星に恋して 4
一週間ぶりにマンションに戻ると、瞳の香り―――彼女がいつもつけているクロエの香りがした気がした。
自分の心は決まっている。
混乱していた彼女に落ち着く時間を与えたくてアメリカの実家に帰っていたが、もう待つのは限界だ。
今すぐ瞳に会いたい。
台湾からこの国に来たとき、最初に用意されていたのは、コンシェルジュ付きのタワーマンションの最上階だった。それを普通の日本人の暮らしを体験したいと、このマンションに変更したのは彼女に出会うための運命だったとしか思えない。
日本語でどう言えばいいのか分からないが、瞳は僕のソウルメイトだ。
決して手放すものか。
荷物を置くと瞳の部屋に行き、インターホンを押す。
ドアを開けたのは泣き顔の瞳で、一瞬で僕の庇護本能にスイッチが入った。
「どうしたんだ?」
親指で目尻に溜まった涙をそっと拭ってやる。
「どうして戻ってきたの?」
女優ならもっと上品に、化粧に影響が出ないよう涙を浮かべるのだろうが、ぐちゃぐちゃな顔で真っ赤になった鼻をすすりながら僕を見る彼女が、とても愛らしくてかわいく見えた。
もしかして僕のせいで泣いているだろうか。 瞳を残して帰国したと思っていたのか?
「ここが今の僕の家だから」
答えてから、この返事はまずかったとすぐに気付いた。
彼女が僕を睨みながら「何の用?」と冷淡に聞いたからだ。
自分でも気づいてはいるのだが、男ばかりの三兄弟で育ったせいか、女心がわからない言動をしてしまうときがある。
今がまさにそれだった。
今回アメリカでも、突然の息子の帰省に驚いている両親に急に帰ってきた理由を告げると、それまで黙って僕の話を聞いていた母から、あなたは一番大事な言葉を彼女に伝えてないと怒られた。
瞳は愛してると言ってくれていたし、僕からは言わなくても通じているものだと安心していたのだが、女心はそう簡単にはいかないらしい。
けれどこんな玄関なんかで伝えるわけにはいかない。
彼女の横を通り抜け部屋の中に入る。 瞳が勝手に入らないでと叫んでいるが、気にせずリビングまで行き、振り返って後ろから追いかけてきた瞳の両腕を掴む。
「さっきのこと、本気で聞いたわけじゃないんだろ? 僕が戻ってきた理由は瞳以外に何があるんだ?」
驚いたように僕を見る彼女の唇に、そっとキスをする。
「この一週間で僕たちが離れられないって分かっただろ。 きみがいないと僕の世界は意味がないんだ。 愛している。 僕から逃げないでくれ」
彼女の腰に腕を回し、きつく抱きしめる。 全身で彼女の存在を確かめたかった。
「私も愛してる」
僕の肩に額をくっつけたまま、くぐもった声で彼女が言った。
彼女の顎に指をやり、上を向かせる。
「僕の目を見てもう一度言って」
「愛してる」
それだけで十分だった。 僕たち二人はこれからも一緒に生きていける。
あとはそのことを彼女に分からせるだけだ。そう、一生をかけて二度と彼女が不安に涙することがないよう護ってみせる。
「でもっ・・・」と続けようとする瞳の唇を貪るように覆う。
激しいキスにお互いの息が上がるが、止めることはできなかった。 彼女のすべては僕のものだ。 そして僕のすべては瞳のものだ。
そっと唇を離しもう一度、愛していると囁いた。
end
読んでくださり、ありがとうございました。




