4-19 ダメ男は防衛戦を行う④
“ウィンドカッター”
風の刃によって、氷漬けになった魔物が粉砕される。俺はできた道を通って、領主館に急いだ。
途中からは剣で薙ぎ払いながら進む。……たしかもう少ししたら味方の騎士がいた気がする。魔法の巻き添えにしたら大変だからな。
そして氷のエリアを抜けると、そこはもう領主館の前だった。だけど、そこではまさに戦闘の真っ最中だった。凍るのを免れた一部の魔物が、懸命に戦う騎士たちに襲い掛かっている。そして、俺に気が付いたオークが3体、俺の方に向かってきた。
“ウィンドボム”
俺は圧縮した風の球をオークたちに放った。暴風を受けて1体が吹き飛ばされて後方に転がり、1体は脚をとめ、最後の1体は吹き飛ばされて氷のエリアに落ちていった。すぐさま身体強化した足で地を蹴り、氷を纏った剣で脚を止めていたオークを斬り、そのまま突進して後方に転がっていたオークも斬る。
どちらも斬られたところから凍り始め、そのまま凍り付いた。
俺はそのまま、入り口に向かおうとしたのだが、次の瞬間、領主館2階の窓ガラスの一部が吹き飛んだ。その時に、何かが爆発したような音も聞こえた。……これって……。
俺はガラスが吹き飛んだあたりをしっかりと確認すると、急いで建物の中に駆け込んだ。あれの音が聞こえるってのは相当やばい状況じゃないか⁉ 先ほどの音はおそらく、フィオナに渡しておいた護身用のやつが作動したことによるものだろう。
そして建物内に入った途端、風切り音と共に俺の頭を何かがかすめる。やばいと思い、その場で横っ飛びをした瞬間、何かが俺がいた場所を通り抜けて行った。体勢を立て直した俺が見たのは、エントランスの階段の上から矢で俺を狙う盗賊らしき人の姿だった。
そいつは次々と矢を打ち込んできた。俺もまた、魔法で応戦する。……2階に行くには、そこの階段を上る必要がある。何が何でも通らせてもらう‼
俺は相手が矢をつがえているタイミングで、風魔法を身体——特に脚の部分に纏わせると、駆け出した‼ 先ほどよりもずっと早いスピードで盗賊へと迫る。だけど俺が迫るよりも、矢をつがえる方が早い。でもこっちだって無策で突っ込んでるわけじゃない‼
俺は剣を盗賊に向かって振った。もちろん届いたりはしない。だけど振った瞬間、剣から風の斬撃が飛び出し、横なぎの軌道で盗賊襲い掛かった‼ それは弓を切断し、盗賊の腹に直撃する。そして俺は階段を登り切って、そいつの前に立った。斬撃の余波で吹き飛ばされたのか、壁に寄りかかる形になっている。ひとまず俺はそいつに氷球をぶつけて無力化し、先を急ぐ。
俺が行くべき道は、すぐにわかった。通路に凍った場所や、身体を半分以上凍らせた盗賊の姿があったからだ。そして、彼女の護衛をしていたというメイドからも話を聞いて、道なりに進んでいくと、窓ガラスが盛大に割れている場所を発見する。……ここが外から確認した場所だろう。つまり、彼女は近くにいる‼ 俺ははやる気持ちを抑えながら、先に進む。
曲がり角に差し掛かったところで、角の先から突風が吹いてきた。俺はそれに耐えるように立ち止まる。風がやみかけたとき、角の先で悲鳴が聞こえた。まさか……‼
「フィオナアアアアァァァッ!」
思わず名前を叫びながら、角を曲がってその先を見る。そして俺が見たのは、フィオナの腕をつかんでいる、ひとりの女の姿だった。
そいつは侍女のお仕着せを着ていたが、フィオナが苦痛に顔を歪ませているのを見て、敵だと判断した俺は、剣で攻撃しようと足を踏み出した。
だが、女はフィオナをむりやり引き寄せると、首に腕を回して彼女を盾にするかのように、前に出す。そしてナイフを彼女の体に向けた。
「動くな! 動いたらこのお嬢ちゃんの命はないよ‼」
そう言うと、腕にぐっと力を込めた。首がしまったのか、フィオナは「うぅ……」と苦し気な声をあげる。……これじゃあ手が出せない……!
歯ぎしりをせんばかりの表情で相手をにらみつける。女は勝利を確信したように、こちらを嘲るような表情を浮かべた。
「ほらほら、早くその物騒なものを床に置きなさい。そうしないとこのかわいい顔に傷がついちゃうわよ?」
そう言いながらナイフを動かす。……くそっ!
俺は女をにらみつけたまま、片手で持っていた剣をゆっくりと下ろす。そしてゆっくりめな動きで、しゃがみこんでいった。ゆっくりだ……。不自然に見えないように。焦るな。焦るな……。
「私は……大丈夫ですから……」
聞こえてきた声に、思わず声の主を見る。フィオナは、弱々し気な笑みを浮かべていた。
「私に構わず、この人を倒してください」
思わぬ言葉に、彼女を捕まえている女も驚いている。俺は口をつぐんだまま、彼女の言葉を聞いていた。
「私がいなくなっても、悲しむ人はいません。それに、この人を逃がせば、きっとたくさんの人が悲しむことになってしまう……」
彼女は、泣いていた。でもそれは悲しみによるものではなくて、まるで役に立てることを喜んでいるようだった。死んで役に立てるなら本望だと言わんばかりに……。
「こりゃあ傑作だ。なら、さっさとあんたを倒して、この子を連れていくとしようかね」
そう言って女がナイフをこちらに向けた。そして一歩ずつ近づいてくる。もちろんフィオナを盾のようにしたままで、だ。ナイフを持っていない方の手は、フィオナの首にかかっている。
フィオナは「レオン様……早く……この方を」と引きずられながらも俺に訴えて来る。もう全てを諦めてしまったような顔で。……俺は、そんな顔をさせるためにここに連れてきたわけじゃないんだぞ‼
やがて女は、膝立ち状態の俺の前までやってくると、ナイフを俺の首筋に当てた。冷たい金属の感触が肌に触れる……。
「何か言い残すことはあるかい?」
勝利を微塵も疑っていない女の声がする。なら、言わせてもらおうか。
俺は今まで少しずつ流し続けていた魔力を操ると同時に、口を開いた。
「俺は……そんなことを言わせるために、ここへ誘ったんじゃない……」
きっとフィオナを見ながら続ける。
「ふざけたことぬかしてじゃねえぞ。フィオナァ‼」
そして喉元のナイフの刃をつかむ。手の甲に焼けるような痛みがはしったが構うものか‼
「な⁉ こいつ! ……あ……れ? なん………で?」
俺の行動に驚いた女は、反撃しようとしたが、すぐにふらつき、立っているのもやっとという状態になった。顔は白く、ゼーゼーと苦しそうにしている。俺は力の抜けた女の手からナイフを奪い取ると、フィオナを救出する。フィオナは何が起きたのか分からない様子で、ぼんやりとしていた。俺は力が抜けてへたり込んでいる女に向けて氷球を投げて、拘束した。………ふうぅ。
不意に外で、雷が落ちるような大音量が響き渡る。窓から広場を見てみると、見慣れた人影が、広場の魔物を蹴散らしているのが見えた。……ああ。もう大丈夫だな。
安心したら、急激に疲れが襲ってきて、俺は壁を背にずるずると座り込む。そう言えば、もう6時間以上、戦っていたんだっけ? だめだな、もう。体は重いし、眠くてしょうがないや。
どんどんと薄まる意識の中で、俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、それに答えることもできないまま、俺の意識は闇に沈んでいった。
ここまでで、町での戦いは終わりになります。ですが、領地編はもう少し続きます。
私の作品を読んでくれていつもありがとうございます! ブックマーク、評価、どちらも増えていてビックリです。拙作ではありますが、これからもよろしくお願いします!




