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    5-14 学園祭3日目。ダメ男は襲撃を受ける

 いつも読んでいただきありがとうございます! 山は超えたから、あとは下るだけ……というわけにはいかない!?


 お楽しみいただければ幸いです。


 歌が終わり、最後のメロディを奏で終わった後、会場は静まり返っていた。静寂が支配する中、ぱちぱちと誰かの拍手が鳴る。するとそれにつられるように音はどんどんと大きくなっていき、やがて会場を震わせんばかりのものになった。それを一心に受けて、フィオナはステージに立っていた。

 今回、成り行きで俺が演奏をしたが、やったのは伴奏だけ。伴奏の音色にスキルの効果を上乗せ、みたいなことはしていない。というかできない。……この拍手と賞賛は、まぎれもなくフィオナの声と歌に贈られているんだ。俺の好きな歌が受け入れられたことも嬉しかったし、何よりもフィオナの舞台をめちゃくちゃにせずに済んでよかった……。

 フィオナがステージ脇へと歩いていくのに合わせ、俺もまたピアノから離れる。ステージの裏手に戻ると、そこには見慣れない男子生徒がいた。おそらくアメリアの伴奏者だろう。軽く会釈してから横を通り抜けた。さてと……これからどうするか。……ひとまずエレオノーラ嬢を探すか。

 すぐに気配察知に彼女の反応が現れたので、その方向に向かう。たどり着いたのは部屋のひとつ。ノックをすると”誰か”と誰何(すいか)されたので、名前を言うと、入れてもらえた。

 中にいたのは、エレオノーラ嬢とガルム、そしておそらくナギという少女の3人だった。彼女は驚いた様子で俺を見ている。

「あら、お疲れ様。いい演奏だったわ」

 俺を見たエレオノーラ嬢がそういった。それと同時に、体を覆っていた魔力が霧散するのがわかる。ガルムがあの魔法を解除したのだろう。なんとなく自分の体の具合を確認していると、ナギさんが近寄ってきた。

「あ、あの! アルバート先輩が私の代わりに伴奏をしてくれたって聞きました。……本当にありがとうございました!」

「いや、いいよ。だけど、このことは内密で頼みたい。そちらも体は大丈夫なのか?」

 寝てるだけとは聞いていたけど尋ねてみる。

「は、はい! ちょっとだるいくらいで後は大丈夫です」

「ならよかった」

 伴奏者用の控室に戻っていったナギさんを見送る。部屋に残ったのは3人。ナギさんが十分に離れたことを確認したのか、エレオノーラ嬢が口を開いた。

「改めて言うわ。ありがとう。おかげでフィオナの舞台は成功した」

 穏やかな顔でお礼を言われる。

「いや、上手くいってよかったよ」

「そうね。……ところで、今更だけどあなたってピアノが弾けたのね。驚いたわ」

「……ああ、今まで特に弾く機会がなかっただけだよ」

「あの曲もあなたがフィオナに教えたのよね? あれ。あなたが作ったの?」

「いやいやまさか」

 ……これ絶対探られてるよな。どう答えたものか。

 背中を冷や汗がつたう。

「……あれは領地にいたとき、旅商人の人が楽譜を持っていたんだ。その人が欲しがっていた魔物の素材を俺がたまたま持っていてな。それで手に入れた」

 とりあえずそれっぽい話をでっちあげる。旅商人なんていっぱいいるし、俺が討伐で魔物を狩っていたのも事実。それにあの時は魔物の素材やそれでお金を稼いだハンターたちを目当てに商人も集まってきていた。調べることは難しいはず。

 エレオノーラ嬢は、ふ~んと言いたそうな感じで俺を見ている。疑っている感じがするが、俺はさも”いま語ったのが真実ですよ”という体を貫いた。

「……まあいいわ。詮索するようなことをして悪かったわね」

 どうやらひいてくれるらしい。内心ほっとしつつ、疑問に思っていたことを聞いてみる。

「ところで、さっきの子はどこにいたんだ?」

「……寮にあるあの子の部屋で寝ていたの。なんでそこにいたのかは、結局わからずじまいだったけどね……」

「……そうか」

 この話はここまで、という雰囲気になり、俺たちは講堂の観客席へと戻った。講堂に戻ると、ちょうどアメリアが歌い始めたところだった。声は高らかにこだまし、講堂内に響き渡っている。本選に進むだけあって上手だった。

 ただ、なんだか違和感を感じた。それはそう、アメリアと相対した時に感じるなんとも言えない気持ち悪さのような感じ。エレオノーラ嬢も似たような感じなのか、ジト目になっている。

 その歌はいわゆるラブソングのようだった。大切な人がいる幸せを歌っている。歌い終わると、パラパラと拍手が起きて、やがて大きなものになった。

 アメリアは笑顔で大きく手を振りながら戻っていった。まもなく、司会が終了を宣言する。それを皮切りに、見ていた人たちが移動を始めるのが見えた。”歌い手の集い”は一応これで終了になる。後は今日の閉会式で優勝者が決まるわけだな。

「それでは、私は行きますわ。ありがとうございました。伯爵夫人様」

「いいのよ。また機会があればご一緒したいわね。できたらフィオナちゃんたちも一緒に」

「そうですわね」

 エレオノーラ嬢は母と言葉を交わし、見事なカーテシーをすると去っていった。母もまた使用人たちに撤収を命じた。テーブルたちが片づけられていく。

「それじゃあレオン。後で会いましょう」

 一度屋敷へと帰ると言う母と別れた俺は、まだまだにぎわっている学園内を歩く。さてどうしたもんか。またフィオナを誘おうかとも思ったが、エレオノーラ嬢が帰る少し前に、「午後はフィオナと楽しむ予定ですの」と母に言っていたので、邪魔しない方がよさそうだ。

 ……多分今日も病室にいるであろうラシンとシャーロットに何か差し入れでも持っていこうかな。もしいらなければ自分で食べればいいし……。ああそれと、あそこに寄ってあれを受け取らないと。そろそろできているはずだ。

 俺はさっそく屋台で売っていたサンドイッチなどを買い、病院の方に歩き出す。もうひとつの方は帰りがけに寄るか。楽しそうな様子の人の中を進みながら、久しく縁のなかった青春とでもいうべき雰囲気を味わう。大変なことも多いけど、悪くないな。

 だけど、それはすぐに終わりを迎えた。前方に現れた魔力の気配。それは自分の知る人のものだった。ただ、それはただの気配ではなく、背筋が凍るような感覚をはらんだものだった。

「主様」

 すぐそばでカヅキの声がした。ふたりも気が付いたのだろう。そして、普段は隠れているふたりが出てくるくらいやばいってこともわかった。

「もし戦闘になったら俺のサポートと周りの避難誘導を——っ!?」

とっさに防壁を形成するのと、魔力の刃が飛んでくるのは同時だったらしく、防壁に衝撃が加わる。さらに何度も、魔力の刃が飛んできた。それを防ぐ。全ては無理だったので、途中からは防壁に角度をつけて空中へと攻撃をそらした。余波で土ぼこりが舞う。

「!? なんだ!」

「きゃああ!」

 攻撃の余波で近くの屋台に被害が出たのか、悲鳴や困惑したような声が聞こえた。

「……見つけたぞ」

 土ぼこりが収まり、魔法を放った相手がふらふらした足取りでやってくる。その顔が見えたとき、俺は自分の目を疑った。“気配察知”でそれが誰かわかっていたにも関わらず、だ。

 その相手は、じっと俺を見ている。目は血走っていて、酷いクマができている。かきむしったのか頭髪は乱れてぼさぼさだ。顔にはあざのようなものも見える。それは恨みや悲しみ、絶望を混ぜ込んだような表情をしていた。

「レオン=アルバート……。お前さえいなければアア!」

 そいつは再び攻撃を放ってくる。今度は風の刃だ。俺はそれを防壁で防ぐ。……剣は持ってない。学園内は授業時以外は帯剣禁止だ。

「なんだってんだよっ!」

 俺は”纏”を発動して飛んでくる魔法を防ぎ、そらし、自分も魔法を放って相殺する。相手はさらに魔法を放とうとしてくるが、不意に小石が飛んできて妨害されている。今だ!

 足に力を込めていっきに駆け寄り、肉薄する。とっさにか殴りかかってきた相手の拳を防御し、威力を弱めに絞ったウィンドボムを放つ。それによって相手はのけぞり、数歩後退した。

「……お前のせいでエ……」

なおも掴みかかってくる相手の肘あたりを掴み、いっきに引き寄せて足を払う。相手の体がくるりと回転する。

「……がっ! ハ……ア」

 受け身も取れずに地面に叩きつけられたことで、脳震盪でも起こしたのかそいつは一気におとなしくなった。俺は警戒しながらも、そいつの名前を呼ぶ。

「ずいぶんなご挨拶だな。謝罪にしては過激すぎるぞ。マルバス」

 そう、いきなり襲ってきたのは決勝戦で戦ったマルバスだった。ただ、顔があまりにも変わっていて、少し疑ったけど。

「うるさい! ……お前のせいで、僕は全てを失った!」

 地面に転がったまま、マルバスがそう叫ぶ。その顔はさっきまでとは裏腹に、今にも泣きだしそうな表情になっていた。

 マルバスはがばっと起き上がると、俺に向けて拳を向けてきた。俺はそれを避ける。それでもマルバスは力の入っていない拳を振るう。

「僕は今まで頑張ってきた!」

 ブン!!

「侯爵家嫡男として、誰にも負けないように!」

ブウン!

「立派な騎士になるために!」

ブン

「でも、もう何も残っていない」

ブ……ン

 マルバスの叫びがどんどんと小さくなっていく。それに比例するように、拳もまた力を失っていった。そしてとうとう地面にペタンと座り込んでしまった。

「もう、何もないんだ……」

 ついには声に涙が混じりだした。いったい何があったんだ……。たった1日でここまで変わるなんて……。

「……僕は……ずっと努力してきた。……約束が……。守れるくらい、強く……」

 マルバスの声は要領を得ないうわごとみたいになっている。とここでサクヤから耳打ちが。……なるほど。昨日の負けで掌返しをされて、一気に孤立したのか。この様子を見るにまだなんかありそうだけど。で、俺への逆恨みを募らせた感じか?

「何があったかは知らないが、俺や無関係の人たちに危害を加えるのはいただけないな」

「うる……さい。どうせ貴様も、僕を見下すんだろう……。父上や、あいつらと同じ様に!」

 ギリっと音がしそうな感じに歯を食いしばりながらマルバスは言った。その目は前のような自信にあふれた感じはなく、悲しみや絶望に彩られていた。

「なんで俺がお前を見下さなきゃならない? お前は確かに強かった。言動とかに問題はあったかもしれないが、俺が今まで戦った中で一番強かったよ」

 なお、父や兄は勝負にならないくらい見事にぼろ負けしているので含まない。

「ともかく……」

 俺はしゃがみこんでマルバスと目線を合わせる。

「そんな今にも死にそうな顔してんじゃねえよ」

 事実、マルバスは絶望しきった顔をしていて、放っておいたら自殺しかねない感じだった。よほど掌返しが堪えたのだろう。

 俺の言葉に、マルバスは自虐的な笑みを浮かべた。

「は……。全て失って、何のために生きているのかもわからない僕は、確かに死人同然か。ならもういっそ———」

 死んだ方がいいかもしれないなという言葉が小さく漏れ出た。そうつぶやくマルバスの目はもう絶望しかないと言わんばかりだった。口から渇いた笑いが漏れる。……ああもうっ!

 俺はうなだれたマルバスの胸倉を掴むと、グイっと引き上げる。俺だって他人のことを言えた義理じゃないけど———

「何もないって? じゃあ、お前の胸で音を刻んでるのもはなんだよ」

 俺はやや荒い言葉をマルバスにぶつける。周囲はいつの間にか静まり返っていて、俺の声だけが響く。

「心臓の鼓動の音が、わかるだろ! お前はまだ生きてるんだ。軽々しくそんなこと言うな! 死んだこともないくせに」

 死ぬ瞬間こそ穏やかだったけど、苦しかったし、辛かった。それは逃げるための方法じゃない。生きていれば……なんてことは言わないが、安易に死を選ぶようなことはしてほしくなかった。それが例え、嫌なやつであっても。

「何も、知らないくせに」

「ああそうだよ。何も知らないよ。でもな、さっきお前、『約束』とか『守る』とかって言ってただろ? お前は確かに強かった。あの力は相当の努力を積まないとできないはず。お前にだって、何かあったはずだろ! ”立派な騎士”を目指した理由が! 死に物狂いの努力で力を手に入れたかった理由がよ!」

「……」

 俺の言葉に思うところがあったのか、マルバスがたじろいだ。

「……守れなかった約束に、誓いに、何の意味がある。それを認める人間すら……もういないのに」

「なら、俺が認める」

 マルバスから手を放して、続ける。

「お前が何をしたかったのかなんて知らない。だけど、お前が持つ力は、お前がそれをしたいと願って、努力して手に入れたものだろ。努力したのはお前だ。今まで頑張ってきたのもお前だ。そこだけは、ちゃんと誇ってやれよ。そうじゃなきゃ、誰を認めろっていうんだよ」

 そう言いながら、マルバスの肩をぽんぽんと叩く。

「……っ! ……う……」

 マルバスは、しばし呆然としながら俺を見ていたが、やがて涙を流して崩れ落ちた。そのまま泣き続ける。……収まったか……。

 ここで、騒ぎを聞きつけたのか、警備員がやってきた。そして泣き崩れているマルバスを囲むと、そのまま連れて行く。そうして周囲は再び喧騒を取り戻していったのだった。

 その中で俺は、何とも言えない気分になったのだった。

 説教のシーンはリスペクトであってパクリとかではない……はず。

 次回、閉会式です。


 次回更新は4月8日(金)を予定しています。

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[一言] 「ここで、騒ぎを聞きつけたのか、警備員がやってきた。そして泣き崩れているマルバスを囲むと、そのまま連れて行く。そうして周囲は再び喧騒を取り戻していったのだった」 重罪で何十年か刑に服したら…
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