5-17 学園祭3日目。ダメ男はプレゼントを渡す
私の拙い作品に評価やブックマークをしてくださってありがとうございます!
今回のお話は閉会式の後です。やや短めですがお楽しみいただければ幸いです。
ワイワイ。ガヤガヤ。
生徒たちの中をぶつからないように歩きながら進む。食堂の中は、たくさんの生徒たちが料理や飲み物を手に談笑していた。
「お! レオンじゃねーか!」
途中、肉にかじりついているラシンに遭遇した。傍らにはシャーロットもいる。
「おう。お疲れ。もう寝てなくていいのか?」
「そうね。激しい運動はダメって言われたけど、普通に生活する程度なら大丈夫って言われたわ」
ブドウ色の液体が入ったグラスを持ったシャーロットが答えた。
「むぐむぐ。……だけど陛下も豪勢だよな。閉会式の詫びにこんなうまい食事をふるまってくれるなんてよ」
「確かにそうね。この果実水もおいしいし」
今食堂には、多くの食事や飲み物が並んでいる。これらは王様が閉会式を台無しにしたお詫びとして用意したものだ。そんなわけで今食堂では学園祭の打ち上げの真っ最中といった感じになっている。
「でもよう。いろんな奴に話しかけられて疲れたぜ」
「確かに普段話さない人とも話したもんね」
「ふたりもか? 俺もだ」
俺もここに来るまでの間に、何度も話しかけられては足を止めることになった。同じ騎士科の生徒もいたし、全く交流のない生徒もいた。大体が闘技会でのことで、賛辞や感想だった。中には、マルバスを倒してくれてすっきりしたというのもあったけど……。
「やっぱあれか? 闘技会で活躍したからか?」
今度は別の料理を食べながらラシンが言う。シャーロットが頷きながら話した。
「毎年、闘技会や”歌い手の集い”に出た子の人気がでるのは避けられないもんね」
「ふうん。まあでも、俺にはシャルがいるから女子に声かけられても困っちまうけどな」
「へっ!?」
ラシンの言葉に、シャーロットがぴしりと固まった。ん? なんだこの空気。
「……あっ! そうだレオン君。もしかしてフィオナさん探してるのっ?」
この空気を変えようとするかのようにシャーロットが俺に言葉をかけてきた。
「ああ。そうなんだよ」
「そ、それなら確か、あっちのテラスの方にいたよ」
「おお。ありがとう」
お礼を言って、テラスの方に足を向ける。それにしても、さっきの感じ……。病院でなんかあったのか? ただの幼なじみじゃなくなったとか?
少し気になったがわきに置いておく。途中でまた声をかけられたりしながらテラスへの入り口にたどり着いた。覗いてみると、テラスにあるテーブルのひとつに、フィオナがエレオノーラ嬢たちと座って談笑しているのが見えた。俺はポケットに入っているものを確かめると、テラスの中に足を踏み出す。近づいていくと、こちら側を向いていたユーリ嬢とカノン嬢が俺に気が付いたようでフィオナの方を見て何か言った。その言葉に反応したのか、フィオナがこちらを見る。その顔はやや赤くなっているように見えた。
「ごきげんよう。皆様方。……少しフィオナ嬢を借りてもいいだろうか?」
「え! いいですよ! ほら! フィオナ!」
「え!? あの……」
声をかけたところ、フィオナ本人よりも周りがなぜかフィオナを後押しするみたいにフィオナを俺の方に押し出してきた。エレオノーラ嬢ほ俺をじっと見ているが、止めるようなそぶりはない。
「……じゃあ、少し付き合ってくれないか」
「は……はい」
フィオナを連れて、エレオノーラ嬢たちがいるところとは少し離れたテラスの端の方に移動する。この辺でいいかな。
フィオナの方を見ると、彼女は緊張しているのか、所在なさげにしている。両手を組み合わせたり離したりを繰り返していて、そわそわしているのがわかった。……俺も緊張してきた。
「……フィオナ。歌い手の集いの歌、すごくよかった。おめでとう」
素直に賞賛する。それくらい、あの歌はよかった。涙が溢れそうなくらいに、綺麗で、心に響くものがあったのだ。
俺の言葉に、フィオナは嬉しさと恥ずかしさが混ざったような表情をした。小さく「よかった」という声が漏れる。
「嬉しい……です。ありがとうございます」
そう言うと、今度は微笑んだ。その笑顔に心臓が跳ねた。……破壊力が半端なさすぎる……。この周辺だけ浄化の魔法を使っているのではと思ってしまうほど空気というか雰囲気がきれいに感じる。ここが楽園か……。
「レオン様?」
はっ!?
思考が変な方向に行きかけたのに気づき、正気に戻る。いけない。本来の目的を忘れるところだった。
俺は居住まいをただすと、ポケットから紙袋を取り出してフィオナに差し出した。
「レオン様。これは?」
「……遅くなってしまったが、昨日のお礼だ。受け取ってくれるだろうか」
「!? どうして……」
フィオナは驚いたように紙袋を見つめている。
「昨日は、君と過ごせて楽しかったから。それと、歌の練習も頑張っていただろう? いいものを聴かせてもらった礼だと思ってほしい」
「で、ですが……」
「いいから。……それに君がもらってくれないなら、捨てることになってしまうな。どうしたものか」
少し意地悪な感じに言う。フィオナは少し迷っていたようだが、「あ、ありがたくいただきます」と紙袋を受け取ってくれた。
「中を見ても、いいですか……?」
「もちろん」
フィオナが丁寧に紙袋を開けていく。中から出てきたのは……。
「あ……」
フィオナの手の上にあるのは、1本のリボン。赤い地に淡い青色の刺繍が入っている。
「これ……」
「似合うかなって思ってな……。それに露店で見ていただろう?」
昨日お店を見ていた時、アクセサリーの屋台でフィオナがあのリボンを熱心に見ていたのが一瞬だけ見えた。もしかしてほしいのかと思ったけど、足早に次の露店へ行ってしまったので聞く機会を逃してしまったのだ。だけど俺としても、頑張っているフィオナに何かしたかったし、日頃の感謝も込めて何か贈れないかと思っていたので、今日の朝に昨日の屋台まで行って買ってきたのだ。
「……どうかな?」
「あ……う、嬉しい、です。……でも、このリボンに刺繍はなかったと思うのですが……?」
フィオナはリボンをまじまじと見つめて不思議そうにしている。気が付いたか。
「ああ。それはサービスでつけてもらったんだよ。店番がたまたまそのリボンを作った人でね。話を聞いたらそれを入れてくれるっていうから入れてもらったんだ」
マルバスの騒ぎで取りに行くのが遅くなったけど、ちゃんと受け取れてよかったよ。
「あの……この刺繍、いえこのリボン全体からかすかに魔力を感じるのですが」
あ、それも気づくか。
「作った本人曰く、魔石を糸状に加工したらしいよ。あまり強いのは無理らしいけど、魔法や魔術を付与できるんだって」
「! そうなのですか! すごい……」
フィオナは手元のリボンを見つめた。しばらく時間が流れる。フィオナはただじっとそれを見ていた。やがて、それを両手に抱いて、微笑んだ。
「ありがとうございます。レオン様。……大切にします」
「……うん」
微笑むフィオナの瞳から、一筋、光るものが流れていった。
今回で学園祭編は終わりになります。小話を挟んでから次のお話に移る予定です。
次回更新は4月19日(火)を予定しています。




