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幕間 sideフィオナ~歌い手の集いに向けて~

 こんばんわ! フィオナちゃんのお話3話目になります。歌い手の集いに向けて突き進みます!


 前回思い付きでバレンタインネタ(のようなもの)を書きました。完全に思い付きだったので時間軸がめちゃくちゃでしたね(笑)。 今後も本編の合間に入ることもあるかもしれません。本編との関係はあったりなかったり……。

 箸休めみたいなものだと思っていただければいいかと思います。

 目を覚ますと、そこはあの部屋でした。私はソファで横になっていました。おでこがひんやりとしていて、思わず手をやると、濡らした布が置かれていました。……そうでした。私、驚きのあまり失神したのだわ。

 体を起こすと、黒い箱を操作しているレオン様の姿が見えました。そういえば、楽器による演奏が聞こえています。レオン様が流しているのでしょうか?

 私が目を覚ましたことに気が付いたレオン様は、すぐに謝ってくださいました。それから、「気分は悪くないか?」と心配してくださいました。

 それに「大丈夫です」と返そうとしましたが、私は言葉を続けられませんでした。まだあの衝撃が残っていたのもありましたが、失神して倒れるという醜態をさらしてしまったことが、何よりも恥ずかしかったのです。

 そして私は、半ば逃げるように寮の部屋へと帰り、枕に顔を埋めることになりました。うう……。

 数日経って、落ち着きを取り戻した私はもう一度あの部屋について説明を受けました。黒い箱——カラオケマシンというそうです——には、レオン様の知っている音楽がたくさん記録されていること。それらにはそれぞれ、その歌を歌った人々の声が入っていること。カラオケマシンでは、歌の上手さを判定したり、演奏だけを流したり、ガイドメロディというものでどのくらいの声の高さで歌えばいいかをわかるようにできるのだとか……。

 一通り聞いた後、一回歌ってみないかと言われたのですが、私にはレオン様がエキショウパネルと呼んだものに映し出される文字を読むことができませんでした。カラオケマシンに映し出される文字も。

 そう言うと、レオン様はすぐにマシンを操作しました。すると映し出される模様が見慣れた文字に変わったのです。あれは模様ではなくて文字だったのね……。

 驚くことばかりでしたが、私は無事に練習場所を確保することができたのでした。


 この場所で練習を始めてから早くも4日が経ちました。何度も教えてもらったので、カラオケマシンの使い方にもいくらか慣れました。

 使えば使うほどに、レオン様が得たスキルの力に驚くばかりです。音楽の再生はもちろんのこと、記録されている曲の多さにも驚きました。

 私はかつて、“記録の魔石“というものを目にしたことがあります。それは音を記録できるものでしたが、せいぜい3~5分ほどしか記録できず、かなり高価なものでした。……これは、”記録の魔石”いくつ分になるのでしょうか。

 カラオケマシンを操作すると、エキショウパネルには歌の歌詞や、本物そっくりの動く絵が流れます。歌詞の部分に出すべき音の高さが表示されたり、歌の器用さが数値として表されることも。……こんなものは見たことも聞いたこともありません。いったいどうなっているのかしら?

 でも、それらのおかげで練習がはかどっています。どう歌えばいいのかが目で見てわかるというのが、一番の理由でしょうか。

 歌の器用さを数値化するのは、最初の一度だけでやめました。……なんだか怖く感じてしまったので……。

 今、この部屋にいるのは私とサクヤちゃんのふたりだけです。……私の不出来な歌を聴かれるのが恥ずかしくて、レオン様を追い出してしまいました。……あの時は勢いでやってしまって、後で謝罪することになりましたが、レオン様は私のわがままにも等しい気持ちを尊重してくださいました。サクヤちゃんがいるのは、聞いてくれる人がいた方がいいだろうというレオン様の配慮です。

 サクヤちゃんは、歌の感想は得意ではないみたいです。でも、耳がいいみたいで、私の声の出し方について何度か話してくれました。

 練習を終えて部屋の外に出ると、近くでレオン様が剣を振っている姿を見るようになりました。普段は見ることのないその姿に、なんだか胸がざわつきます。剣が振られるたびに風を切る音が聞こえ、それをするレオン様の顔は真剣そのもので……———。

 ……っ! じっと見ていたら失礼だわ。お礼を言わなければ。でも、今声をお掛けするのはやめた方がいいかしら?

 集中している様子のレオン様に声を掛けてもいいか迷っていると、私に気が付いたレオン様が声をかけてくださいました。

 少し話しただけなのに、なんだか体の奥がじんわりと温かくなるようです。最近、そう感じることが多くなりました。これは何なんでしょうか?

 翌日。今日はエレンたちと練習することになっていました。待ち合わせの場所で合流したエレンに案内されたのは、芸術科の教室でした。そこには、カノンとひとりの女子生徒がいました。カノンが本選で私の伴奏をしてくれる人を見つけたと言っていたので、彼女がその人なのかもしれません。あれ? この方は確か……。

「あ! フィオナにエレン! 紹介するわね。この子は私のひとつ下の後輩なの。ピアノはもちろん得意よ」

 カノンがそう言うと、隣にいた女子生徒がカーテシーをしながら話し始めました。

「ごきげんよう! あたしはナギ=ファ=アスタと申しますわ。カノン先輩にはとてもお世話になっておりますの。おふたりに会えて光栄ですわ」

 ナギさんはくりくりとした緑色の瞳を輝かせてそう言いました。私もまた彼女に挨拶をしようとしたのですが、それよりも先に声を上げたのはエレンでした。

「ごきげんよう。アスレイル侯爵家のエレオノーラと申しますわ。少し聞いてもいいかしら?」

「は、はい!」

「あなた。何のためにここにいるのか、きちんと理解しているの?」

「はい! 歌い手の集いの本選に進まれた、ミストレア先輩の伴奏をしてほしいと頼まれました」

「……そう。……なら、フィオナの伴奏、やってくれるのね?」

 念を押すように、エレンは言いました。余程迫力があったのでしょうか。ナギさんは一瞬体を震わせましたが、すぐに言葉を返しました。

「もちろんです。ミストレア先輩を私は尊敬しているんです! 私は魔力が少なくて、ほとんど魔法が使えません。それで落ち込んでいた時もありました。でも、カノン先輩からフィオナ先輩のことを聞いて、すごいなって思ったんです。あたしでフィオナ先輩の助けになれるのなら、精いっぱい頑張ります!」

 ナギさんはそう言うと、エレンをじっと見ました。

 エレンは、しばらくナギさんを見ていましたが、うん、と小さくつぶやくと、振り返りました。

「フィオナ。フィオナはナギさんのこと、どう思った?」

 私は少し考えた後、ナギさんを見ました。

「……尊敬するなんて、初めて言われた気がするけど、とっても嬉しいわ。……それに、確か以前、お花の水やりを手伝ってくれましたよね? あの時はありがとう」

 花壇にお水をあげていた時、2回ほど手伝ってくれた方がいたのです。それが彼女でした。

「お、覚えていてくれたんですか!?」

「はい。……ナギさんの気持ち、嬉しいわ。……よろしくお願いしますね」

 私の言葉を聞くと、ナギさんはぱあっと顔を輝かせました。

「はい! 全力で頑張ります!」

「それと……フィオナ、で構わないわ」

「え⁉ じ、じゃあ、フィオナ先輩とお呼びします」

 はにかみながら話すナギさんを見て、私もまた口元に笑みを浮かべたのでした。

 次の日から、ナギさんとの練習が始まりました。使う楽譜は、レオン様が用意してくださいました。ただ、スキルの力で出したものだからか、2日ほどで消えてしまうのだそうです。

 ……それなら、2日に1度はレオン様に会えるのね。

 そう思うと、なぜだか、胸のあたりがじんわりと温かくなる感じがしました。

 私の持ってきた楽譜を見たナギさんは、見たことも聞いたこともない曲だと驚いていました。「フィオナ先輩が作った曲なんですか!?」と聞かれましたが、私は「知り合いに貸してもらったのです」とだけ答えました。

 ナギさんは、しばらく楽譜をじっと見つめて、それから読み始めました。そして読み終わると、「絶対に弾きこなして、フィオナ先輩を輝かせて見せます!」と瞳を輝かせながら言いました。

「だから、まずはこの曲を聴きたいです!」

 ナギさんが次に放った言葉に、ドキリと胸が騒ぎました。

 ナギさんは、自分が弾く際の参考にしたいので、できたら一度聴いてみたいのだそうです。聴くっていうのは、きっともとになった曲のことよね。でも、あの部屋を含め、レオン様のスキルのことを話すことはできない。他言無用と言われましたし、あのスキルのことを、軽々しく人に話してはならないのは、使っているからこそよくわかります。でも、ナギさんはすごく真剣です。どうしたら……。

 考えた末に私が出した答えは、「自分が歌の部分だけ歌う」ことでした。

 ナギさんは、主にリズムや曲の流れを知りたかったみたいで、むしろ「先輩の歌声が聴けるなんて……」と感激していました。こんな風に初めから明け透けな好意を向けられることはあまりなかったので、なんだか照れ臭いわ……。

 私は、自分用にと持っていた楽譜を手に、歌いました。授業ではない場面において、誰かの前で歌うのは、ずいぶんと久しぶりでした。

 ふと、レオン様のコンサートを思い出しました。あの時に聴いた歌を、今は私が歌っている……。それがなんだか、とても素敵なことのように思えました。

 所々つっかえながらも、私は最後まで歌いきることができました。歌が終わった後の教室はシンと静まり返りました。エレンとナギさんを見ると、エレンは驚いたような顔をしていて、ナギさんはうつむいて、プルプルと小刻みに震えていました。……もしかして、言葉をなくしたり、笑いをこらえるほどに不出来だったの?

 ふいにナギさんが顔を上げました。その目には、今にもこぼれそうなほどに涙がたまっていました。

「すごく……すごくよかったです! フィオナ先輩の声がきれいで……。歌も初めて聞く歌でしたけど、なんだか心に染み入ってくる感じで、いいなって思いました! ますます楽しみになりました! 頑張ります!」

「フィオナの声、透き通った感じで、歌い方も歌詞を一つひとつ大事にしてるのがよく分かったわ。……でもまだ練習が必要ね」

「あ……ありがとうふたりとも」

 私の歌が受け入れられたことにほっとしました。

 こうして、“歌い手の集い”に向けて、また少し私は進んだのでした。


「あの……今日も、使わせてもらいますね」

「うん。俺はまたここで鍛錬をしてるから。何かあったら呼んでくれ」

「はい」

 私はレオン様の言葉に頷くと、見慣れてきた扉の中に入りました。……最初は驚いてばかりだったけど、ずいぶんと慣れてきたように思います。マシンの扱い方にも。ただ……指を滑らせて操作するのだけは未だに慣れなくて、恐る恐るという感じですが……。

 今日はナギさんに用事があって遅くなるそうなので、この部屋で練習した後に合流する予定です。

 初めはナギさんの演奏とタイミングが合わなかったり、間違えたりすることもありました。でも、今は最初の頃が嘘のように歌うことができるようになりました。

 ナギさんは私の練習に根気よく付き合ってくれました。彼女は気さくで、明るくて、少しアンナに似ています。だからかしら。私がナギさんと仲良くなるのにそう時間はかかりませんでした。今ではエレンたちと一緒にお茶をするほどになりました。……お友達が増えるのはうれしいわ。

 今の私は、2回ほど歌っては休憩をするというのを何度か繰り返して練習をしています。休憩の時には飲み物を飲んだりするのですが、その時に、記録されている音楽を聴くのが近頃の私の楽しみでした。レオン様にも、「好きに使ってくれて構わない」と許可をもらい、私は休憩のたびに未知の歌を聴きました。……不思議な歌ばかりなので、やはり恐る恐る、といった状態ではあります……。

 そのうちに、私はレオン様が歌ってくださった曲を見つけ、聞く機会がありました。そして驚いたのは、あの時に歌っていた4曲のうち、3曲が女性の方が歌うものだったことです。

 音を低くする処置をしていたとしても、女性が歌う曲を男性の方が歌うのは大変だったと思います。それでも私のためにあの曲たちを選んでくださったのね。

 今まで、誰かが私のために何かをしてくれるなんて、期待したこともありませんでした。だからこそ、エレンやアンナにはとても感謝しています。そして今は、レオン様にも……。

 それ以外にも発見がありました。それは私の歌う歌には、いくつもの種類があることでした。これもマシンを操作しているときに気が付きました。

 この歌にはなんと4つの種類が存在しているみたいでした。好奇心に駆られた私は、それぞれを聴き比べてみました。

 1つ目の歌は歌詞は同じでしたが、歌う人が違いました。

 2つ目の歌は歌詞の一部が違い、歌う人も違いました。楽器も聞いたことのないものが使われているようです。ピアノとは違う不思議な音の楽器でした。

 3つ目の歌は2つ目の歌と歌詞も歌う人も同じでしたが、楽器の演奏が違いました。

 すべて聞いて思ったのは、私が歌っている歌と1つ目の歌はたくさんの人に向けて歌っている曲で、2つ目と3つ目の歌はたったひとりの人に向けて歌っているようだということでした。

 たったひとり……。ぼんやりと、レオン様の姿が浮かびました。……っ!?

「……っ———ふう」

 レオン様の姿が浮かんだことに動揺して、危うく飲んでいた紅茶をのどに詰まらせるところでした。でも、なんでレオン様の姿が? それになぜか胸がどきどきと大きな音を立てています。

 私には、この現象が何なのかわかりませんでした。だけど、じきに収まったので、その時は練習で疲れていたのだろうと考えただけでした。

 フィオナちゃんのお話は”歌い手の集い”が終わるまで続く予定です。次回更新は2月25日(金)を予定しています。それではまた!

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