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勇者が十二人ならクソスキルはバレない〜そして、オレは追放された〜  作者: 綿木絹
第一章 十二人の勇者

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第8話 スキル紹介のバトン

 フィニス王国、異邦人の館。

 一時間経つ前に全員が一階ホールに集合した。

 オレが折れた心で椅子に座った瞬間、彼女が誰に向けてではなく、口を開いた。


「アタシたちのスキル。 ちゃんと共有しとかない?」


 終始、異世界を観察していた女の提案。

 確かに、騎士団長が来るまでは、もう少し時間がある。


 全員が手持ち無沙汰にしていた絶好のタイミングだった。


「無論、賛成だ。連携の形を作るなら早い方がいい」


 重装機械兵みたいな男が深く頷く。

 既に、王城で口にした話題だが、この繰り返しを誰も疑問に思わない。


 多分、オレしか疑問に思っていない。


 即ち、スキルを体感した後の、二度目の自己紹介だった。


 オレだけが、心を痛めるだけの共有だった。

 そして、最初に手を挙げたのがオレの隣。


「じゃあ僕から! 《唱えるが吉》だよ。詠唱文を唱えることで、魔法が発動するみたいなんだ。 マジシャン? ううん。 ウィザードって呼んで欲しいね」

「で、ウィザード様は、どんな魔法が出るの?」


 ふんわりとしたワンピースの女が、鳶色の瞳を瞬かせて尋ねた。

 雄大は胸を張り、その疼く左手で顔を覆って見せた。


「唱えるが吉は、詠唱が長ければ長いほど、強い魔法が出せる。今のところ確認できているのは火と風だね。あぁ、疼く。もう疼くよ」


 ハッキリ言って、雄大らしくない。

 寡黙に乗り切りオレのスタイルこそが、村田という男の筈だった。


 しかもコイツが遅れてきた理由がソレだ。


 スキルを確かめたかったから、部屋に閉じこもって、自家発電をしていたらしい。


「……黒くて長い詠唱とか、最適でしょ」

「ん? あれ、詠唱できるの?」


 漆黒のゴスロリドレス女が、目を剥いた。


「無論! なんなら今から」


 雄大も真顔で即答した。

 異世界に来てもブレない——

 ではなく、異世界だからこそブレないオタクたちかもしれない。


「時間ないから」

「はいっ!」


 すると栞の合図で、スキルの開示が再開される。

 しかも隣のオレではなく、栞がそのまま引き継いだ。

 そこから隣へとバトンが渡される。


「アタシの読み解くが吉は、敵の弱点や戦況の解析。それから俯瞰もできる。ソーサラーとして魔法も使える。レベルが上がったら多分、……いえ、憶測で語るべきではないわね」

「流石は閃光の栞姫だ。そして、俺は姫の剣になれる男。闇深い光剣を出現させられる。攻撃時に身体能力が上昇する……と推測される」

「推測ってなんだよ」

「まだ、レベル1だからな。 これから明らかになるだろう。次は剛だな」

「あぁ。俺の突き返すが吉は、見ての通りだ。俺はさしずめ、姫の盾だ。 物理攻撃に対するカウンター特化。魔法攻撃に有効かはまだ分からないな」


 ゲーマーたちも、自分のスキルを調べていた。

 まぁ、ここまでは予想通りだ。


 だけど


「わたくし、跳ねるが吉ですの。跳躍力と打撃の強化。足がつけば、何処でも跳躍できそうね」

「水面に葉が浮いてたら、水の上も渡れるんじゃないかな。で、ボクは囀るが吉なんだけど。ゴメンね。実はまだ試してないんだ」

「奏。 ウチが歌ってって言っても、全然歌わなかったし。ウチの踊るは、ウチの踊りで皆に力を上げられそう。あと、チャクラと相性が」

「チャクラム、だ」

「えー? 何言ってんの? チャクラってちゃんと言ったよ?」

「チャクラムとチャクラは違うのよ。……玲。 時間がないから、そういうのは後にして」


 コスプレイヤーたちも、ちゃんと調べていた。

 分析でも負けていなかった。

 そしてその後も、バトンは続く。


 いや、オレに言わせてみれば、ただの『自慢話』でしかないが。


「わたしぃ。皆さんの傷を癒せますよぉ。すごく、あたたかいんですぅ。祈るが吉、祈っちゃいますね」

「私は突き刺す。 えっと、被ってるみたいだけど、ちょっと違うから。突き通す速度とか。 レベルが上がると何でも突き通せる……から。多分、戦える」

「俺達は二人セットで行動することでシナジー効果が上がりそうなんだ」

「うんうん」


 成程。

 全員が全員。とても分かりやすい。


 オレの隣からぐるりと回ったバトンは、やはりオレへと戻るわけだ。


「速水。そろそろ教えろ。 大体、羊皮紙に書いてあるだろう」


 ビームソードの光をチカチカと漏らしながら、玲が尋ねてくる。

 完全に仕上がった勇者たちの視線が、一斉にオレの全身を貫いた。


 オレは、一拍だけ間を置いた。


 そう、実はちゃんと用意している。


「後ろで動くが吉だけど? 後衛って言ったのはそういうこと」

「後ろで動く? 確かに後衛か」


 シールド発生装置を明滅させた剛が、首を傾げる。


「移動系? それとも後方支援? 魔法は?」


 栞が即座に瞳のデータを加速させ、演算分析モードに入る。

 甘い甘い。甘い過ぎる。オレにかかれば、ルール理解もお手の物だ。


「オレも……えっと。奏さんだっけ? 同じだって。 戦って試してない。だから、分からない」


 嘘とは言い切れない。

 だって、オレもおみくじを引いたのだ。


「ま、そうだな」


 玲が、低く呟いた。

 オレの戦力価値を『値踏み』している顔だ。

 隣の剛や栞も似たような冷徹な目をしている。

 隠すのが下手なのか、それとも元よりプロゲーマーとして隠す気がないのか。


「後ろは後ろで大事な役割だろ」


 沈黙を見かねて、誠司が爽やかな笑顔でフォローを入れてくれる。


「そうだよね! 後衛がしっかりしてないと前衛は戦えないし!」


 美咲もそれに乗っかって空気を和らげようとしてくれた。


 でも、栞の興味はすでにオレから完全に離れていた。


 そもそも、入り口の方から音がしたのだ。


「来たみたいね。——騎士団長」


 ◇


 異邦人館の扉が開く。

 そこから入って来たのは、「甲冑の女」だった。

 隙間なく全身を覆う重厚なフルプレートアーマーに、深紫の厚手のマント。

 兜は被っておらず、紫色の長い髪が流れている。

 健康的な褐色の肌の大人の女の人。

 ファンタジー世界における造詣が正しいかは分からないが、オレの脳内は直感的に『ラテン系美女』という安直なタグを弾き出した。


「騎士団長のイネスだ。フィニス王国、異邦人館へようこそ」


 彼女は、感情の読めない低い声で簡潔に言った。

 そして、オレは素直に驚いた。

 騎士団長が来るというから、てっきりごついオジサンが来ると思っていたからだ。


「まずは、あの森を見てくれ」


 ガシャリと金属音を鳴らして、彼女が背後を指差す。

 王都の北側に広がる、昼間だというのにひどく影が濃い、黒々とした木立だった。


「ヴァルシア王国が去った三年後からだったか。あの森に魔物が出るようになった。王都に近い。お前たちには、あの森の──」

「ちょ、待って待って!」


 深刻な空気を切り裂くように、甲高い声がそれを遮った。

 イネスが怪訝そうに片眉を上げる。

 声の主は、おへそ周りに魔力の紋様を輝かせる踊り子だった。

 舞が両手を口に当て、信じられないものを見るように目を丸くしている。


「その鎧、どこで作ったの?! 質感の再現度ヤバすぎるんだけど!」

「フルプレートにマント、しかも紫髪……造形が完璧すぎる」


 和風イケメンへと変貌した奏も、長い髪を揺らしながら感嘆の声を漏らした。


「ていうかお姉さん超美人! 顔面偏差値も完璧!」

「コスプレか衣装かという次元ではありませんわ。女騎士。素晴らしいですわ。本物の騎士団長そのものですわよ」

「本物だが」

「ヒェッ」


 冷たく言い放たれた一言に、はしゃいでいた舞が一歩後ずさる。

 イネスは三秒ほど沈黙した。

 目の前の状況を必死に処理しようとしているらしい。

『こすぷれ』『さいげんど』とは? と小さく呟いている。


「で。……あの森の話を、続けていいか」


 努めて平坦な声だった。

 決して動揺などしていない、と言い聞かせるような響きがある。


「はい、すみません」


 舞が慌てて背筋を伸ばした。


「どうぞ、続けてください」


 奏もコホンと咳払いをして、着物を正す。

 切り替えが早いのか遅いのか判断に迷うオタクたち。

 その態度に、イネスは微かに息を吐き、もう一度北の黒い森へと鋭い目を向けた。


「あの森の調査と掃討が、お前たちの最初の仕事になる」


 静かで、有無を言わせない種類の重い圧があった。

 北の森を見る横顔が、さっきまでとは明らかに違う。

 ただ状況を説明するための業務的な視線ではない。

 もっと個人的な、深く昏い何かを抱え込んだ瞳だ。


 オレは長年アニメオタクをやっているので、こういうキャラクターの顔には嫌というほど覚えがある。


(……大切な誰かを森で、失っている。やっぱ、死ぬよな……)


 そして、居並ぶ異邦人たちも、オレとある意味で同族なわけで、ほぼ全員が察していた。

 外見の美しさや鎧の造形ではしゃいでしまった。

 そのことが、申し訳なく思う空気の中、アイツは言った。


「おま……」

「……なんだ」


 オレのダチ。

 何を言うかと思えば、


「おま……お任せ下され。 この左手に誓って、面妖な魔物どもなど片付けましょうぞ」


 噛んだだけだった。

 オレには絶対に言えないセリフでもある。


「ほう。それは楽しみにしておこう」


 そして、そんな言葉に場が和む。

 それぞれが、イネスという騎士団長を再認識していく。


「ヴァルシア王国の再興をしないと、帝国にいけない」

「通過点に過ぎない。 俺たちに任せてくれ」


 するとイネス騎士団長は、少しだけ表情をやわらげた。


「成程。これが希望の勇者たちか。 では、明日から頼むぞ。我らの希望!」

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