きますね」(真帆)
「はい、お願いします」(雛乃)
「お願いします」(加藤)
「日本としても助かります。下手に独占とかライセンス料が必要などとなると、世界中からのパッシングに大変なことになると予測できたので」(真帆)




