1-13-3A-3 星への道)おもちゃの街
「ねぇっえってばっ!意地悪しないでよっ!」
兄や、姉の様に頭は良くない私だけど、そんな私にですら、この状況は駄目だって分った。
光の柱に囲まれて驚いたけれど、我に返って逃げようと思った。けれど、更に光の柱が増えて、流石にこれはもう駄目。もう間に合わない、無理だって分った。
余りの恐怖で、反対に冷静になったのかもしれない。妙に冷めた気持ちで、人ってこんな風に簡単に死ぬんだなって思いながら、でも、最後にひと目でも家族の姿を見たいと思い、悲しませたらいけないと思い、無理矢理笑顔を作って光の柱の向こうの家族に目を向けた。
でも、見えたのは、ほんの少しの間だけ。見えたと思った途端、私を取り囲んでいた光の柱が、目を開けられなくなる程に明るくなった。
ぎりぎりまで家族を見ようと頑張ったけれど、結局、目を手で覆ってしまった。
「痛っぁ……」
手で目を覆いながら、ああ、痛いのは嫌だなぁって思っていたら、いきなり誰かに突き飛ばされた。
助けてくれたのは良いけれど、ここまで強く突き飛ばすことはないんじゃない?!ジーンズじゃなかったら、脚のあちらこちらを擦りむいていたよ!そう思って、少しばかり文句を言ってやろうと顔を上げてみれば、誰も居なかった。
痛む膝を摩りながら立ち上がり、周りを見回してみても、家族や行き交う人達どころか、中継をしていたTV局も、その中継を見ていた野次馬ひとり居なかった。
「TVのドッキリだよね、これ。これはTVのドッキリ、絶対にそう」
さっきの光の柱やら何やらも、TVのドッキリの仕込みに違いない。人影が一切ない駅前に取り残さるという状況に放り込まれた私は、これはTVのドッキリだと、自分に言い聞かせた。
TVのドッキリなら、私がここで、慌て怯える醜態を晒さないと、画的には美味しくない。ドッキリは失敗になり、誰かが出てくる。
何処をどう考えたらそうなるのか分からないけれど、頭から煙が立ち上る程の高速思考でその結論に至った私は、動揺する自分自身を無理矢理に落ち着かせ、突き飛ばされた時に奇跡的に手から離さず、壊れなかったウォークマンをOFFにした。
そうONじゃないOFFだ。ヘッドホンは掛けたまま、音を消す為にOFFにした。そして、何食わぬ顔をして、立ち上がった場所から少し離れたところにあるガードレールに腰かけた。
端から見れば、音楽を聴きながら、人影の無い駅前のガードレールに腰かけ、音楽を口ずさんで人を待つ少女の出来上がり。
小声で自分自身を落ち着かせながら、掛けたヘッドホン越しに何か物音がしないか耳をそばだてているのを、音楽を聴きながら口ずさむ姿に見せていただけ。
「もおっ!笑えないっ!いい加減にしてよっ!出て来てよぉっ!」
ガードレールに腰かけ、余裕の表情を浮かべて腰かけていられたのは多分、最初の数分だけ。
10分経ち、15分経つ頃には、余裕の表情なんて何処かに消え去り、心細さを露わにして、周りを見まわしていた。
もう、ガードレールに腰かけ続けて誰かを待つ演技をしている場合じゃない。誰か居ないかと駅や駅の周りを探して走り回ったが、誰も居なかった。
そんな訳ない、隠れているに違いないと、建物の外だけではなく、建物の中も 売店のレジ机の向こう側、売店やお店の倉庫の中、駅舎の事務所の中、駅の近くの大型商業施設の1階フロアを探した。
この時には、余りの心細さに泣きながら走り回ったけれど、誰も居なかった。
人が誰も居ないなんて、そんな馬鹿な話は在り得ない、諦めずに探せば出てくる筈と、知らない場所なので余り駅から離れて迷子になる事を恐れて注意しながらだけれど、駅から少し離れた場所も探したけれど、誰も居なかった。
泣いてしまってすっきりしたのか、それとも走り回ったのが良かったのか、泣いている場合じゃないと思って泣くのは止めた。泣いたからといって、何がどうなる訳でもないし。
「泣いても物事は解決しません。泣いている暇があるなら動きなさい」
ママにいつも言われていた事。だからそれを守るって訳ではないけど、泣いている時間が勿体ない。
不思議な事に泣き止むと、少し冷静になれた。冷静になれたからと言って、この大きな街の中をどれだけ探しても誰も見つけられなかったけれど。
「なぜ、皆が見つからないのか考えてから行動しないと」
よし!考えてみよう。大勢の人がいきなり街から居なくなるとしたら、何が理由になるだろう?
先ずは……、そうだな何かの理由で集団避難
誰かに突き飛ばされる前は、そんなアナウンスもサイレンも流れてなかった。雷がバンバン落ちてて、TV中継しているだけだった。
大体、集団避難の状態になったら、お兄ぃが私の手を掴んで離さない筈。
ああそうか、私は光の柱に囲まれて、そして誰かに突き飛ばされたんだっけ?
でもそうであっても、突き飛ばされた私を、お兄ぃや、お姉ちゃんがが放っておく訳がない。
まぁ、お兄ぃや、お姉ちゃんに甘やかされている自覚はあるよ。そんな事はどうでも良いや。なぜ誰も居ないのだろう?考えるんだ。
毒ガスで避難の時に私だけ置いてきぼりにされた。
私ひとりだけを置いていく意味が分からないし、大慌てで避難するときに散らばった物とかも無い。街は綺麗だもの。
毒ガスとかでみんな死んだ。
いやいやいや、そうであったら、私が生きている訳がない。仮に死体と間違われて置いていかれたとしても、他の死体がない。他の死体は回収して、死んだと思われた私の体だけ残していく意味がない。
確かこの駅は海に近かったから、津波か何かでみんな流された。
ああ、無理にも程がある。街は綺麗だし、瓦礫も無い。建物のガラスも割れていない。それ以前に私は濡れてない。
そもそも、そんな状態だったら、今頃ここは自衛隊さん達が一杯いて、私が放置されている訳が無い。
じゃや、やっぱりTVのドッキリ番組。
街中の人が、私が目を覆ったあの一瞬で隠れた。無理がありすぎる。ドッキリにしたって、これだけの大きな街から、あの光が強くなった短時間で人を隠しきるなんて絶対に無理。
分かってるよ。変な事くらい。こんな馬鹿な理由を考えるまでもなく、変だってことは分かってる。
焦燥感息苦しさを覚る程に胸の中で膨らむ。気が変になりそうになりながら、頭の片隅に残った冷静な部分で気付いてた。ここはおかしい、変だって。
みんなが居なくなった理由を考える前、泣き止んで、音楽を聴く真似をしていたのを止めた時に、首に掛けていたヘッドホンと握り締めていたウォークマンをショルダーバッグに仕舞った時に、最初の違和感、街の音が無い事にに気づいた。
気付いた事を、無理矢理に頭の中から追い出していたけれど、やっぱりおかしいよね。
大きな街なら聴こえる筈の音、例えば雑踏の音、行き交う車の音が聞えない。
歩道には自転車が1台も停められてないし、路上駐車の車が1台も無ければ、走っている車すらない。けれど、お店には物がちゃんとある。
まるで誰も居ない偽物の街の中に、私だけが放り込まれたみたい。
「誰も居ない。ここにも居ない。ううん、そんな事は無い筈。絶対に誰か居る筈」
生きるのを諦めない様に、敢えて自分に言い聞かせる言葉が、誰も居ない街の空気の中に溶けていく。
昔、お父さんが言っていた。遭難した時に一番してはいけない事は諦める事。だから、必ず誰かが居ると自分に言い聞かせてみたものの、本当は少し諦めている。
これだけ探しても居ないのなら、多分誰も居ない。居ない人達を探すよりも生き残る準備をしよう。
確か、駅舎の事務所にベッドがあったから、今日はそこで寝られる筈。食べ物はあの店に缶詰とジュースがあった筈。
多分、そろそろ夜が来る。さっきより薄暗く感じる。さっきより気温が下がった様にも感じる。
早く夜が来る前に用意しないと。けど、多分、私が思う夜とは違う夜が来るんだろうな。だって私の居た世界では、高い空の上から明るさの変わる光の柱が降りてきている光景なんて無かった。霞の掛かった夜空の向こうに見える月は、あんなにも大きくなかった筈だもの。




