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幕間 sideフィオナ~闘技会~

フィオナちゃんのお話の4話目です。学園祭に入ります。

「フィオナ。そこの布を取ってくれる?」

「はい。これね」

「そうそう」

 エレンは渡した布を、壁に飾りました。

 今は学園祭の準備時間です。私は、エレンやユーリと一緒に受けている刺繍の授業で作った小物を展示する作業をしています。教室の上にはいくつもの長テーブルが置かれていて、その上には様々な模様が刺繍されたハンカチやランチマット、小物入れが並んでいます。私の作品も並んでいます。ハンカチが2枚。小物入れがひとつ。丁寧に仕上げたおかげで、いい出来になったと思います。

 最後に教室前の廊下を飾りつけていたとき、廊下の向こうからレオン様が歩いてくるのが見えました。木の箱を両手で抱えています。

「! こんにちは、フィオナ嬢。学園祭の準備中かな?」

「は、はい。この教室で展示をします」

 そういうと、レオン様はヒョイと教室をのぞき込んで少し見まわした後、私の方に向き直りました。

 ほんの一瞬、視線が合いました。途端に、ドキリと胸が跳ねました。……え?

 突然のことに動揺した私ですが、レオン様に気づかれることなく、話を終えることができました。私、どうしちゃったの? 最近、こんなことばかりのような気がするわ……。


「はああああああっ!」

 キイイン!

 眼下の闘技上で、剣のぶつかる音が響きました。舞台の上で剣を振っているのは、私の知らない方々です。やがて、片方の方が勝利し、戻っていきました。

 今日は学園祭の当日。私は闘技場に来ていました。理由はもちろん、レオン様が出場されるからです。

 今まで、この場所に来ることはありませんでした。ですが、レオン様が本選に出場されることもあって、初めて、足を踏み入れることになったのです。

「初めて見るけど、なかなか見ごたえがありますわね」

「そうね」

 私の隣では、エレンとユーリが試合を見ながらそんなことを言っています。

「あ! フィオナ、出てきたわよ」

「え?」

 エレンの声に反応してみてみると、レオン様が出てくるところでした。闘技会の出場者が着る服を身に纏って、対戦相手の方と向かい合っています。

 と、ほんの一瞬の間、レオン様と目が合った気がしました。そう思った時には、レオン様は片手をあげていました。

 次の瞬間、わっと歓声が上がりました。そして、それに負けないほどの声で、「レオン様~~~」と言うアメリアさんの声も聞こえました。

「あんなに大声を出すなんて……」

「見て。カルロス様もいらっしゃるわ……」

 近くから、他の生徒の声が聞こえてきます。ですが、エレンがいることに気が付くと、みな口をつぐみました。

「……あの男。腕を上げたとき、こっちのほうちらっと見てたわよ。フィオナにしたのかしらね」

「私も見てましたわ。そうに違いないですわ!」

「ふ、ふたりとも……」

 突然のことに、言葉をなくしてしまいました。……でも、もしそうなら嬉しいわ。少しだけ、口元が緩みました。

「試合開始!」

 審判の先生の合図で、試合が始まりました。初めは、どちらも距離を取りながら魔法を打ち合っていました。それから、レオン様が剣を持って相手に肉薄するのが目に入りました。そのまま何度も剣がぶつかりあいます。

 最後はレオン様が相手の剣を叩き落し、その首に剣先を当てたことで終わりとなりました。勝ったんだわ……!

 勝者としてレオン様の名前が呼ばれると、再び歓声が上がりました。レオン様は控室に戻っていくのを見届けると、私たちは席を立ちました。これから教室で当番をしないといけないからです。

「フィオナ。明日も見に行くよね?」

 エレンの言葉に私は頷きました。レオン様は勝ち進んでいらっしゃる。明日も試合に出るはず。

「ええ。そのつもりよ」

「そう! じゃあ私も一緒に見るわ。……あの男がどこまで行くか見てみたいしね」

 それから私はユーリと一緒に教室に向かいました。エレンは気になる人がいるとのことで、闘技場に残りました。出場者の方に応援したい方がいるのかしら?

 私がユーリと一緒に教室で当番をしている間に、闘技場で起きたことを知るのはもっと後になってからでした。


「さあいよいよ始まります。闘技会2日目です! 勝ち残っている8人の猛者たちの熱き戦いはどんなものになるのでしょうか!」

 司会をされている方の声が闘技場に響きました。それから選手紹介がなされて、レオン様が会場に現れました。

 ……あ。

 レオン様の魔力が少し揺らいでいるのがわかりました。……何かあったの?

「試合開始!」

 その声が聞こえた次の瞬間。相手の方が雷の槍を生み出して投げつけるのが見えました。危ない!

 でも、レオン様がそれをよけたのがわかると、思わずほっと胸をなでおろしました。

 その後、レオン様が魔法を受けてしまったときは、思わず目を閉じ、両手を強く握り閉めました。

 レオン様が試合を制した時は、嬉しいと同時に、試合が終わったことに、安心しました。

「フィオナ。無理して見なくてもいいのよ」

 私の様子を見ていたユーリが、心配そうに声をかけてくれました。私が「大丈夫」と答えると、「気分が悪くなったらすぐに言うのよ」と言ってから、視線を戻しました。私も同じように、視線を舞台に向けます。

 ごめんなさい、ユーリ。本当は少し苦しいわ。でも、私は見てみたいの。真剣に剣を振って、鍛錬なさっていたレオン様がどこまで行けるのかを……。

 その後、今度は以前伯爵家の領地で少し顔を合わせたラシン様の試合を見ました。素人の私でもわかるくらいに、ラシン様は強かった。でも、負けてしまいました。そして、その相手とレオン様が決勝戦で戦うことになったのです。


「さあ! 闘技会もいよいよ大詰め! 決勝戦の始まりです!」

 司会の方の声に、闘技場全体が沸き立ちました。これから、決勝戦が始まるのです。

「あの子がまさかここまで来るなんてねえ……」

 そういって感慨深げな顔をしていらっしゃるのは、アニエス様です。先ほど声をかけられ、今はこうして一緒に座っています。アニエス様の向こうには、カリオン様とレオン様のお父様もいらっしゃいます。

「私もびっくりしましたよ。そんなに強いって話聞いたことありませんでしたから……」

 アニエス様の言葉にエレンがこう返しました。エレンは用事があっていなかったのですが、先ほど合流しました。

「選手入場!」

 その声が響き渡ると、ざわついていた闘技場内が一気に静かになりました。そしてレオン様と、もうひとりの選手が舞台へと上がっていきます。

 ……まただわ。

 レオン様の魔力が、また揺らいでいるのが目に入りました。前に見た時よりも大きく揺らいでいます。

「レオン、いら立ってんのかね」

「……そうだな」

 カリオン様たちの声が聞こえます。……レオン様。怒っていらっしゃるの?

 レオン様が怒っているのを見たのは、アスラの町の時だけです。今のレオン様は穏やかな性格をなさっていて、あまり怒っている姿を見たことはありません。……何があったのでしょう……?

「試合開始!」

 その合図とともに、魔法が放たれ、ぶつかり合いました。相手の方が魔法を放ち、レオン様がそれをよける。場所を変えながらそれが何度も行われ、やがて会場の中央付近での戦いになりました。

 はらはらしながら見ていると、剣をぶつけた状態で動きが止まりました。そのままの状態で時間が過ぎていきます。

 しかし、再びレオン様の魔力がぶわりと大きく揺らぎました。その魔力がレオン様の体に収束していくのと同時に、レオン様が相手の方を押し返したのです。

「……今、レオン何かしましたね」

「……おそらく、強化系の魔法かスキルだろう」

 また声が聞こえました。……そういえば、レオン様がどんな戦い方をするのか、私はあまり知らないわ。今までの戦いは、基本的な魔法が使える騎士の戦いに近いと聞いたけど……。

 ゴン‼

 突如聞こえた音に、思わず私が目を向けると、そこには、立っているレオン様と、その前に這いつくばるようにして倒れている相手の方の姿でした。いったい何が起きたの?

 相手の方は立ち上がろうとしていますが、立ち上がれないみたいです。滑っているから、足元を凍らせたのでしょうか?

 それからは魔法の応酬となりました。レオン様と相手の方の魔法が何度もぶつかり合います。あまりの激しさに、舞台の上が全て風で覆いつくされるほどでした。その中で、レオン様は何度も魔法を使って攻撃をしています。でも、それらは全て防がれてしまっていました。

 試合が動いたのは、それから数十秒ほど経ったころでした。突如として、レオン様の真上に巨大な氷の塊が姿を現したのです。レオン様はそれを振り下ろしました。しかし、相手の方も風でそれを防ごうとします。

 氷と風がぶつかり、膠着状態になりました。

しかし、風によって守られていた相手の方が急に肩を手をやりました。それと同時に守りが消え、レオン様の氷が相手の方を押しつぶしたのです!

その瞬間、会場を歓声が包み込みました。レオン様の勝利が決まったと思ったのでしょう。私もそう思っていました。

「まだ、だな」

「……そうですね」

 カリオン様たちの声が聞こえるのと、氷の塊が砕けるのは、ほとんど同時でした。氷のあった場所で、相手の方が立ち上がったのが見えたのです。

「これからが本番かしら……ね」

 そうつぶやくエレンの声が聞こえました。……なんとなく、ここからさらに戦いが激しくなるのがわかり、無意識のうちに私は両手を握り締めていました。

 そしてエレンが言ったように、さらに戦いは激しいものになったのです。

 鳴り響く剣の音。魔法同士がぶつかり合い、障壁があるにも関わらず、その余波がこちらにまで及びそうなほどでした。

 その様相に、会場は沸き立っています。

 でも、私の心は反対に、どんどんと沈み込んでいきます。舞台の上のレオン様が大けがをなさったら……と嫌なことばかり考えてしまいました。

 その時、レオン様の剣が弾き飛ばされるのが見え、私は思わず息をのみました。剣を失ったレオン様が、相手の魔法や剣をよけるのがわかりました。

 ですが、その後に響いたのは、剣をぶつけ合うのとはまるで別の音でした。

 再び始まった斬りあい。レオン様が構えているのは、魔力でできた剣……かしら。

「……ふむ。レオンは風を剣にしたか」

「うまくまとめてますね」

 レオン様のお父様の、感心したような声が聞こえました。そんなことまでできるようになっていたなんて……。それだけ鍛錬を続けていらしたのね。

 レオン様と相手の方が戦い続けてさらに時間が経ちました。私にはどちらが有利なのかはわかりませんが、長く戦いが続いているので、どちらが勝つのかわからないのかもしれません。

レオン様が相手の方の攻撃をよけて、距離を取りました。それに合わせるかのように、相手の方が手を掲げました。突如として生み出されたのは、4つの大きな風。それがレオン様に向かって放たれたのです。

 ぶつかる‼

 思わず目をつぶりました。その瞬間、大きな音がしました。同時にざわめく声も。

「フィオナ。まだ終わってないみたいよ?」

 エレンの声に、目を開けた私が見たのは、相手の方に剣を振り下ろそうとするレオン様の姿でした。

 剣と剣がぶつかり合って、引き起こされた風が私たちの近くまで迫ります。それは障壁に防がれましたが、私は、思わず体を震わせます。一瞬、寒い気がしたのです。そしてそれは、私以外の方も感じ取ったようでした。

「風と氷を融合させたのか……!」

 カリオン様の声が聞こえました。風と、氷を? ……すごいわ!

 見てみると、確かに、レオン様の振るう魔力が、先ほどとは違うものになっているのがわかりました。それが振るわれるたびに、細かな氷の乗った風が吹き荒れます。

 それぞれに魔力を振るって戦う姿は、まるで魔法を纏い、背負っているようにも見えました。

 何度も何度も打ち合い、その末に競り勝ったのは……———レオン様でした。

 レオン様の繰り出した攻撃が相手の方を弾き飛ばしたのです。そのまま場外に行くかと思われましたが、何かに当たったかのように止まるのが目に入りました。……魔力の反応があるわ。魔力障壁があるのかも。

 レオン様の魔力が、一か所に集まっていくのがわかりました。剣になっていたものが、その根元……手の方に。

 レオン様がその手を振りかぶり、思いっきり叩きつけました。その瞬間、爆風が吹き荒れて、相手の方が場外まで吹き飛ばされたのです。私はその一瞬、レオン様の顔が見えました。……その顔には何の表情も浮かんでいませんでした。でも、今までに見たことがないくらい、怒っているような気がして。少しだけ……怖いと感じました。

 レオン様の勝利が宣言され、沸き立つ会場の中で、私はそう思いました。

 外側から見ているとこんな感じに見えるっていう話になりました。

 次の更新は2月4日(金)の予定です。

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