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月曜日のお昼。私は中谷さんと共にマーケとランチを兼ねたミーティングをすることになっていた。
「はじめまして、マーケで主に広報を担当している志藤といいます」
「同じく、吉原です」
志藤さんとは初対面という設定だ。志藤さんのペアを組んでいる吉原さんという男性社員とも挨拶をかわす。
ランチの店内は、全体的に照明が落とされていて、ダークトーンでまとめていて少し落ち着かない。事前に吉原さんがコース料理を頼んでいてくれたらしい。
……う、浮いてないかな。善さんに言われるままオフィスカジュアルと呼ばれるものを一式購入したけれど……。
目の前に座る二人は、ジャケットをラフに着崩しているのに洗練されている印象だ。
吉原さんは私と同い年の男性社員。善さん情報によると、甘い外見とシャープな印象から女性人気がかなり高いらしい。志藤さんとペアなだけあって、優秀な若手のホープだ。個人的には、イケメンで仕事ができます!というオーラが前面に出てると、気後れしちゃって、少し苦手かも。
「そんな緊張しなくてもいいですよ。きちんとした打ち合わせというより、軽く意見交換です」
中谷さんのえくぼを見ると癒されるし、安心するな……。
今日は、CENOTEが契約しているブランドとインフルエンサーのコラボ企画について意見交換をするらしい。
「先日お伝えした通り、先方から三度目のコラボは目新しさが欲しいと言われたので、いままでと別の方向性で考えたいなと思っているんですが」
中谷さんが切り出すと、吉原さんは眉根を寄せる。
「でも前回のモデル着用した服は数字がよかったですよね。ファン層もマッチしてします。今回も同じ系統で行くべきかと」
吉原さんが具体的な数字を出して反論を始めた。私にはよくわからないので前菜を食べておくことにする。
「マーケチームががんばってくれたおかげで購買率はよく、狙っている客層にも届いていた。だけど短期的な売り上げだったから長期的なものではないと言われたんです」
「ですが、」
「それって、もっとブランディングを強化したいということね」
「そういうことです。先方からの要望をまとめてきて――」
中谷さんはカバンから、会社用のミニパソコンを取り出した。
「優吾、パソコン持ってきたの?」
「その方がわかりやすいかと思いまして」
「今日は気軽に意見交換ということでしたよね。中谷さんは固いな」
吉原さんは浅く笑って前菜にフォークを伸ばす。
「すみません。参考になったらと思って見せるだけですから……」
中谷さんは膝の上でキーボードを叩くけれど――
「あれ、おかしいな」
志藤さんと吉原さんも怪訝な表情を浮かべる。
「……保存したつもりだったんだけど」
「データがないの?」
「もしかしてあれで保存できなかったかな……。すみません、あとでお送りします」
「あれってなに?」
志藤さんが訊ねると、中谷さんは苦笑しながらパソコンを閉じた。
「金曜日、停電でデータが保存できていなかったみたいです、すみません」
「停電でデータって落ちますか?」
吉原さんが疑うように顎を上げた。
「家で使ってるパソコン、寿命切れで。充電しながらじゃないとだめなんです。停電で落ちたときに自動保存間に合ってなかったみたいです」
「優吾って本当にうっかりしてる」
「しっかりしてくださいよー。これが僕たちじゃなくて企業だったら大変ですよ」
志藤さんは柔らかく笑うけれど、吉原さんの笑みには試すような色が混じっている。鈍感な私でも、中谷さんを見下しているのを感じた。
「停電なんてあった?」
「さあ。僕は知らないです。本当ですか?」
「ほんとですよ。金曜日の二十二時くらいですよね? 十五分くらい停電しました」
中谷さんが疑われるのが我慢できなくて、私がかわりに答えた。
「まだ会社にいたから気づかなかったわ」
「僕もです。というか、パソコンも社内の持って帰ったらいいじゃないですか」
「自宅への持ち帰りは禁止されていますから……」
「真面目に守ってるんですね。それなら買い替えたほうがいいと思いますけど」
吉原さんの言葉には棘を感じられる。
かっこいいかもしれないけれど、なんだかいやなかんじ!と苛立っていると、
「メインのパスタ料理になります。ポルチーニ茸のクリームショートパスタです」
白い大きな深皿にちょこんと乗ったパスタが目の前に置かれた。たっぷりチーズがすられていて、ポルチーニ茸の香りが食欲をそそる。
早速フォークを手に取ると、中谷さんが私にだけ聞こえる声で「残してもいいですよ」と囁いた。
「え?」
「きのこ苦手なんじゃ」
「別に苦手じゃないですよ。しいたけは嫌いですけど、きのこはわりと好きです」
中谷さんの気遣いに笑顔を見せると、
「もうびっくりさせないでくださいよ、俺、やばい店選んじゃったかと思いましたよ! 丸岡さんが苦手なものがあるってわかってるなら先に言ってくださいねー」
いや、自分がコース料理にするなら聞いておけよ。と心のなかでいいかえす。
この人は、中谷さんにどうしてこんなつっかかるんだろう。
志藤さんのことが好きだったりして……イライラしながらペンネにフォークをさしたとき、ひらめきがあった。
【私、犯人わかったかもしれません】
私は左手で、善さん宛にメッセージを送った。すぐに善さんから返事が来た。
【今夜、社食に来るように】




