SS とある露店にて
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今回のお話は小話です。SSなので、本編の裏話のようなものです。時間軸としては、学園祭3日目の朝になります。
学園祭の最終日。店を開いてからほどなくしてやってきたのはひとりの男だった。制服を着ているから学園の生徒か。淡い金髪が日の光を浴びている。商品棚の前まで来た男は、髪留めの置いてあるあたりを熱心に見始めた。何かを探しているのか?
「あ……。あの人、昨日も来ていたよ」
近くで店番をしていた同級生がそう言った。するともうひとりの店番の子がお客の生徒を見てやや興奮したように言う。
「あれってレオン=アルバート様だよね! 昨日闘技会で優勝した!」
その言葉にちらっとそのお客———レオン=アルバートを見る。闘技会優勝っていうからにはもっとごついのかと思ってたけど、そこまででもないんだな。
そんなことを考える自分の横で、ふたりの会話が続いている。
「昨日も来てたの!? その時はどんな感じだった?」
「婚約者っぽい女の子と一緒だったよ。黒い髪の」
「へえ~。じゃあ最近婚約者と仲睦まじいって話、本当だったんだあ。……いいなあ。私も誰かと一緒に学園祭回りたい」
「……回る相手いないでしょ」
「ウッ。それを言わないでえ」
そんな会話を横目に聞きつつ、自分は熱心に商品を見ている件の男に近づいた。見てみると、そいつは1本のリボンを手に取ったところだった。お! あれは……
「お客様。そちらの商品がお気に召しましたか?」
自分の言葉に男がこっちを向いた。……おっかない感じの奴かと思ったが、存外優しそうな顔をしてるな。
「ああ。これをもらえるか」
お。やったぜ。自分の作ったのが売れた。
「ありがとうございます。……もしかしてですが、贈り物ですか?」
昨日はふたりだったけど今日はひとり。しかも店を始めてすぐにきたことからこっそり婚約者に贈り物でもするんじゃないかと思ったが。
すると男は少し驚いた後、頷いた。
「よくわかったな。確かにそうだ」
「でしたら……さらにそのリボンを素敵にできますが、どうでしょう?」
自分の言葉に、男は少し興味深そうな顔をした。ようし、もっとアピールしよう。
「実はそのリボンは、私の作ったものなんです。それには私が苦心の末に編み出した技術をつぎ込んで作ったものでして。ですが昨日、さらにその効果を強くする技術が完成したんです。その技術をリボンに付け足すことができます。少々お時間はいただきますが、どうでしょうか?」
男は、ふむと少し思案気な顔をした。
「その技術とは?」
やっぱりそこは聞いてくるか。少し声を抑える。
「はい。……魔石を糸状に加工して、布に織り込んだり刺繍したりできます」
「ちなみに、それをするとどうなるんだ?」
「はい。そのリボンには、魔力を通しやすい糸を使っているんです。そのままでは弱い魔術の触媒にできるほどの力しかありませんが、この技術を使うことで魔力をため込むこともできるようになり、制限はありますが、魔法や魔術をひとつ込めることができるようになるのですよ!」
研究に研究を重ね、試行錯誤を繰り返してようやくものになったそれ。魔石を糸状に加工する技術と、それに魔力を流しても破損しないようにする加工方法。そのすごさをぜひともわかってほしくて、自分は熱弁した。
そして、その熱意が功を奏したのか、男はぜひやってほしいと言ってきた。よっしゃあ!
場所を移動して細かい打ち合わせをする。刺繍の色、出来上がりの時間、金額など。本来なら刺繍用に魔石が必要でその代金もいるのだが、その話を聞いた男は「これでもいいか」と言って魔石を出してきた。中サイズの立派な魔石だ。こりゃあすごい! 闘技会優勝って聞いたし、魔物を倒して手に入れたやつか?
ともかく、これで商談は成立だ。出来上がりは昼下がりといったところか。すぐに研究室に帰って作業をしなければ。
男は礼を言うと講堂の方に去って言った。……”歌い手の集い”かな。
それにしても、魔道具にも興味があるようだったし、中々話しやすかったな。時間があればまた話したいもんだ。
リボンと魔石を箱に入れて奥から店を出る。途中同級生に『どんな話をしたの?」と聞かれたが、当たり障りのないことを言うと、店番を任せてそのまま自分は研究室(寮の部屋)に向かったのだった。
今回のお話は、「一般生徒から見た主人公」をコンセプトに書きました。特にオチはありません。
次回更新は4月22日(金)を予定しています。




