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勇者が十二人ならクソスキルはバレない〜そして、オレは追放された〜  作者: 綿木絹
第一章 十二人の勇者

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第6話 異邦人の館へ行こう

 案内された異邦人館は、城からそう遠くない区画にあった。

 でも、あの大きな砦の近く。一階は食堂か酒場。

 砦に門があることから察するに、旅人が利用していた宿屋だろう。

 街の他の家屋と同じ石造りの建物だが、一回りほど大きい。

 二階建ての構造で、正面には頑丈そうな木製の両開き扉がある。

 その扉の上の石組みには、見慣れない幾何学的な文字で何かが刻まれていた。


「異邦人館、と書いてあるみたいだな」


 神宮寺が扉の上の石組みを見上げて呟いた。

 オレも視線を向ける。

 まったく見覚えのない幾何学的な形をしているのに、なぜか頭の中に『異邦人館』という言葉が入り込む。


「本当だ。不思議な文字なのに、普通に読めるね」

「言葉だけじゃなくて、文字も謎の翻訳で読めるんですね」


 舞と日向が驚いたように顔を見合わせる。


「当然でしょ」


 と、如月栞が事もなげに言った。


「ゲームの翻訳MODは、寧ろ文字の方が強い」


 と、神宮寺玲が言い放った。


「音声翻訳できた時点で、文字の翻訳は確定だわ」


 と、大石剛も付け加えた。


「文字の読み書きに支障がないのであれば、こちらとしても非常に助かります」


 バルドがほっとしたように息を吐き、重い木扉を押し開けた。

 中へ足を踏み入れた瞬間、古い木の香りが鼻をくすぐった。

 決して広くはないが、清潔に整えられた空間だった。

 一階はやはり食堂、中央に長い木製テーブルと十二脚の椅子が並べられている。

 奥には暖炉があり、磨かれた窓からは明るい陽射しが差し込んでいた。

 城の広間とは違い、ここには生活のための最低限の道具が揃っている。


「二階が皆様の個室となっております。あらかじめ男女で区画は分けておりますし、一人一部屋をしっかりと確保いたしております」

「助かります。部屋割りはアタシたちがやります」

「……承知いたしました」

「食事はどうなりますか?」

「朝と夕の二食、こちらでご用意いたします」

「二食か」


 バルドは申し訳なさそうに目を伏せた。


「……その通りです」

「わかりました」


 栞たちはくるりと振り返り、不安げな顔をしている全員を見渡した。


「各自、部屋に行きましょう。十二人以上は泊まれる宿みたいよ。後で部屋も変えられるから、今は適当に。それと、他に誰もいないか確認を怠らないこと。一時間後にこの食堂に集合。その後に、バルドさんからこの国の現状と帝国の説明を詳しく聞く。それでいい?」


 誰も反論しなかった。

 というよりも、「密偵が隠れているかも、まで即座に考える彼女の思考」に、反論する者はいなかった。

 この異常な状況下で、如月栞が、自然とリーダーシップを握り始めていた。


「あの!」と、雄大が勢いよく手を挙げた。

「魔法の練習はいつから──」

「それは一時間後に聞いて」

「はい……」


 オタクの友人も、清々しいほどに従順だった。


 オレは改めて食堂を見渡した。

 無骨なテーブル、硬そうな椅子、火の入っていない暖炉。

 窓の外には見知らぬ石畳の道が続き、その向こうには青い海が広がっている。

 ここが、今日からオレたちの家になるらしい。


(……後退士の居場所なんてあるんだろうか)


 弱音を吐きそうになるのをぐっと飲み込み、オレは黙って二階への階段を見上げた。


「僕はこの部屋がいいなぁ」

「んじゃ、オレは隣にしとくわ。詠唱とか止めろよ」

「勿論。栞殿に止められているからね」


 二階の個室に荷物を置き、木製の古びたベッドに腰を下ろして数分間だけ呆然とした。

 その後、オレは重い腰を上げて部屋を出た。

 薄暗い廊下に出ると、隣の部屋の扉も同時に開いた。

 ひどく青ざめた顔色をした友人が、ふらつくような足取りで姿を現す。

 声をかけようとして、オレは息を呑んだ。


「お前、やったな?」

「し、仕方なかったんだ。なんか溜まってて。こう、左手が疼いて! パンパンまんま、集合とかしたら恥ずかしいし」


 雄大の漆黒のパーカーの左腕部分が上下に激しく揺さぶられる。

 特定の下の話題にしか聞こえないが、上下に動く左手の禍々しさが確かに薄れている。


「言い方……だけ、気をつけろよ」

「へ、へんな想像しないでよ」


 さっきまでは気付かなかった。

 左手の甲には、紫と黒が混ざった禍々しい『魔力痕』があった。

 既視感があった。正確には、中学生の時にも似たようなものがあった。


 勿論、その時はペンで書いた落書きだったけれど。


「とにかく、駆氏。僕はまだ冷めやらないから、先に行くで御座る」

「ん。何だその喋り方。行っとくぞ」


 突然の奇妙なキャラ付けに戸惑いながらツッコミを入れたが、村田雄大はオレの言葉に反応することなく、部屋の奥に戻っていった。

 自分の力に酔っているのか、それとも溢れ出す魔力とやらに精神が引っ張られているのか。

 どちらにせよ、アイツの中で何かが決定的に『書き換わった』ことは理解できた。


「……それを言ったら、全員なんだけどな」


 一人残された廊下で、オレは自分の両手を見下ろした。

 着慣れたパーカーの袖を捲り上げてみるが、当然ながら魔力痕などという中二病心をくすぐるような紋様はどこにも浮かんでいない。

 チノパンの感触も、スニーカーの重さも、何一つ変わっていない。


「間違いなく、外れスキルに外れ職業。で、戻る方法は栞……さんの言ってた通り、帝国のお宝をゲットすること。どうやってしのぐかな、これ……」


 深い深呼吸を一つして、オレもゆっくりと階段を降りていく。


「……ね! すごくない?」


 一階の食堂からは、すでに話し声が聞こえてきている。

 オレは軋む木の扉を押し開け、中に広がる光景を目の当たりにして、その場に立ち尽くした。


 窓際の席に座っているのは、キレイめカジュアルな服装の青年と、ゆるふわな茶髪の女性のカップルだ。


「うーん。アクセサリーにしてはごついけど」

「ごついとか言わないでよ。朝の星って意味なんだよー」

「モーニングスターな」


 さっきと変わっている点、それは武器や防具を手にしていたことだ。

 青年のほうは元々の端正な顔立ちと爽やかな茶髪も相まって、RPGの序盤の街にいる頼もしい若手騎士のような雰囲気を自然と醸し出している。

 そして、目を引くのは隣に座る彼女のほうだった。

 透け感のあるシアー素材のトップス。それにうまく合うデザインの法衣。

 彼女の髪は、あんなに琥珀色だったか、と目を疑った。

 神聖なクレリック。後光が差しているかのように神聖に発光していた。


「私のこの力、『清く叩く』って。そういうこと?」

「クレリックって普通は後衛のヒーラーだけど、僧兵のような武装もあるんだ。俺の『清く守る』と相性良さそうだ」

「誠ちゃん、やっぱりオタク」

「ゲームくらい、俺だってする。美咲がやらなさすぎるだけだよ」

「今はやってますー」


 髪を揺らしながら笑い合う二人。

 幸せそうで輝いて見えるのか、本当に輝いて見えるのか、分からなかった。

 男の方は完全に無知識というわけではなく、それなりには遊ぶらしい。

 その趣味につられて、彼女がゲームをする。


 なんとも、うらやましい……

 環境も、状況も。


 自分たちに与えられたジョブとスキルの連携について語り合っている。

 周囲の空気を浄化する神聖なオーラは、間違いなくファンタジー世界の住人のそれだった。


「ねえ、凛ちゃん。わたし、なんだか体がすごく熱いの……」

「大丈夫。それはきっと、日向の力が溢れている証拠よ」


 少し離れた暖炉の前の席には、まったく質の異なる空気を纏った二人の少女が座っていた。

 ふんわりとしたシフォン素材のワンピースを着た亜麻色髪の女と、重厚な漆黒のゴシックロリータドレスを纏った黒髪の女。

 亜麻色の髪の彼女の隣に立てかけられた、『光る十字の紋様』の杖。

 それが微かに瞬くのが見える。


「えー、そうかなー」

「そうよ。この力ってそういうことでしょ」


 ゴシックロリータの少女のほうは、蒼みがかった黒髪と漆黒の瞳が底知れない冷たさを湛えている。

 ヒールのあるブーツを履いたその姿は、相変わらず異世界じみている。

 華奢なはずのドレスが、わずかに輝いている。

 まるで彼女専用の鎧のように見えた。

 加えて、レイピアだろう。

 いつでも飛び出して相手の急所を突き刺せる凶悪な武器は、突き刺すが吉の彼女の為の武器と言える。

 

「わたしの力、みんなの怪我を治せるのかな」

「ええ。私が敵を全部突き刺して終わらせるから、日向は後ろで祈っていればいいわ」

「えー。わたしもかつやくしたいなー」


 光と影を体現したような二人のガチオタ女子。

 元から仲良しで、組み合わせも最強。


 誠司と美咲、凜と日向。


 あっちもこっちも、強固なバディとして成立している。


「雄大。まだ降りてこないのか?」

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