1-13-3A-5 星への道)賞味期限
昨日は防寒着や着替えを揃えたり、体を拭いていたりしていたら、思った以上に時間が経っていた。駅に戻った時には、薄暗くなりかけていて、食料探しをしている暇はなかった。
なので、昨日のご飯は、乾パン、お水、チョコレート。言っておきますけれど、ちゃんと歯磨きはしてますから。
でも防寒着って偉大。寒さに震えた一昨日が嘘の様に思える程に暖かい夜でした。でも服でモコモコ状態で寝たので、寝た気はしないけど。
「頭、洗いたい……」
歯磨きをしている時に、体は昨日、下着を替える前に濡れタオルで拭いたので完璧ではないけれど綺麗だけど、頭をは今日で3日も洗ってない。
そう思ってしまった途端、頭を洗いたくて居ても立っても居られなくなった。
さて頭を洗うにしても、どこで?事務所の中の流しで洗うのは良いけど、もっと良い場所はないのかと考えを巡らすと、昨日駅に帰って来るときに、駅の近くにホテルを見つけた事を思い出した。
入れるかどうか分からないけれど、入れたらホテルにはシャワーがある筈。事務所の流しで頭を洗うより、もっと楽に洗える。
でも、なんで今日になってから思い出すかなぁ……。昨日の内に思い出していれば、あんなにビクビクしながら試着室の中で体を拭かなくて済んだものを。
後悔、先に立たず。やってしまったことはどうしようもない。先ずはホテルの部屋に入れることを祈ろう。
自動ドアが開かなくて、手でこじ開けた時に想像はしてた。電気が点いていないホテルのロビーは、ドアや、大窓越しに光が入り込でいるお陰で途中までは明るけれど、途中からは薄暗い。要するに駅と同じ様に電気は来ていないと言う事。
そうなれば、エレベータは当然の様に動かない。宿泊フロアに上るには電気の点かない真っ暗な内階段をえっちらおっちら上るしかない。
私以外の誰も居ない静まり返った薄暗いロビーから、真っ暗な口を開けている階段フロアの入口に足を踏み入れる。
怖くないと言えば、嘘になる。正直、もの凄く怖い。何も居る訳が無いと思っても、念のために懐中電灯で上下左右を照らして確認。
微かな音も聞き漏らさない様に耳をそばだて、何の音も無い事を確認してから階段フロアに踏み込み、階段を上り始める。
自分自身の荒い息の音だけしか聞こえない。暗闇の階段を懐中電灯の灯りだけを頼りに上りながら、頭の中で葛藤が飛び交う。
もう引き返そう、頭なら駅の事務所の流しで洗える。でもお風呂で洗った方が気持ち良いに違いない。
ああ、でも何か出てきたらどうしよう?いやいや、何も出てくる訳ない、変な音もも聞こえないし!そんな事を考えているうちに宿泊フロアに到着した。
やっと階段から出て宿泊フロアの廊下に出れると思って、廊下を覗えば、目の前には懐中電灯で照らされた部分だけが明るい廊下が広がっている。
そりゃそうだよ。窓の無い廊下に外の光は入って来る訳が無いよ。当然、電灯が点いていない廊下が暗いの当たり前じゃん。
これで部屋に入れなかったら、単なる怖かっただけの草臥れ儲け。そう心配していたけれど、部屋に鍵は掛かっていなくて、何事も無くすんなりと部屋に入れた。
他の場所と同じ様に部屋の電気は点かない。まぁこれは想像していた通りなので、驚きはしない。でも真っ暗という訳じゃない。窓から入って来る光でそれなりに明るい。真っ暗な階段や廊下に比べれば天国。
お湯はやっぱりここでも出ないけど、お水が出るだけでも御の字と思わないと。
頭を洗う前に先ずは準備が大事。頭を洗っている時にいきなりシャワーが止まっても、取り敢えずは凌ぐ為に数本の濡れタオルを用意し、扉の鍵を掛けたことを確認し、服を脱ぎ、さてシャワーだ。
さて相手はお水、気合を入れて頭を濡らそうとした瞬間、どうせ裸なのだから体も洗えるじゃないと気づいた。
体まで洗うとなると、お水の消費量が多くなる。だから、ちゃんとお水を節約する手順を考えてシャワーを使わないと。
シャワーで体を頭と体を濡らしたら、先ずは体を洗う。そして次は頭を洗い、顔を洗い。シャワーで一気に、頭も顔も体も流す手順で行う事にした。これで最速かつ水の消費量も最小で済む筈。
「紗樹、遭難したら雨に濡れない様に気を付けろ。雨で濡れると簡単に体温を奪われて、下手をしたら凍死するからな」
下手な考え休むに至り。結論を言えば、手順云々以前に、私はシャワーを超高速で済ませた。
濡れた体を超高速で体をタオルで拭きながら、なぜ雨に濡れてはいけないのか、お爺ちゃんが私に警告していた意味を身を以って理解した。
予想はしていたけれど、お水のシャワーの冷たさはそれ以上。頭と体を濡らした時の一撃に、思わず悲鳴を上げてお風呂場で変な踊りを舞ってしまった。
体が乾き、温もりを取り戻す途中に、キャンプ用品のお店からポンチョを持って帰ってくるのを忘れたのを思い出した。
雨にいつ降られるか分からない。ポンチョが無いと今のシャワーと同じ二の舞になる。シャワーなら体を拭けば済む。外で濡れる事は、体温低下で命に係わる。
この場所の寒い夜に雨に濡れる事を想像すると、ぞっとする。早めに今日の食料探しを終えて、晴れているうちにポンチョを必ず取りにいかないと。
地上に降りようと扉を開けた時、部屋を照らす外の光が廊下に漏れ出て、廊下の一部分が少し明るくなった。
他の部屋の扉が開け放たれたままであれば、廊下は暗闇から薄暗いに変わるのではと思いつき実行してみたら、思った通りに薄暗いだけの場所に変わった。
これで、外が暗くなる前に帰ってくれば、関所はあの真っ暗な階段だけ。怖いのは怖い。けれど、さっきより少しだけ減った怖さの中、階段を降り外に出かけた。
駅近くの大型商業施設に戻り、食料探索と言えば格好良くきこえる。でも、やってることは懐中電灯を片手に押しているカートに保存のききそうなものを手当たり次第に放り込んでいるだけ。
1階には生鮮食料品は無いみたいだけど、我慢、我慢。あるだろうな?という場所は分かってる。フロア案内図に食品という表示もあるし、ここの地下1階には生鮮食料品があると思う。
行く勇気はない。止まっているエスカレータから覗いてみたけれど、真っ暗。それに、巧く言えないけれど、本能というか何と言うのかが、地下に行っちゃ駄目だと言うので行かない。絶対に何かが居る。
地下に行かなくても、1階で色々見つける事が出来た。缶スープ、クラッカー、チョコレートとかのお菓子、野菜ジュース、レトルトカレー等々。保存食料があるだけでもありがたいと思わないと。
量も大事だけれど、可能な限り栄養のバランスも考えている。最近、成長期なのだ。ちゃんと食べないと大きくなれないし。
ママ曰く、栄養が足りなかったり、偏ったりすると背も大きくならなければ、胸も大きくならないらしい。これは、死活問題だよね、うん。
手に入れた食料や飲み物の賞味期限は気にしていない。だってオカシイよ!賞味期限が2022年て何?!今は1980年だよ?!40年以上持つなんておかしいでしょっ?!
でも、この黄色の箱に2本1組が2袋入ってるカロリーバーって美味しいんだよね。美味しいは無罪。チーズ味、ドライフルーツ味、チョコ味と色々な味があるのも嬉しい。中でもドライフルーツが混じったのが一番好き。
飲み物は、缶ジュースもあったけど、紙パック入りの物もカートの中に入れた。あと!瓶の形をしたプラスチックボトルに入った物があった!何と蓋が閉められる!
凄いなぁ……。初めてみたけど、こんなプラスチックのボトルが当たり前の様にお店に並んでいる東京と東京の周りというのは進んでいるんだなぁ。
現実逃避だって分ってる。ちょうど食べていたジーンズショップで見つけたチョコレートの賞味期限が1985年。
さっき見つけた、少しだけ包装が変わったけれど、多分同じのチョコレートのは賞味期限が2022年。
どっちの賞味期限もオカシイ。チョコレートの賞味期限が、5年も42年もある訳がない。そんな長い賞味期限の訳がない。
「きっつー……」
たかが3階、されど3階。愚かな私は、食料品以外にも見つけた衛生用品やらなにやらを加え満載状態のカートを押し、時には引っ張りならがホテルに到着。
さて部屋に荷物を入れなければと思った時に、残念な事実が露わになった。電気が来ていないんだから、エレベータ使えない……。
カートに満載して持ってきた荷物を、何度も階段を往復して自分で運び上げるしかない。カートの荷物を睨みつけていても、荷物が自主的に部屋まで行ってくれる訳もないので、諦めて運ぼう……。
リュックに荷物を詰め込み、何度もロビーと部屋の間を往復していると、階段の暗闇なんてどうでも良くなってた。暗いからなんだってのよ!あと何回よ!
「う゛あ゛ー。がんばるぞー」
最後の荷物を部屋に入れ、空にしたリュックに、ベッドの上に出しておいた、元々リュックに詰めていた荷物を再びリュックに詰め、さてお出かけだと思っても、お尻が重くて持ち上がりゃしない。
もう、今日はこれで良いしと思いながらも、いつどこで雨に降られるか分からない。生存するためにはポンチョは絶対に必要。体温が低下したら助からない。
さて、疲れているけど頑張ってキャンプ用品のお店に行きましょうか。




